三菱自動車は2022年10月13日、2021年3月末に一時生産・販売を中断していた軽商用バン、ミニキャブ・ミーブの一般販売を再開すると発表、11月24日から発売開始となる。
さて、一般販売を再開したミニキャブ・ミーブはどんなモデルなのか? 一般販売を再開した背景、さらに軽商用EVの最新状況などを解説する。
文/ベストカーweb編集部
写真/三菱自動車
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■ミニキャブ・ミーブが一般販売を再開した背景
三菱自動車は、1964年に電気自動車の研究を開始して以来、世界に先駆けて2009年に量産型初のEV、アイミーブを発売。2011年には商用EVのミニキャブ・ミーブ、2021年に広州汽車と共同開発したエアトレック、そして2022年6月には、日産自動車とのアライアンスによって日産サクラ&三菱ekクロスを誕生させた。
一方、PHEVモデルにおいても、2013年には世界初のSUV・PHEV、アウトランダーPHEVを発売し、グルーバルで最も売れたPHEVとなった。2020年にはエクリプスクロスPHEV、2021年にはアウトランダーPHEVと、電動車のパイオニアとして世界に誇れる技術を持つ。
三菱自動車が2020年に発表した電動化に向けた取り組み「新環境計画パッケージ」によると、2030年までに全車種に電動車を設定し、新車からの平均CO2排出量をマイナス40%(2010年度比)、電動化比率を50%、事業活動からの平均CO2排出量を2014年度比マイナス40%に設定している。
またLCA(ライフサイクルアセスメント)でのCO2排出量は軽クラスではBEVが最良、CセグメントSUVクラスではPHEVが最良とし、環境負荷の少ない電動車ラインナップを進めてきている。
ミニキャブ・ミーブは2011年12月に販売開始され、発売当初は10.5kwhと16.0kwh、バンとトラックをラインナップ。2017年5月にはトラックの生産・販売を終了し、2020年9月には10.5kwh仕様を廃止。そして2021年3月31日に一般販売を中断した。2011年~2020年の累計販売台数は9304台だった。
なぜ、ミニキャブ・ミーブの一般販売を中断したのか? そして再販することになった背景を、三菱自動車工業・国内営業本部・軽EV推進室の五島賢司氏はこう説明する。
「2019年から世界的な脱炭素化への関心が高まり、前菅政権において脱カーボンニュートラル宣言が出されました。そのような状況下でミニキャブ・ミーブの販売が急増しました。しかし、商品ライフサイクルの観点で販売中止を決定していたのですが、多くの問い合わせや販売してほしいという声を受けまして販売継続を決定した経緯がございます。今回、継続販売することを決めたのは、社会に貢献できるという、経営判断です。
2011年の発売当初は、充電インフラも発展途上で、当社以外の選択肢もなく、残念ながら商用EVの認知度が低かったという状況がありました。しかしながら長年の販売によって商用軽EVの販売ノウハウを蓄積、信頼性や耐久性の向上、販売店でのアフターサービス対応能力の向上など、当社にとって一定の成果があったと考えています。このようなEVネットワーク全体の対応能力というのは一朝一夕にはいかないと考えており、弊社の強みとなっています」。
さらに2021年3月末の中断から今回の再販売発表に至るまで、なぜこんなに時間がかかったのか? パワートレインなどをアップデートしなったのかについては、
「再販売に時間がかかった理由ですが、法規対応のための開発、さらに設備の立て直し、部品調達の調整に時間がかかってしまいました。基本的に再販前のモデルと一部の改良を除いてアップデートしなかったのは、いち早くお客様にお届けしたかったからです。まずは再販売モデルと基本的に同じ形で再販させていただきました」。
■ミニキャブ・ミーブ再販売モデルはどんなクルマ? どんなモデル?
さて、今回再販売されたミニキャブ・ミーブはどのようなクルマなのか?
