ファンのために熱いレースを展開してくれるスーパーGTドライバーたち。SNS等でも散見されますが、所属するチームやメーカーによって差はあれど、多くのドライバーが“繋がり”をもっています。そんなGTドライバーたちの横の繋がりから、お悩みを聞くことでドライバーの知られざる“素の表情”を探りだす企画をお届けしております。今回はHOPPY team TSUCHIYAの野中誠太選手から、R&D SPORTの井口卓人選手に繋がりました。
しばしばSNS等でも見られる、気になる2ショット。「へえ、あのドライバーたち、仲良いんだ」とファンの皆さんも驚くこともあるのでは。そんなGTドライバーの繋がりをたどりつつ、ドライバーたちの“素”を探るリレートークがこの企画です。これまでの連載は、まとめページを作りましたのでぜひご参照ください。
2021年にFIA-F4でチャンピオンを獲得し、今季は3カテゴリーに参戦する野中選手。さすがに多忙で切り替える時間がない……というのがお悩みですが、トヨタの育成プログラム出身の先輩ドライバーである井口選手はどう答えてくれるでしょうか?
この取材はスーパー耐久の際に行わせていただきましたが、当然というべきかなんというべきか、スーパーGTでもスーパー耐久でもチームメイトの山内英輝選手が会話に加わってくれたので、そのままお届けしちゃいます!
* * * * *
■オンオフは切り替えない方がいいんじゃない?
──では、そんなこんなでよろしくお願いします!
井口卓人さん(以下、井口さん):あまり内容が把握できてないんですけど……。
──まあまあ。この企画、ご覧になったことはあります?
井口さん:最初の方は見ましたね。
──ありがとうございます。で、今回は野中誠太選手からお悩みを預かってきので、それに答えて欲しいんですけどね。そもそも、まず野中くんはけっこうマジメじゃない。
井口さん:マジメっすね。
──そんな野中選手のお悩みは『プライベートが薄い』らしいのですよ。趣味がないと。
井口さん:知らんし! 自分で濃くしろよ(笑)。
※ここで横で聞いていた山内英輝選手が会話参入
山内英輝さん(以下、山内さん):『オレもない』って言ってあげれば(笑)。
井口さん:僕に聞くのが間違いですよ(笑)。
──野中くんは今までレースばかりしてきて、今年はスーパーGTとスーパー耐久、スーパーフォーミュラ・ライツに参戦していてレース三昧なんだけど、休みの日はズルズルトレーニングしたり、レポートを作ったりしちゃうらしく。
井口さん:あ〜分かります。完全には休めないということですね。
──そう。レースと休みをうまく切り替えられないことが悩みということね。一方で井口くんは、SNSなど見てると、うまいことオンとオフを切り替えてられているのではないかと。
井口さん:本当ですか!? いや、そもそもSNSをやっている時点で切り替えられてない気がします(笑)。
──でも家族もいるわけで、うまく切り替えられている方なんじゃない?
井口さん:逆に、切り替えられるようになりました。それこそ誠太の年齢(22歳)くらいのときは切り替えられないですよ。だって、切り替えちゃいけない状況じゃないですか。
──オンオフを切り替えるなと?
