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 2022年9月、新型エクストレイルの公道試乗会に参加したWeb編集部担当は、撮影中にふとエクストレイルのタイヤを見てみると韓国製のハンコックタイヤであることに正直、驚かされた。個人的には韓国タイヤといえば値段の安さが第一で、軽やコンパクトカーなど今までは車両価格の安いモデルに採用されていた感覚だったのだが……。

 今後は続々と日本の主要モデルに採用されていく可能性が高そうだが、現役プロドライバーとして日々サーキットなどで最前線にいるハル中田氏に現状を語ってもらった。

本文/ハル中田、写真/ハル中田、ベストカーWeb編集部、ベストカー編集部、STI

【画像ギャラリー】日産の主力モデル、新型エクストレイルに韓国のハンコックタイヤが純正採用! 今後は続々勢力を伸ばすのか?(6枚)画像ギャラリー


■日本のタイヤメーカーに遜色のない実力を持つハンコック

新型エクストレイルに採用されたタイヤは紛れもなく韓国ハンコック製。日産の主力SUVに採用される時代が来るとは……

 なるほど、ついに日本メーカーの日本向け主要車にもハンコックが……いやぁ、時代は変わりましたねぇ。

 韓国製タイヤを装着するとユーザーから避けられたりクレームが出たりという話をよく聞く。しかし、今はそれ以上に調達や供給のメリットが大きくなったとの判断なのだろう。

 実は以前から日本メーカーの主要車の開発現場にもハンコックにかぎらず韓国メーカーは入り込んでいた。日本向けからは外れていたとしても、ほかの地域向けにはすでに装着されていたのだ。

「いやいやそうは言ってもさぁ、しょせん安かろう悪かろうでしょ? そんなの嫌だよー」なんておっしゃるアナタ。結論から言ってしまうと、すでにハンコックタイヤは日本のタイヤメーカーと比べても遜色ない、いいタイヤを作る大手メーカーになっている。

 数字で見ていくと、ハンコックの売上ベースでの2021年世界シェアは第7位。6位のピレリとは僅差で、5位の住友ゴムともそんなに離れていない。いわゆるビッグスリーのミシュラン、ブリヂストン、グッドイヤーとはまだ大きな差はあるが、横浜ゴムやトーヨータイヤよりも世界では選ばれている。

「いやいや、どうせ安いからたくさん売れているんでしょ? 性能ではさー……」なんておっしゃるそこの方。ハンコックはすでに、ジャーマンスリーと言われるメルセデスベンツ、アウディ、BMWの各モデルにも採用されているし、特に運動性能への要求が高いポルシェにも採用されている。いくら安くとも高いレベルの運動性能が実現できなければそれらハイパフォーマンス車には絶対に採用されない。

 え? そんなイメージがまったく湧かない? それはそうだ、しかたない。「世界の中での韓国ブランド」の実態をちょっと見てみよう。

■タイヤだけでなく完成車でも強い韓国勢

2022年に日本に導入されたヒョンデのBEV、アイオニック5。その完成度は非常に高く、日本の自動車評論家諸氏からの評判もすこぶる高い

 日本市場は世界的に見ても非常に特殊だ。狭い国土に決して大きくはない市場規模なのに、完成車メーカーもタイヤメーカーもとても多い。島国ゆえに輸送コストの面からも障壁が高く、高級ブランド以外は市場に食い込みづらい特色がある。だから世界の平均よりも日本国内では日本ブランドが圧倒的に強い。まさにガラパゴス。

 しかし、世界に目をやると、ハンコックタイヤのみでなく自動車メーカーでも韓国勢は非常に強い。

 例えば、KIAを含めたヒョンデグループ。日本ではまだ存在感は薄いものの、欧州での2021年シェアはなんと第4位。高級ブランドであるBMWやメルセデスベンツなどより上なのはまだわかるとしても、総合メーカーとして近いポジションのトヨタよりも上。

ヒョンデグループの1ブランドであるKIAのスポーティな5ドアHBモデル、スティンガー。こちらもヒョンデと同じく海外での評価は非常に高い

 一方、米国においても、2021年にヒョンデグループの販売台数が長年アメリカ市場に強かったホンダを抜いたことで大きなニュースになっていた。

 日本においても最近になって乗用車販売を再開し、BEV車であるアイオニック5の完成度の高さと非常に戦略的な価格が業界で話題になっている。世界での好調な勢いのまま日本でも一気にシェアを広げようとしているのだ。

■メキメキと実力を上げ、一気に市場シェアを伸ばしつつあるのが現状

ドイツのニュルブルクリンクサーキットで開催されるDTM(ドイツツーリングカー選手権大会)にはハンコックタイヤが長年スポンサードしている

 確かにひと昔前は「安かろう悪かろう」であった印象は拭えない。しかし、彼らは自分たちの実力と課題をしっかり認識していた。日本メーカーのように「ケイレツ」に縛られないからこそ、欧米の優秀なメガサプライヤーを積極的に採り入れ、彼らの先進技術とアドバイスを貪欲に吸収し、品質を上げていった 。

 私自身も韓国本国での彼らの開発現場に入ることがあるが、若いエンジニアが多く、不足している技術ノウハウを若いエネルギーでどんどん乗り越えようとしているのが印象的。さらに、研究設備や建物などのハコものへの投資も積極的にし、彼らの研究拠点の充実度は日本のどのメーカーよりも上かも、と感じていたのも事実。

 そうした積極的な動きが功を奏して実力も伴ってきたところで、一気に市場シェアを伸ばしてきているのが今なのだ。実際、ヒョンデ&キアの乗用車はデザインのいいモデルが多いし、品質もすでに悪くない。そりゃ欧州などで人気が出るワケだ 。

 ハンコックタイヤに話を戻すと、10年ほど前から特に欧州でのプロモーションを積極的に展開していた。

 例えば、世界的に有名なドイツのニュルブルクリンクサーキットへ行くと、大人気のDTM(ドイツツーリングカー選手権大会)などに長年タイヤ供給をしている。ひと際大きな展示ブースを作り、欧州市場での認知度アップに非常に力を入れていた。

 ひと昔前の彼らのタイヤは確かに「まだまだだなー」という印象だったが、ヒョンデの躍進と同じく彼らも品質を着実に上げ、今ではトップブランドと大差ない性能を手に入れている。

 韓国のタイヤメーカーとしては、ほかにクムホやネクセンがあるが、彼らもまた各国でプロモーションを積極展開し、先述のヒョンデグループとともに両輪となって品質を上げ、世界進出を果たしてきている 。

 この勢いはかつて日本車が世界を席捲か、という時代を彷彿させるもの。時代は繰り返す、今度は韓国ブランドの番で若い勢いはまだまだ続くはず。さらには、中国国内で飽和した中国地場ブランドが世界へ打って出つつある。そのなかで日本勢はどう対応し、どう生き抜いて行くのか。これからの自動車市場からはますます目が離せないと思う。

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