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もっとも911らしい911!! 熟成期を彩ったナローボディ ポルシェ911(その2)

 考えてみればポルシェ911は1960年代からこんにちまでつづくロングセラー、というものだ。もっとも、中身はほとんどすべてが大きく変化しているけれど、「911」という名前と、時代の先端を走る高性能モデルである、というコンセプトは不変といっていい。

 具体的メカニズムをみると、ポルシェの代名詞のようにいわれていた空冷フラット6エンジンをリアに搭載していたものが、半分は頑に守りつつも、半分は大きく姿を変えている。つまりはその時代における最良の答を選んでいるといった風だ。

 今回はデビュウ間なしの頃の、1970年代前半、「ナロウ・ポルシェ」と呼ばれる時代までを辿ってみよう。

文、写真/いのうえ・こーいち

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■エンジン排気量2.2L化が効いた

1970年モデルからエンジンが2.2Lとなったポルシェ 911

 ポルシェ911としてデビュウし、タルガ・モデルを加えたのにつづいて、次なる受けた変化はエンジンの排気量アップ、であった。1969年8月にデビュウした1970年モデルから、エンジンが2.2Lになる。

 たった0.2Lのアップ、と思うかもしれないが、トルクアップが実現され、最大パワーの回転数も少しだけ下がった。つまりそれだけピーキーでなく扱いやすさを大幅に向上させた、というわけである。

 ポルシェ911は「Oシリーズ」ではじまったが、1968年モデル(1967年8月発売)の「Aシリーズ」以降、毎年B、C、D……とシリーズ名が付されることになった。その「Cシリーズ」から2.2Lに拡大されたことになる。

 前年のモデルラインを引継ぎ、ポルシェ911S、E、Tが用意された。それぞれ、最強モデル、インジェクション装着の主力モデル、デチューン・モデルという位置づけであった。

 2.0L時代には170PS、140PS、110PSを発揮していたのが、2.2Lになって180PS、155PS、125PSに向上している。

 たとえば具体的にポルシェ911Sの2.0L時代、つまり1991ccの排気量で170PS/6800r.p.m.の最大出力、18.5kg-m/5500r.p.m.の最大トルクだったのが、2195ccにアップされて、180PS/6200r.p.m.、20.3kg-m/5200r.p.m.になった。

 数字そのもののアップだけでなく、最大時の回転数が下がっているのが、扱いやすさの目安にもなる。

 要するに余裕を以って高性能を引き出す方向にシフトされた、ということであろうか。ポルシェ911T用を除いて、インジェクションが導入されている。

■もうひとつのクラシック、912

 この流れは、こののちも引きつづき踏襲されることになる。折しも各種規制が加えられようとしていたとき、である。限られた排気量でパワーを絞り出すようなスペックは、元気に走る時には小気味よいものだが、実用的には扱いにくかったりする。

 時代とともに少しばかり方向を変えねばならなかった、それをポルシェらしさを失うことなく実現した、というのがこの2.2Lへの変更だった、といえよう。

 そう、このチェンジを機にフェードアウトされたポルシェ912についても記しておきたい。それは、あまりにも高価になり過ぎたポルシェ911を少しばかりフォローするような形で新設された、廉価版モデルであった。

 廉価版といっても相応の性能の持ち主であるし、かえって使い勝手がよかったりするから、独自の愛好家がいたりする。

 ひと口でいうならば、ポルシェ911のボディに、前モデルであるポルシェ356のエンジンを組合わせたもの。1965年4月に発表され、4年あまりの間、販売がつづけられた。一時期はポルシェ911よりも倍近い販売台数を記録した、という隠れた人気モデルでもあった。

 搭載されるエンジンはポルシェ356時代の最終期、ポルシェ356SCのそれを少しデチューンしたもの、であった。

 空冷水平対向4気筒OHV1582cc、90PS/5800r.p.m.というスペックは、ポルシェ356SCより5PSデチューンされていた。それでも、183km/hという性能を誇った。生産台数、33000台弱は当時のポルシェ911を凌ぐ数である。

■そして2.4Lにアップ

1972年「Eシリーズ」モデルからはさらに排気量が増加し2.4Lとなった

 2.2Lになったと思ったら、その2年後、1972年「Eシリーズ」モデルからはさらに排気量をアップ、2.4Lになる。2.2の時はステッカーだけだったのが、しっかりとした「2.4」のエンブレムがリアのエンジンフード上に付き、2.4Lといわれてなんの疑問もなかったのだが、2341ccだから四捨五入すると2.3Lだ。

 そのエンジンはそれぞれ上から190PS、155PS、130PSと数字上のアップも僅かなものに抑えられ、トルクの余裕というところに主眼がおかれていたようだ。

 結論的にいうならば、この時代、いわゆる「ナロー・ポルシェ」の完成形というようなポジションにあり、シャープな初期のポルシェ911の味覚を際立たせつつ、性能的にも無理をすることなく高性能を得ているような印象があった。趣味的にみても、一番ポルシェ911らしい、といえるかもしれない。

 じつはこの時代、「カレラRS」という特別モデルが登場し、一世を風靡する。そしてそれ以降、グラマラスなボディを採り入れていくようになる。ひとつの時代の変わり目、を迎えるのであった。

【著者について】
いのうえ・こーいち
岡山県生まれ、東京育ち。幼少の頃よりのりものに大きな興味を持ち、鉄道は趣味として楽しみつつ、クルマ雑誌、書籍の制作を中心に執筆活動、撮影活動をつづける。近年は鉄道関係の著作も多く、月刊「鉄道模型趣味」誌ほかに連載中。季刊「自動車趣味人」主宰。日本写真家協会会員(JPS)

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