井口さん:僕は切り替えない方がいいと思います。分からないですけど、良い意味も悪い意味もなく、マジメにやった方がいいと思います。切り替えられることが決してベストじゃない。僕も若いときはそれで悩んでいました。ずっとキツかったです。いろんなプレッシャーがあると思いますし、誠太はTGR-DCドライバーじゃないですか。メーカーのプレッシャーがまずありますし。
山内さん:生き残るために必死なんですよ。
井口さん:そうなんですよ。だから逆に切り替えない方がいいと思う。って僕は思っているんですけど……(山内選手を見て)どう? ……山ちゃん(山内)に相談みたいな感じになってる(笑)。
山内さん:僕もそこまで切り替える必要はないと思ってます。と言いますか、そんな切り替える余裕があるんだったら、その時間を『もっと速くなるために使えよ』と言いたくなります。
■切り替えるより、ストレス解消法を見つけるべき
──マジメだねぇ。
山内さん:だって今の彼らの年齢はそういう時間ですからね。
井口さん:今思うとそうだなと思います。僕もGT500に乗っていたとき(2011年/DENSO SARD SC430)に、お金も少しもらい始めて、やっぱ調子に乗るじゃないですか。初めてメーカーからお給料をもらって金髪にしたり、そういう時期が出てくると思うんですよ。GT500に乗り始めると少しチヤホヤされますし、そこでパッと成績を出してスーパーフォーミュラに乗って……みたいな、もうトヨタ育成ドライバーの王道じゃないですか。
そこで調子に乗ってくると、オフを充実させようとする余裕が出てきます。気持ちの面でも、上のクラスにステップアップしていけば金銭的な余裕も出てくるので、僕はそのときに調子に乗って、やらなければいけないことが本来あるのにオフを作ったりしていたんです。極端に言うとそれでクビになりました(苦笑)。マジメには取り組んでいたんですけど、やっぱり何かあったとき、ちょっとしたSNSでオフのシーンを見て、この世界は『あいつは頑張っていない』という風に捉えられたりしますしね。
山内さん:僕が思うに、やっぱり『見られ方』だと思うんですよ。
井口さん:そうそう!
山内さん:オフの時間を作ったとしても、それを“出す必要がない”と言いますか。(野中選手の年代は)特にそのことを出す世代じゃないと思います。是が非でも上に行かないと行けない立場の人がSNSで浮かれてる投稿をしていたらもう……。
──まあ、そういうタイプはいることはいるよね。
山内さん:ですよね。結果が伴っていても、どこかでズレ始めたときに『お前そういうことやってるからだろ?』と、日本人はおそらくそう見ちゃうと思うんです。
──逆に、結果が出ていればいいよね? 連戦連勝で向かうところ敵なし……とかなら。
井口さん:そう。結果的には速さなんですよ。
山内さん:速かったら『仕方ない』とは思われるはずです。
井口さん:でも、カートで速かった子たちがこの場に集まってきているわけじゃないですか。そのなかでひとつでも良い部分を出そうと思ったら、もうマジメに取り組んでる姿しかない。人間性と、それに対してどれだけマジメに取り組めたか。だからそれは忘れないで欲しいです。
でも表に出さないところで、例えば彼女とお酒を飲むとか、どういうストレス解消法があるか分かりませんけど、オンオフの切り替えではなく、溜まったストレスの解消法を見つけるべきで、そっちの方が重要じゃないですかね。僕はクルマで走っているときに、窓全開にして叫んだりしてました(笑)。
山内さん:それはそのときだけの対処法でしょ(笑)。
──ちなみに、ワタクシもけっこう切り替えられないタイプなのですよ。レースから帰ってきて、ズルズルと仕事をして気づいたら次のレース……みたいな。
井口さん:僕もそうでしたよ。でも、もう終わったことだから仕方ない。
山内さん:たぶん余裕がないと切り替えはできないと思います。実績や心の余裕、お金の余裕がないと『今回は仕方なかったから次は頑張ろう』ということを、結果が出ていない人がそう思っていたら、『負の連鎖がそのまま続くよ』と思っちゃいます。だから切り替えが大事なのかどうかは人それぞれだと思います。……なんかオレの方がめっちゃ喋っちゃってるじゃん(笑)。
井口さん:誠太の性格がすごくマジメで、たぶん言われたことを全部受け止めるようなタイプなんだと思う。
──すごく怒られたりすると『あぁ……』とヘコんでしまいそう。
井口さん:誠太は言われたことを右から左へ……というタイプじゃないと思います。だからそれはある意味キツさでもあります。でも、それを乗り越えないとプロにはなれない。もう頑張って乗り越えるしかないですし、そのなかで右から左に流す解消法を見つけるべきかなと。カラオケにひとりで行って死ぬほど大声で歌うとかね(笑)。
──いいねぇ。
井口さん:いいですよね。昔は僕も行ってました。20歳を超えてからお酒を飲んで、カラオケで蒲生(尚弥)ちゃんとか山ちゃんと飲みながらストレスを解消して次のレースに行くとかは全然ありました。……コレ、答えになってますかね?
