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 近年、風習やしきたり、宗教行事は社会の変化に合わせて地域色が薄れてしまっているが、地域によっては残っているものもある。

 今回紹介するのはそのひとつと言える、名古屋型の霊柩車である。霊柩車は大きく分けて、いわゆる欧米式の洋型霊柩車と日本式の宮型霊柩車の2タイプがあり、名古屋型の霊柩車は後者に属している。金箔仕上げでも白木でもなく、とってもレアな唐木を採用した珍しい作りが特徴だ。

文、写真/青山義明 協力/名古屋特殊自動車

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宮型霊柩車の一種、名古屋に4台のみ現存

派手ではないが、かといってシンプルでもない。この個体を見ていると、古刹、名刹とよばれる寺院にも通じる荘厳さを持ち合わせていると感じる

 日本独自の進化を遂げた霊柩車である宮型霊柩車だが、その車両を細かく見ていくと、まるで仏壇のラインナップのように種類が分かれていることに気づく。仏壇? 詳しくない人のほうが多いでしょうから、説明させてもらうと、現在世の中に流通している仏壇といえば、家具調仏壇(一見普通のタンスなどと違和感ない仏壇。首都圏近郊で古くからある箪笥の上半分が仏壇という関東仏壇もそれに属する)、金仏壇(金箔を配した豪華な仏壇)、そして唐木仏壇(唐木と呼ばれる洋材を使用した仏壇)と大きく分けることができる。

 その目線で見てみると、霊柩車は、家具調仏壇が洋型霊柩車、金仏壇が宮型霊柩車に、とそれぞれが当てはまることがわかるだろう。そこで、唐木仏壇の霊柩車バージョンといえば、この名古屋型霊柩車ということになるのであろう。

 唐木というのは、黒檀(コクタン)や紫檀(シタン)、白檀(ビャクダン)や花梨(カリン)、鉄刀木(タガヤサン)といった木目の美しい輸入銘木のこと。黒檀はカキノキ科の樹木で、その名の通り木目の黒地が美しい。硬くて耐久性があるのが特徴で、主な原産地はインドネシア。

 一方、紫檀はタイ、ラオス、ベトナムといった地域が原産のマメ科の樹木。赤紫色で縞模様があり、黒檀と同じように堅くて緻密な材となる。鉄刀木はマメ科の樹木で美しい斑模様が特徴。

 それらの唐木材を使用した唐木仏壇は、主に静岡や徳島などの仏壇の産地で生産されている。金箔を貼った豪華な金仏壇(こちらは鹿児島や広島が主な産地と言われている)とは違い、あっさりとして落ち着いた仏壇として、黒檀や紫檀を中心に日本国内に広く流通している。

 ちなみに唐木仏壇と言いながらも、唐木を使用せずにプリントや塗装で仕上げた唐木の雰囲気のある仏壇から、薄板貼りや厚板貼りといった本物の唐木をしっかり使用しているものまで、唐木の使用状況によってそのクオリティもさまざまである。

 唐木の中でも代表格ともいえる黒檀をふんだんに使った輿を搭載した車両が今回の車両、旧型センチュリーベースの霊柩車だ。中京圏で使われている宮型霊柩車の伝統的な形式を踏襲している。この唐木宮型霊柩車現在は、名古屋特殊自動車が所有する4台のみ存在している。

輿の部分は昭和初期に製造。車両を入れ替えながら今に至る

棺室内部にも黒檀がふんだんに使われている。この木材を知っているならば、この無垢材の使用量による重さがどの程度かもわかるだろう

 この名古屋型霊柩車、輿の部分の屋根は銅板葺きで、輿に使用する木材は全て黒檀を使用。その黒檀には美しい彫刻があしらわれている。黒檀という材は非常に重い木材でもあるが、無垢材を使用していることからもわかるように、輿の部分は非常に重厚であり、車両に搭載していてもしっかりした構造とも相まって丈夫そうなことはよくわかる。

 この撮影をさせていただいた車両の輿の部分、実は昭和初期に製造されたもので、稼働の頻度にもよるが、以前は5~6年ごとにベース車の入れ替えが行われていた。つまり、輿部は一つの構造物として出来上がっており、これを台車に乗せ換えていくというイメージである。

 いろいろな規定や摺動部分も多いベースの車両よりも、堅牢な輿の部分だけが特別に長い歴史を持っているのだ。モノがしっかりしているだけに、輿の部分は何度も分解・組み立てのメンテナンスも受けながら長く愛されている霊柩車と言える。

仏壇と同じように独自の発展を遂げた霊柩車

 関東圏の方なら白木の宮型霊柩車を目にしたひともいるだろう。杉やヒノキのような白い木目をそのまま活かして作られた輿を搭載した霊柩車だ。仏壇には白木というバリエーションはないのだが、一般家庭では神棚という白木でできた神聖なモノは存在している。つまり、日本人にある、日本人の供養の形式に合った霊柩車の進化は見られるわけで、そういった意味でも仏壇と同じように、霊柩車の展開も見られる、のだ。

 今回はその材質と仕上がりの点で霊柩車を分類してみたが、ひと言で輿といっても、宮型霊柩車の場合、その輿の部分はさらにその地域での様式も存分に盛り込まれるはず。輿の部分を詳細に見ていくだけでも、伽藍などの寺社彫刻にも通じる彫り物は実にたくさんの意匠があるはずで、地方によっても特色が出ていたはず、だ。

 また、その霊柩車を使う際のお値段についても気になるところであろう。基本的に霊柩車は基本価格(地域差アリ)に走行距離、待機時間などの設定がある上に、我々一般ユーザーが葬儀業者を介さず、直接特殊運送会社に依頼することもあまりないので、単純に価格を出すことはできないが、洋型に比べ宮型は価格が高く設定されていることが多い。そんなこともあり、逆風だらけと言えるが、せめて完全に絶滅する前に、紹介をする機会を設けて行きたいものだ。

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投稿 もはや走る仏壇!? 名古屋型霊柩車の重厚な作りを見よ自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。