沖縄県知事選は11日、投開票され、国政野党系の現職、玉城デニー氏(推薦=立民・共産・れいわ・社民・社大)が、ともに無所属新人の元宜野湾市長、佐喜真淳氏(推薦=自民・公明推薦)、元衆院議員の下地幹郎氏を破って2期目を決めた。
NHKが、投票が終了直後の午後8時過ぎに当確速報を出す「ゼロ当」。デニー氏がこの日午前の出口調査でも半数の支持率を集めるなど選挙戦前からの勢いは落ちなかった。投票結果の大勢は深夜に判明するが、デニー氏が得票率で50%を超えるかどうか注目される。
同時に投開票日を迎えた県議補選(那覇市・南部離島区、欠員1)でもデニー派のオール沖縄の候補者の優勢が伝えられている。
自民の敗因は“統一教会”だけなのか
沖縄の地元2紙、大手メディアによる選挙戦の総評は、自民党に大逆風となった旧統一教会問題の影響を指摘するだろう。4年前の雪辱を期する佐喜眞氏自身も浪人中の19年9月に教団が台湾で開催した行事に出席していたことが判明し、自民党政権に敵対的な地元メディアの格好の攻撃材料となった。さすがに告示日以後はいささかトーンダウンしたものの、沖縄自民の関係者が「沖縄では自民党が人でなしの扱いをされている」と嘆くほどの打撃を受けた。
「反政権無罪」とでもいうべき空気は、反米軍基地の活動家が演説中の佐喜眞氏らに向けて銃弾を投げつける暴挙に出る事件も発生。他県であれば、党派を問わず公選法違反(選挙妨害)で現行犯逮捕されるほどの悪質性があったのに、県警はなぜか事情聴取のみで即日放免するなど異常事態が積み重なり(捜査は継続中)、最後は前回の選挙に続いて台風にも直撃される有様だった。
本来、選挙戦では次の4年間の沖縄の舵取りをどうするのか、そして過去4年の舵取り役だったデニー氏の実績はどうだったのか、冷静に政策的な検証や論戦をすべきところだったのに、本来はヒートアップしがちな当事者をリードすべきはずのメディアもまた政争を掻き回すだけに終わった感が強い。
反米・反基地、反自民党政権で凝り固まる沖縄2紙の論調は“お約束”だから驚きもしないが、今回はそんなガラパゴスな政情を許容する情勢では全くなかったのではないか。新型コロナで大打撃を受けた県民経済をどう立て直すか、そしてロシアのウクライナ侵攻を機に現実味を増す台湾有事にどう備えるか、いつにも増して生き死に直結する度合いが強い選挙戦であり、本質的な政策論争をすべきはずだった。
ただ、そんなことは自民党側もわかっているし、自民嫌いのメディアの多くも指摘するだろう。だから筆者は地元メディアが言わない話をあえて指摘する。事ここに至ってしまった背景として、自民党側が自滅した側面も指摘せざるを得ない。
「ボス」不在のツケ
もともと、沖縄自民はお世辞にも空中戦が得意とは言えない。だからどぶ板が物を言う市長選レベルまでは戦線を死守できても、空中戦の比重が高い全県規模の選挙(参院選、知事選)では過去10年近く負けっぱなしだ。先日も書いたように、デニー県政最大の「失政」であり、シンボルとも言える「首里城焼失」について追及も言及もほとんどなかったことは、傍目から見ていて信じられなかった。
よく地方の保守勢力分布を、封建時代の豪族や大名などに例えられるが、沖縄ではそうした昔の気質が本土以上に根強い。往年の茨城県議でありながら時の首相も一目を置いた故・山口武平氏や、「都議会のドン」の異名をとった内田茂・元東京都議といった最高実力者がいれば、組織をまとめ上げて左派勢力やメディアとも戦える体制を整えたられたかもしれない。しかし沖縄自民でかつて実力者だった前知事の故・翁長雄志氏が自民と敵対する側に回って以降、近年は名実ともに「ドン」といえる圧倒的な存在が国政にも県政にも見当たらない。
