都民ファーストの会が7日夜、会派や党の決定に反した採決行動を取ったとして、3人の都議を除名した。きっかけは昨晩からの報道にもあるように、都立高入試への英語スピーキングテスト導入を巡る問題だったが、今回の造反劇は、3年前に3人の新人都議が自主的に離党した時以上に組織崩壊の予兆が見え隠れている。
都民ファ3人造反、賛成票で党除名 東京都議会本会議、英語スピーキングテスト「入試に使わない」条例案否決
https://t.co/epm5TmQS8h— 東京新聞編集局 (@tokyonewsroom) October 7, 2022
他にもいた「造反者」
この日都議会で採決されたのは、英語スピーキングテストを都立高入試の合否判定から外す条例案。東京都独自の英語入試改革で、今年11月27日に、都内の公立中学3年生全員を対象に英語を話す能力を判定する。このテスト結果は年明けの都立高入試に反映する。しかし大学入試改革でもそうだったように、この手の改革は反対が少なくない。スピーキングテストの運営をベネッセコーポレーションが行う民間委託方式に「企業の利益誘導になる」などの批判の声が上がっているようで、これも既視感がある。
スピーキングテストへの是非には今回踏み込まないが、事実としては、そうした反対の声を受け、都議会の立民と維新が条例案を提出した。しかし両者は都議会の少数会派だ。これに対し、知事与党である第2会派の都民ファはテスト導入の推進派であり、自民、共産もそれぞれの思惑から都民ファと共に条例案に反対。採決の結果、賛成21人、反対98人の反対多数で否決された。
異変があったのは、都民ファから3人の都議が党の方針に反して賛成に回ったことだ。造反したのは、桐山ひとみ(西東京市)、田之上郁子(江戸川区)、米川大二郎(葛飾区)の3都議だ。しかし、実は造反の可能性は他にもまだあった。当の桐山氏が先月28日にツイッターで図らずも述べているが、保坂真宏(台東区)、森愛(大田区)の両都議も立民などが仕掛けた条例案に乗ろうとしていたようだ。
立憲の条例案に対して都民ファーストの会派としては、共同提案者にはならないとしています。しかし桐山、田の上、米川、保坂、森の5人は共同提案者になりたいと会派にも伝えていますが認めてはもらえませんでした。議会局も議運の委員長も自治法上提案者になれるとしているが、都議会は会派制つづく↓
— 桐山ひとみ【東京都議会議員】 (@kiriyamahitomi) September 28, 2022
3年前の離党劇より深刻
都議会に詳しくない人は5人の名前も初めて知ったというところだろうが、そのバックボーンを見てみると、3年前にもあった3人の都議(当時)の離党より事態が「深刻」に思える。
当時、筆者はアゴラで3人の離党の動きをどこのメディアよりもいち早く報じたが、離党した奥澤高広、斉藤礼伊奈、森澤恭子の3氏はいずれも小池知事の東京大改革の理念に賛同し、政治塾の受講を経て公認・当選した新人という点で共通する。そして、この3人は政治的な後ろ盾があったわけではなかった。奥澤氏は西村康稔経産相の元秘書で政治経験はあるが、自民党を飛び出してきた。斉藤氏はleccaの芸名で知られるレゲエ歌手、森澤氏は日テレ記者、森ビル広報などを歴任したバリバリの民間出身だった。
ところが今回、造反あるいはその寸前まで行った5人の多くはもともと政治経験や基盤を擁し、しかも出身母体が自民・民主と分かれている。
5人のうち3人の女性都議は旧民主系。田之上氏は民主党に所属して都議を1期務め、現在3期目の中堅。都議の前には区議も務めた。桐山氏も民主党時代から市議を5期務め、森氏も同じく民主党時代から区議を3期経て、それぞれ都民ファの都議に転じた。3人の女性都議は労組などの政治基盤を擁しており、「一定期間、無所属でワンクッション置いた後、立民に合流するのでは」(他会派の都議)との観測がある。
遺書事件ゆかりの都議も…
一方、米川氏と保坂氏は自民党系だ。特に保坂氏は名前でピンとくる政治好きの読者もいるだろうが、元参院議員の保坂三蔵氏を父親に持つ世襲政治家だ。区議1期を経て都民ファに鞍替えした。
ここで注目すべきは米川氏の歩みだ。都庁職員を経て、葛飾区議を経験した後、こちらも都民ファの都議に転じたが、区議になる前は、樺山卓司元都議の秘書を務めていた。この名前を見て刮目する都政ウオッチャーはいるだろう。
樺山氏は2011年在職中に自死。その際、「都議会のドン」内田茂都議(当時)に「ギリギリといじめ抜かれた」などと訴える遺書を残しており、2016年都知事選に小池氏が自民党と袂をわかって出馬した際、元知事の猪瀬直樹氏が入手した樺山氏の遺書をツイッターで公開(参照:夕刊フジ)。これがネット上で大きな波紋を呼んだ。
NewsPicsに猪瀬ロングインタビュー「東京のガン」あり。「自民党の皆さん、旧い自民党を破壊してください」内田茂幹事長の陰湿ないじめに耐えられず自殺、樺山都議の遺書、擲り書き切ない。 https://t.co/oD2ZCRkiTS pic.twitter.com/T0nDZHPJ17
— 猪瀬直樹 【作家・参議院議員、日本維新の会 参議院幹事長】 (@inosenaoki) July 13, 2016
選挙戦終盤には、小池氏が葛飾区内の街頭演説で、樺山氏の妻が応援に駆けつける「仇討ち」劇を披露。これがスポーツ紙のネットニュースで速報され、ヤフートピックスにも掲載。ネット上でまたも反響を呼んで小池氏の圧勝をダメ押しした。
そうした経緯から、自民党都連は、袂を分かった小池氏への“近親憎悪”は根深く、自民系の2人は民主系の3人以上に「戻れる」見通しはない。しかも小池都政誕生と「因縁」のある樺山元都議の秘書だった米山氏までが造反してしまうのだから、都民ファ内部に走り始めた亀裂は報道されている以上に深刻だと見るべきだろう。
「小池&荒木商店」のガバナンス破綻
ここまで軋みが隠せなくなった要因は何か。ある都政関係者は「桐山氏と荒木(千陽)代表の対立が抜き差しならぬ段階になった」と指摘する。
周知の通り、荒木氏は今夏の参院選に出馬し、小池氏と国民民主党の支援を得たが惨敗。出馬により都議も失職したはずだが、いまだに代表職にとどまっている。小池氏は表向きには特別顧問という位置付けで、都民ファとは少し距離を置いているものの、荒木氏が小池氏の意向を受けて、党を切り盛りしている実態に変わりはない。
振り返れば、2017年の音喜多駿、上田令子両都議の離党も、先述した19年の奥澤氏ら3人の離党も、荒木氏の独善的な党運営に愛想を尽かしてのことだった。過去2度の離党劇の後、組織的に大きく瓦解するには至らなかったが、荒木氏の参院選惨敗により、都民ファは「小池人気」への依存度は高まるばかり。しかし、その小池氏も齢70となり、衆院は東京の選挙区が5つ増えることも見越し、国政復帰の観測も絶えない。
小池氏に近い関係者が筆者の取材に「荒木氏は、小池氏が自民に戻らないようあの手この手で苦心してきた」と組織構造の脆さを指摘すれば、「離党予備軍はまだまだいる」と前出の都政関係者。今度こそ小池都政の「終わりの始まり」になるのだろうか。