(山内さん爆笑)
■今の苦労は、10年後に活きてくる
──……なってるんじゃないかな。ちなみに最近はどう切り替えられるようになった?
井口さん:それこそ最近は、もう切り替えないと仕方なくなっちゃったといいますか、家族ができて家に帰ったら、子どももいるので勝手に切り替わります。家族の顔を見たら不思議とレースモードじゃなくなりますね。
山内さん:でもそれが家族だよ。
──ワタクシなかなか切り替わらないんだけど、どうしたらいいかな?
山内さん:切り替わらないときは、逆に奥さんが察してくれたら嬉しいなと感じます。でもやっぱりギブ・アンド・テイクというところもあると思うんですけど、奥さんが満足する状況や条件、雰囲気、環境がないと、向こうも同じようには接してくれないと思います。
──耳が痛い……。
山内さん:ウチの奥さんは寛大だから。
井口さん:ウチがダメみたいな感じになっちゃうじゃん(笑)! ウチの奥さんも寛大ですよ。レースのことは一切興味がないので、だから楽なんです。
──でもそれは逆にいいかも。
井口さん:ビックリするくらい興味ないんですよ。でも、それくらい興味がない方がオフも作れますし、レースの話もされないですし、アクシデントがあった後も別にいつもと変わらないです。向こうが気を使うわけでもなく、こちらが気を使うわけでもない。ただの日常を過ごしていて、そのなかにレースがあります。優勝したらもちろん喜んでくれますけどね。
山内さん:でも不思議ですよね。誠太くらいの世代は『切り替える時間があるんだったらトレーニングしろよ』と思われがちで、でもオレたちは家族ができて切り替えができて、それが良くなって今の結果が出ています……という感じで話しているけど、じゃあどっちがいいのか? みたいな話になるじゃないですか。『だったら若いときも切り替えた方がいいんじゃないですか?』となってしまうので、そう考えると矛盾しているので難しいですよね。
井口さん:そうね。この話題は絶対にまとまらないっすよ。
──あと『若いときの苦労は買ってでも……』とか言うじゃない。
山内さん:それは絶対にあった方がいい。昔は自分も『人が遊んでいる間に自分が努力すれば上に行ける』と思っていたので、遊ぶという感覚はなかった。そんな雰囲気もなかったです。僕らの時代は、もう一瞬にしてクビになるというタイミングでもありました。何年も面倒を見てくれるということはなかったので、その部分でも違いがあるのかもしれません。
井口さん:いやホントそうですよ。マジで『エブリデー危機感』でした。
山内さん:言い方おもろいね(笑)。
井口さん:オフを作ろうというか、若い時代は必死過ぎて本当に生き残るために、オフを作らないといけないと思ったことはなかったです。
──今にして思うとイカ娘(2012年のPACIFIC NAC イカ娘 フェラーリ)に乗っていたことも懐かしいね。あの頃苦労してたもんね。
井口さん:ホントですよ! だけど、そういうときもクビになって苦しいことを乗り越えて、みんなそこで成長します。絶対にその当時は思ってはいないけど、そういった苦しい時期に悩んで、どうやったら切り替えられるだろうということを考えるだけで、それが10年後に活きてきます。それだけは絶対に言えるので、それは間違いないです。
今は苦しいかもしれないけど『どうしたらいいんだろう』と考えても答えは出ないかもしれない。でも10年後に答えは出てくると思います。
山内さん:10年後に好きな世界でやっていくためには、今をどう生きるかが大事です。
──ちょっとイイコト言った風でしょ?
山内さん:うん(笑)。メッチャそう思いながら喋ってました。
■悩みはないけど、“強さの秘訣”を聞いてみたい
──でもいい相談になったんじゃない? それでですね、このコーナーはお悩みを誰かにぶつけてほしいのですよ。なので井口さん今お悩みはありませんか?
