国産中古車が海外に流出する要因としてよく挙げられるのが「25年ルール」。これは初度登録から25年経過した中古車は、クラシックカーに認定されて規制緩和されるというアメリカの決まりだ。
そしてもうひとつの要因が「JDM」。「ジャパン・ドメスティック・マーケット」の略で、日本国内向けに製造された右ハンドルの専用モデルを乗るのがクールだという、欧米で人気のカルチャーだ。
ところがこのJDMによって、スポーツカーはもちろん、海外で販売されない意外なモデルにまで注目が集まるようになってきた。その代表が軽自動車だ。
中でも軽トラックは、大型のピックアップトラックの本場である北米でも、私有地の中を走り回るカートのような感覚で大人気となっている。そこで今回は、本場のピックアップトラックユーザーも認める軽トラックの魅力を紹介しよう。
文/萩原文博、写真/スズキ、ダイハツ、AdobeStock(トップ画像=beeboys@AdobeStock)
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「農繁仕様」というグレードもあるスズキ キャリイ
現在、日本国内で販売されている軽トラックは、OEMを除くとスズキ キャリイとダイハツ ハイゼットの2モデルに集約される。とはいえそこは軽トラック、“働くクルマ”らしくバリエーションが豊富なのだ。
まずスズキ キャリイだ。現行型キャリイは2013年8月に登場した。グレード構成は上級グレードのKXとエントリーグレードであるKCの2種類だが、KCのバリエーションがすごい。
まずベーシックなKC(受注生産)とエアコン・パワステ付き、さらにぬかるみなどで片輪が空回りした時に脱出を容易にするデフロックと、悪路走破時に威力を発揮する高低速2段切り替え式パートタイム4WDを採用した「KC農繁仕様」がある。
農繁仕様にもパワステ付きとエアコン・パワステ付きがあるため、KCは合計5モデルとなる。
キャリイの特徴だが、段差をクリアーしやすくするため、アプローチアングル19.8°、バンパー地上高274mmを確保。さらに路面の起伏に車体が接触しにくいように1905mmのショートホイールベースを採用するなど、まさに機能がデザインに活かされている。
さらに「軽トラはキャビンが狭い」という声を受けて、2018年5月にはスーパーキャリイがラインナップに加わった。
このクルマは標準のキャリイに対してキャビンを後方へ460mm拡大し、広い室内空間を実現したもので、クラストップのリクライニング角度最大40°とシートスライド量180mmを誇る(※助手席シートスライド量は100mm、助手席シートリクライニング角度は24°)。
全高も1885mm(キャリイ+120mm)の全車ハイルーフ仕様なので、大柄な人でも余裕をもって座ることができる。
頭上にはファイル等の収納に便利なオーバーヘッドシェルフを標準装備しているほか、座席後方には大容量のシートバックスペースを確保。
高さ920mm×横幅1,235mm×長さ250mmのシートバックスペースは、荷台に置けない貴重な工具、雨に濡らしたくない衣類や食品、大事な書類など、さまざまな収納に活用できるようになっている。
ハイゼットトラックは2021年暮れにフルチェンジしたばかり
お次はダイハツのハイゼットトラックだ。現行型ハイゼットトラックは2021年12月にフルモデルチェンジを行ったばかり。
今回のフルモデルチェンジでは商用車に初めてDNGAを採用し、プラットフォームを一新。加えてFR用CVTを初採用するなどパワートレインを刷新し、燃費や静粛性、発進性等の基本性能を向上させている。
駆動方式はCVT車にクラス初となる電子制御式4WDを採用。この4WDシステムは、用途に応じお客様によるスイッチ操作で2WD/4WD AUTO/4WD LOCKの3モードを選択可能で、AUTOモードでは、乾燥した路面でのタイトコーナーブレーキング現象を抑制する。
また、従来MT車のみに搭載されていたスーパーデフロックを初めてCVT車にも設定し、ぬかるみ等での悪路走行をサポートしている。
さらに、シートリライニング量の増加や広いシートバックスペースを確保したハイゼットトラックジャンボも設定。このモデルはハイゼットトラックの販売台数の約20%を占めていて、リーズナブルなスタンダードグレードを新設定した。
フロントシート後部に設けたスペースにより室内の積載性が高く、シートのリクライニング、助手席シートスライドが可能で、高い利便性と快適性を実現するだけでなく、前席頭上のオーバーヘッドシェルフを標準装備し、使い勝手の良さを向上しているのが特徴だ。
特装車は用途別のネーミングがユニーク!
