アメリカ南部フロリダ州でハリケーン「イアン」が先月28日に来襲し、100人以上が死亡、100万人以上の世帯が停電した。フロリダ州では現在でも、孤立した地域の住民の救護活動や行方不明になった人の捜索が続けられている。
そうした中、同州ではいま、水没した電気自動車(EV)が原因の火災が相次いでいるという。
EVの火災発生率は低いものの…
同州の最高財務責任者で、消防署長も兼務するジミー・パトロニス氏は、「イアンから無効化されたEVは山ほどある。そのバッテリーが腐食すると火災が発生する。消防士が直面したことのない新しい挑戦です」とツイートした。ツイートには、EVのバッテリーから発生した火災と戦う消防士の動画を添付している。
There’s a ton of EVs disabled from Ian. As those batteries corrode, fires start. That’s a new challenge that our firefighters haven’t faced before. At least on this kind of scale. #HurricaneIan pic.twitter.com/WsErgA6evO
— Jimmy Patronis (@JimmyPatronis) October 6, 2022
とはいえ、EVがガソリン車と比べて、とりわけ危険というわけではないようだ。それどころか、車両火災の危険性はガソリン車より低い。2019年に発⽣した⾞両⽕災はアメリカだけで20万件以上に上る。アメリカにおけるEVの普及率は60%ほどだが、車両火災の大半をガソリン車もしくはハイブリッド車が占める。
全⽶防⽕協会(NFPA)と⽶国運輸省のデータによると、ガソリン車の車両火災発生率は⾛⾏距離1900万マイルあたり1件だった。一方、昨年8月にEV最大手・テスラが発表した「Impact Report2020」によると、テスラ車の車両火災発生率は⾛⾏距離2億500万マイルあたり約1件だった。
アメリカの自動車保険比較サイト「AutoinsuranceEZ.com」の調査によると、販売台数10万台あたりの火災発生件数は、ハイブリッド車が最も多く3474.5件。次いでガソリン車が1529.9件、EVが25.1件だった。発生件数は、ガソリン車が19万9533件、HVが1万6051件、EVが52件の順だった。
問題は、他の車両の火災と違ってEVの車両火災を消火するには専門の知識とスキルが必要という点だ。前出のパトロニス氏もツイッターで、「EVの火災を迅速かつ安全に消火するためには、特別な訓練と電気自動車に対する理解が必要です」と指摘している。
世界中に急速にEVが普及する中、EVの車両火災の消火についての知識が共有されているとはいいがたい状況にある。
ガソリン車火災とは全く違う消火活動
こうした中、少しでも情報共有をするために、全⽶防⽕協会(NFPA)は、テスラ車が大規模火災を起こしかけた際の消火活動をレポートで公表している。
レポートは、消防士だけでは対処できずにテスラのエンジニアを呼んだところから始まっている。消火活動は、テスラのエンジニアと消防士の共同で進められていく。
損傷したバッテリーセルをセルごとに分解し、それぞれのセルをバケツの水の中に落とした。
露出した高電圧配線を分離する間、道路を6時間閉鎖
バッテリーの約4分の1が取り外されたので消防士が放水を開始した。
レッカー移動中、車のバッテリーの残りが爆竹のように爆発し続けた。
車両集積所では、到着してから24時間以内に2度再発火。
などといったように、通常の車両火災とはまったく違った消火活動の顛末が描かれている。
レポートによると、この消火活動は7時間にわたったが、ガソリン車で似たような事故が起きた場合、通常は30~45分で消火活動を終わらせることができるという。
日本自動車販売協会連合会の「燃料別販売台数(乗用車)」によると、2021年の新車販売台数約240万台のうちEVは2万台あまり。世界的に見れば、日本では普及が進んでいないと言われている。しかし、昨年1月の施政方針演説で当時の菅義偉首相が「2035年までに、新車販売で電動車100%を実現します」と述べるなど、将来的にEVが増え、ガソリン車が減っていくことは間違いない。
いくらEVがガソリン車と比べて火災発生率が低くても、絶対数が多くなれば火災件数は増える。数は少ないものの、より深刻化しやすいEVの車両火災に対処していくための体制づくり、仕組みづくりが急がれる。