搭載される駆動用バッテリーはリチウムイオン電池で、総電力量が16kWh、一充電あたりの航続距離はWLTCモードで133㎞(JC08モードは150km)、モーターの出力は41ps/196Nm(20.0kgm)となっている。
充電時間の目安は、AC200V/15Aの普通充電の場合、約7時間で満充電となり、急速充電は約35分で80%の充電が可能(急速充電器の最大出力電流が60A以上の場合)。
今回、再販売にあたり、どこが進化したのか? 再販モデルはモーターやバッテリーなどパワートレイン系およびエクステリア&インテリアに大きな変更はないが、安全性と機能を強化しているのがポイント。
改良ポイントは3つ。まず1つはASC(アクティブスタビリティコントロール)を追加したこと。ASCはブレーキとモーターを制御することで姿勢の乱れを制御し、クルマの安定性を確保。また滑りやすい路面で発進する際、車輪のスリップを防いで発進加速をサポートする。
次に、暗くなると自動的にヘッドライトが自動的に点灯するオートライトコントロールを装備。3つ目は荷室のユーテリティナットを左右5カ所計10カ所設定。これによってフックやレールの装着が容易になり、積載の業種によって大容量荷室のカスタマイズが可能になるという。
EVというと、床下にバッテリーが配置されるため、荷室容量が犠牲になっているのでは思ってしまうが、ミニキャブ・ミーブは航続距離と荷室容量のバランスを考えて荷室容量の減少を最小限に抑えており、ガソリン車の軽バンと同等の大容量荷室を確保。
最大積載量を見ると、たしかにミニキャブ・ミーブの2名乗車時最大積載量は350kgとエブリイバン(2名乗車時)、ハイゼットカーゴ(2名乗車時)と変わらない。ミニキャブ・ミーブの荷室は、ビールケースは36ケース、パンケースは72ケース、段ボール箱(大)が14個積めるという。
価格は従来モデルからの価格が据え置きで、ハイルーフ2シーターが243万1000円、ハイルーフ4シーターが245万3000円。CEV補助金は現時点では確定していないが、従来モデルは41万円(編集部調べ)。
ボディカラーは4シーターがホワイトとシルバーメタリック、2シーターがホワイト一色。月販目標台数は400台を想定している。
■一充電あたりのWLTCモード133㎞は短い? eKクロスEVのパワートレインをなぜ積まなかったのか?
ミニキャブ・ミーブの一充電あたりのWLTCモード航続距離、133㎞(JC08モード燃費は150㎞)という数値。
一方、最新軽EV、日産サクラ&三菱ekクロスEVは、47kW(64ps)/195Nm(19.9kgm)を発生するモーターを備え、リチウムイオン電池の総電力量は20kWh、一充電あたりのWLTCモード航続距離は180kmと、ミニキャブ・ミーブはeKクロスに比べて67㎞後続距離が短い。
ekクロスEVのパワートレインを搭載すればいいのに……と思う人もいるだろう。さっそく、ekクロスEVのパワートレインをなぜ積まなかったのか、三菱自動車工業・国内営業本部・軽EV推進室の五島賢司氏にぶつけてみた。
「ekクロスEVは日産と共同開発したクルマです。一方、ミニキャブ・ミーブが弊社の独自開発となります。プラットフォームがまるで違いますので移植することが難しかったというのが正直なところです」。
また、将来的に、ekクロスEVのパワートレインを搭載したミニキャブ・ミーブは出るのかという問いに対し、三菱自動車工業・商品戦略本部藤井康輔チーフ・プロダクト・スペシャリスト(CPS)は、
「もちろん、商品強化を測るうえでさまざまな角度から検討しています。リチウムイオン電池のアップデートを含め、検討はしています」と、いつになるかわからないが、近い将来、ekクロスEVのパワートレインが未来の商用EVに搭載される可能性はあることを示唆した。
133㎞という一充電あたりのWLTCモード航続距離についても航続距離が短かすぎる気もするが、実際のところはどうなのだろうか?
