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 自動車保険はもしもの際に自身のクルマだけではなく、他者のクルマや財産、医療費などを補償してくれるものだ。年間数万円の支出は任意とはいっても、もはや自動車保険の加入は常識ともいえる存在。

 そんな自動車保険の根幹を揺るがす大きな事故が起きた。赤信号無視のクルマに衝突された栃木県の自動車ディーラー「ホンダカーズ野崎」のシビックタイプR。販売価格450万円という極上個体がなんと時価額180万円と査定されてしまったという。

 今回はホンダカーズ野崎の松本店長にお話を聞いた。被害者が泣き寝入りするケースが増えるのは許せない!!

文:ベストカーWeb編集部/写真:ホンダカーズ野崎

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■希少なシビックタイプRを襲った悲劇

運転席側に衝突されてしまったFD2。その衝撃は対角線に助手席側にまで伝わっている

 ホンダカーズ野崎といえば「F1店長」こと松本正美さん(元無限F1エンジンのエンジニア)が店長を務める栃木県のホンダディーラーだ。そしてこのお店の特徴はシビックタイプRにめっぽう強いこと。

 新車販売はもちろん、中古車販売にも力を入れており、内装/外装を仕上げるだけではなく、圧倒的なメンテナンスで極上車両を揃えている。全国からお客さんが集い「タイプRを買うなら野崎」というファンも多い。

 そんなホンダカーズ野崎が販売したシビックタイプRに悲劇がおきた。販売車両はFD2のシビックタイプR。超高回転VTECを搭載するタイプRで、新世代のターボエンジンとは一線を画すファン垂涎の名車だ。

 走行距離4.2万km、販売価格はナビやドラレコなどオプション込みで450万円。近年の国産スポーツカーの高騰も考えればこの価格は妥当で、実際に販売相場でも400万円オーバーの個体が多い。そこにホンダカーズ野崎のメンテナンスが加わるとなれば納得の価格だろう。

 そんな極上タイプRが青信号の交差点を直進中、交差点右方から赤信号を無視した車両に衝突された。しかもこれから納車というタイミングでだ。

■「納車前の車両はあくまでも商品」という弁護士の見解

最新ナビやドラレコなども装備され「一生モノ」として購入されたであろうタイプR。わくわくしていた矢先の事故、そしてこの保険会社の対応はあまりにも残酷だ

 ホンダカーズ野崎としてはまず信号無視の車両が交差点に進入し引き起こされた事故であることに大きなポイントがあるという。

「信号無視で被害を受けた事故なので、青信号を守ったクルマに対しては10-0で過失なしの完全な被害者という判例があるんです。まずここはキッチリ押さえておくのが大切です」と松本店長。

 よく「信号を守っていても動いていたから被害者にも過失がある」という話も聞くが、これは原則としては成立しない(黄色信号などだと過失割合が変わることもある)。今回の事故に関してはホンダカーズ野崎は完全な被害者という形だ。

 また今回は納車前日の最終チェックの試走中に事故が起きている。すでにオーナーは一定額の入金を済ませており、車検証上は名義変更も終えている状況だ。納車と同時に最終入金をする形だったという。松本店長はこう語る。

「弁護士に確認したのですが車検証上はオーナーさんの名義でも、契約上は未納金があるので所有権はたしかにホンダカーズ野崎にありました。つまりこのタイプRは弊社の”商品”であり、オーナーカーではないのです。販売価格を補償するのが当然だと思います」。

■補償はたった180万円という冷淡な評価額

フレームも曲がり事故の衝撃がよくわかる。当然修復歴はつくしこの被害で180万円で原状復帰できるわけがないのだが……

 つまりホンダカーズ野崎の言い分としては製品が販売される前に全損(=商品としての価値がなくなった)状態になったわけだから、本来であれば販売価格が全額補償されるべきということ。これについては道理が通っている。

「保険会社は時価額が180万円という評価をしてきました。弊社は450万円で売っている商品を納車前に全損されたのに、約270万円も自腹を切れと言っているんです。過失がまったくない状況でなぜ被害者が損をしないといけないのでしょうか。当然ながら全額補償されるべきです」。

 松本店長の声には怒りがにじみ出ていた。仮に時価額が180万円だったとして、当然ながら全損したクルマにオーナーが代金を払うことはない。そして被害に遭ったタイプRを売却しても最終的に450万円になることはあり得ない。

 もちろん保険会社とてそのような事情は充分に理解しているはずで、このような対応を取ってくるというのは明らかに被害者を軽視したものだろう。

「このようなケースだと被害者が泣き寝入りすることも少なからずあります。もちろん弊社としても販売価格全額を補償してもらうまで戦いますし、今後こんな被害者が損をすることがないように、判例を作る気持ちで戦いますよ」。

 今回は納車前のクルマというケースだったが、昨今は旧車や90年代のクルマだと、たとえ購入額が高額でも時価額は数十万円と査定されたり、保険会社自身が損をしないように仕向けるケースも少なからずある。

 もちろん保険会社とて営利企業であり、なんでもかんでも支払うわけにはいかないのは分かる。ただクルマという「財産」を奪われた被害者が損をするのは明らかに間違っている。今後の展開を見守りたい。

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