ボスが君臨することの弊害もあるが、その是非は今回は書かない。しかし、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」を見ればわかるように、我の強い豪族(ドラマでは御家人)を束ねるには源氏のような権威的な存在や、北条氏のように権力闘争を勝ち抜いて圧倒的な存在になる「ボス」がいないと、たちまち分裂して群雄割拠状態になってしまう。
沖縄の場合、保守勢力は必ずしも自民に籍を置いてるわけではない。そして非自民の沖縄保守を代表する1人、下地幹郎氏の暴走とも言える出馬を止められず、結果的に票が分散した。実際、投票日当日午前、大手通信社の出口調査では、デニー氏50%に対し、佐喜眞氏39%、下地氏9%だったと言うから、連合していればもう少し接戦に持ち込めた可能性がある。
下地氏の出馬理由の真相は不明だが、少し前に自民復党を願い出た際にその見通しが立たなかったことが理由の一つなのは間違いはない。下地氏が民主党政権時代には国民新党、近年は維新で活動。自民と選挙戦で激しく争ってきた経緯から、自民側がアレルギーを示すのも仕方がない。
ただし、沖縄県政を取り戻すという大義を優先し、大人の対応をするという手もなくはない。そんな時、調整能力が高い「ドン」がいれば僅かに可能性はあったかもしれない。静岡自民は、自民と長年戦ってきた民主党出身の細野豪志氏の処遇について入党を認めてこなかったが、昨秋の衆院選で細野氏が無所属で圧勝すると、次期衆院選の公認を前提とした静岡5区の支部長については棚上げし、「静岡県衆議院支部」を新設してあてがった。
ちなみに5区支部長を継続した吉川赳氏はパパ活スキャンダルで離党。細野氏は奇しくもこのまま5区支部長にスライドで収まりそうだが、沖縄の下地氏についても特定の選挙区をあてがわない形で仮処遇し、知事選で佐喜真氏をどう支えたかなどの働きぶりを見て最終判断するという一手も理論上はあった。
再起の道はアレしかない
もちろん下地氏に対する沖縄自民の感情は“近親憎悪”とも言えるほど険悪なものだ。これを払拭するのは地元レベルでは困難だろう。それであれば党本部が仲裁するという手段があったはずだが、橋本元首相、小渕元首相など沖縄とゆかりがあり、竹下派、小渕派などと呼ばれてきた平成研究会(現茂木派)の領袖、茂木幹事長は目立った動きをしなかった。岸田首相周辺を含めた複数の政界関係者によると、茂木氏は沖縄知事選での勝利がハナから難しいと悲観していたといい、ひらたく言えば最初から「戦意喪失」で地元への介入など全く発想がなかったのだろう。
ここまでダメダメな沖縄自民、保守勢力に再起の道はあるのか。投票日のこの日、講談社のネットメディア「現代ビジネス」は、統一教会問題や基地問題にばかり傾注する古い世代の政治にうんざりし、「保守革新関係なく強いリーダーを求めている20代、30代の若年層」の声を取り上げていた。
沖縄復帰後に生まれた世代(復帰っ子)への交代を進める意義については、SAKISIRUで篠原章氏が以前提起していた。
メディアも含めて不毛な党派対立を繰り広げ続ける沖縄の政治情勢。沖縄の自民や保守勢力が立ち直るかは、左派勢力よりも世代交代を早くできるのかどうかも大きなポイントになりそうな気がしている。いまの官邸や自民党本部が沖縄自民に対応を一任し、機が熟するまで見守っているスタンスのようだが、沖縄の問題は台湾情勢もあって本土も他人事ではない。次の4年間もこのまま事態を注視するだけなのだろうか。それとも次世代からリーダーが台頭してくるのだろうか。