三菱自動車の調査では軽自動車およびコンパクトカーのユーザーの約8割は、1日の走行距離は50km以下としており、その大半のユーザーは2日以上充電せずに走行できることを想定しているという。
また同社の軽キャブバンの全国ドライバーアンケート調査でも、「1日の総走行距離は77%が65km以下」という結果が出ているので、133㎞という一充電あたりの走行距離は問題ないと考えているようだ。
実際、物流会社における軽商用バンの配達は「ラストワンマイル(最後の1マイルという距離的な意味ではなく顧客にモノ・サービスが到達する物流の最後の配送区間)と言われており、1日の走行距離の目安が付けやすく、例えば100kmで足りるなら、それに必要なだけのバッテリー容量を計算すればいい。そうしたことから、急速充電をほぼ使わずに、夜間に8時間充電すれば問題ないといわれている。
■軽商用EVはミニキャブ・ミーブのみだが今後参入する動きは?
現在、国内市場において軽商用EVバンを販売しているのは、ミニキャブ・ミーブのみだが、今後、各メーカーが参入してくるのだろうか?
すでに大々的にニュースで流れているのでご存じの方も多いと思うが、佐川急便が2021年4月、自社の配送車両約7200台を2022年9月から順次、中国製EVに置き換えると発表している。
この軽商用EVバンは、佐川急便と日本のベンチャー企業のASFが2020年6月から共同開発。中国・広西汽車が2021年9月から量産を開始し、2022年9月から佐川急便各営業所へ順次納車している。1充電あたりの航続距離は200km。同社はカーボンニュートラル実現のため、2030年までにすべての軽自動車の配送車両をEV化する方針だ。
2021年12月20日、新型アトレー、ハイゼットカーゴの報道発表会にて、ダイハツ工業の取締役社長奥平総一郎氏は、軽EVについても言及している。
「シリーズハイブリッドの利点を生かしたBEVを開発し、2025年までに投入していきたい。バッテリーやモーターはトヨタグループと協力して足並みを揃えて開発、共同調達をすることになると思うが、モーターに関しては軽自動車のEVはかなり低い容量のモーターで済むため、内製も視野に入れている。軽自動車の商用EVの価格に関しては補助金の含め100万台に抑えておかないと買っていただけないのではないか」とコメント。この軽商用EVは、すでに特許申請されており、e-アトレー、e-ハイゼットとして販売されるようだ。
スズキは2021年7月、トヨタ、いすゞ、日野自動車、ダイハツが資本参加しているコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ社に加わっているが、同年11月、鈴木俊宏社長は2025年までに軽EVの販売を目指し、JFEスチールと共同で車体開発を進めていることを明らかにしており、価格についても「補助金含め実質100万円台に下げることが必要」と言及。2022年2月には、鈴木社長はエブリイをベースにしたBEVを今後数年以内に発売することを明らかにした。
ホンダは2022年4月12日に行った「四輪ビジネスの取り組みに関する会見」のなかで、軽商用EVを2024年前半に日本で発売することを明らかにしている。価格は100万円台に抑え、搭載するリチウムイオン電池は、日産リーフの電池を供給している中国系エンビジョンAESCグループから調達する方針だ。
ホンダ三部敏宏社長は「ガソリンエンジンの当社の軽自動車Nシリーズをベースに開発することで製造コストを下げ、100万円台の価格を実現したい」としている。
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こうした状況のなか、ミニキャブ・ミーブの強みといえるのは、やはり10年以上のEV販売で培った信頼性と実績、先駆者としての経験と知見を活かしたサポート体制だろう。
日本郵政グループや東京電力グループの実証実験へ参画し、郵便局の集配用EV車両の走行データや電池残量の推移などのデータを取得、分析して将来のEV性能の向上に取り組んでいるほか、約40社と実証実験および試験導入で合意。
ユーザーが実際に感じるEV導入の困りごとを解決するソリューションや運用サポートサービスなどを行うなど、ミニキャブ・ミーブの強みは多岐に渡っている。
最後に、ぜひとも、車中泊やキャンプ仕様の個人向けミニキャブ・ミーヴ・アウトドア仕様の販売もお願いしたい。
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