ここからはキャリイ、ハイゼットをベースに専用の架装を施した特装車を紹介していこう。
キャリイの特装車には大きく「ダンプシリーズ」、「食品シリーズ」、「垂直式ゲートリフター」の3タイプが用意されている。
一方のハイゼットトラックは「ダンプシリーズ」、「リフトシリーズ」、「保冷・冷凍シリーズ」という3タイプで、キャリイの「食品シリーズ」とハイゼットの「保冷・冷凍シリーズ」。そしてキャリイの「垂直式ゲートリフター」とハイゼットの「リフトシリーズ」が同カテゴリーのライバル関係となっている。
まずダンプシリーズは、運転席からスイッチで操作可能なパワフルな電動油圧式ダンプ機構を搭載し、4WD・5MT車に高低速2段切替え式パートタイム4WDを採用したモデルのこと。
農業/畜産/果樹園・農園向けの、地面から荷台までの高さが低くて積み降ろしが楽な低床設計モデルを、キャリイは金太郎ダンプ、ハイゼットトラックはローダンプと呼ぶ。
いっぽう床板の厚い頑丈な荷台を採用した造園/畜産/農業向けモデルもあり、こちらはキャリィが頑丈ダンプ、ハイゼットは多目的ダンプと呼んでいる。
まだある。土砂の積載もOKで、開口部の広いゲートにより土砂の排出がスピーディに行え、主な用途は土木建設という仕様はキャリイが浅底ダンプ、ハイゼットは土砂ダンプと呼ぶ。清掃/産業廃棄物処理向けという清掃ダンプも、キャリイ、ハイゼットともに設定がある。
唯一キャリイにあってハイゼットトラックにないモデルも存在する。最大1,950mmまで荷台を上げられるリフト機構を採用し、高所での積み降ろし作業もこなすリフトダンプがそれで、造園/果樹園・農園/道路工事に適したモデルだ。
リフト付きはもちろん 低温冷凍車も!
続いてはガスボンベや家電など、重いものを積むのに便利な最大350kgのリフトを荷台後ろに備えた垂直式ゲートリフター搭載車。
キャリイに設定されている垂直式ゲートリフターは、ハイゼットにも設定されている。しかしリフト能力が200kgと低いものの、テールゲートが弧を描くように昇降するコンパクトテールリフトは、ハイゼットのみに設定されている仕様だ。
食品シリーズでまず紹介するのが冷凍車。キャリイは商品や用途で冷却方式を選べて、エンジン駆動で冷却する1WAY。そしてエンジン駆動または家庭用100V電源によるモーター駆動で冷却が可能な2WAYが用意されている。
一方のハイゼットは、この冷凍車に該当するのが中温冷凍車で、冷凍庫がアルミ製とFRP製の2つの素材を用意している。
低温冷凍車は、キャリイ、ハイゼットともに設定していて、センターパネルにあるスイッチで、−20°~+20°まで庫内の温度調整が可能だ。そして、保冷性能と使い勝手に優れたコンテナを採用した保冷車だがキャリイは1種類。対してハイゼットはアルミ製とFRP製の2種類を用意している。
一方、清潔感のある大型ステンレス製ショーケースを搭載した移動販売冷凍車や生鮮果物や生鮮野菜を運搬するのに適しているのが移動販売冷凍車だが、これはキャリイしか選べない。
こうして見てみると、同じような仕様が多い中で、キャリイのみの設定が、リフトトラック、移動販売冷凍車。一方のハイゼットトラックのみという仕様が、コンパクトテールリフト。そして中温冷凍車と保冷車でアルミとFRPが選べるのが特徴となっている。
また、ぬかるみなどで片輪が空回りした時に、脱出を容易にするデフロック機構はキャリイがMT車しか設定していないのに対して、ハイゼットはCVT車にも設定されているのが魅力だ。
最後にOEMだ。ダイハツ ハイゼットトラックは、トヨタ、スバルにそれぞれ供給され、トヨタ ピクシストラック、スバル サンバートラックとして販売されている。
一方スズキ キャリイトラックは、日産、マツダ、三菱に供給され、日産NT100クリッパートラック、マツダ スクラムトラック、三菱 ミニキャブトラックとして販売されており、台数ではキャリイ軍団がリードしている。
キャリイ、ハイゼットともに運転支援システムは充実しているが、キャリイが2013年登場、対するハイゼットは2021年登場ということもあり、基本性能に差が生じているのはやむを得ないところかもしれない。
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