井口さん:申し訳ないけどないんですよ。
──何か作ってよ。レースのことでもプライベートのことでも、なんでもいいよ。それでそのお悩みを誰かにぶつけてほしい。
井口さん:誰がいいかな。逆に誰を登場させたいですか?
──誰でもいいよ。二回目でもいいです。
井口さん:悩みか〜。悩みといったら人生の悩みしかないですよ。誠太と一緒で、何歳になってもレースを続けたいという愛はあるけど、契約がない限りは続けられない。それを誰に相談する? どうしたらいいですかね人生? 織戸(学)さんは登場しました?
──出たねぇ。でも二回目でもいいよ。
山内さん:谷口(信輝)さんは?
──出たね。
井口さん:まだ出ていない人がいいですよね? 小暮(卓史)さんは行きました?
──小暮さんはまだ出てないね。小暮さんに何を相談するの?
井口さん:長くレースを続けられる秘訣? でも最初の方に新田(守男)さんや高木(真一)さんにそんな相談がありましたよね?
──そういう悩みは誰でも出てくるからね。
井口さん:それだったら織戸さんかな。130R YOKOHAMAとか、クルマ関係の仕事を織戸さんはしているじゃないですか。みんなから憧れられていると思いますし、クルマ好きからしたらああいうお店をやりたいという思いも個人的にはあります。でも、表向きは華やかで好きなことしてる感じですけど、たぶんメチャクチャ苦労あると思うんですよ。お金もかかると思うので、そういう苦労などを全部聞きたいです。
山内さん:でも織戸さんはそれを苦労だと感じてなさそう。『好きなことだから別に辛くないじゃん』と簡単に言われちゃいそう。
井口さん:たしかに。それだと記事にならないな〜。申し訳ないですけど、マジで最近は悩みがないんです。
山内さん:いいことだよ。そうだ。……JP(ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ)に『強さの秘訣を教えてくれ』はどう?
井口さん:それ面白いかも。
山内さん:JPの強さは何から生まれているのかということと、何を目標に生きているのかをシンプルに知りたいです。
井口さん:たしかにそれはオレも聞きたい。例えばレースで小暮さんのうしろについたり、JPが近くにいるとイヤなんです。『何かやってくるな』という感覚があって、その強さがなんなのか知りたいんですよ。もちろんスーパーGTはふたりで乗るレースなので、ふたりとも強くないといけないとは思うんですけど、必ずチャンピオン争いをしてくるので、その強さの秘訣や心がけていること、あとはチームの強さなど、なんでそういう風に強いのかを教えてほしいです。
──いいんじゃない? JPなりのすごくまじめな解答が返ってきそう。
井口さん:それはそれで熟読したいです。これはいつ掲載するんですか?
──最終戦が終わった後くらいかな〜。
山内さん:じゃあちょうどいい!
井口さん:最終戦前に聞くと、ちょっとJPも話せないこともあるだろうから(笑)。
山内さん:年齢を重ねても闘争心が消えていない秘訣など、まだその年齢にいってないから分からないけど、若いときとモチベーションは変わらないのかということも知りたい。
井口さん:シリーズチャンピオン争いを毎年のようにしてますし、GT300ドライバーのなかで誰と走りたくないかと聞いたらけっこうJPが出る気がします。そう思わせるメンタリティと強さを知りたいです。それを言葉にしてほしい。
山内さん:そういった意味では小暮さんでも良かったかな。
井口さん:小暮さんでも面白いと思ったけど、もしかしたら言葉にならない可能性がある……(笑)。JPだったらすごくマジメに答えてくれそうですし、レースではああいう感じのドライビングですけど、ふだんはけっこう紳士なイメージです。そんなギャップもあるので、いろいろな秘訣を知りたいです。
──分かりました。ではそういう感じでいってみましょ。
* * * * *
そんなこんなで、ふたり分話しているのでけっこう長くなりましたが、雰囲気伝わりましたでしょうか? 次回は、結果的にGT300チャンピオンを獲得したKONDO RACINGのジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ選手に繋がりました。
次回もお楽しみに!