新型コロナウイルスの新規感染者が世界的に収束傾向にあり、アメリカのバイデン大統領は9月末にパンデミック(世界的大流行)は「終わった」との見解を示した。日本でも、今月10日からようやく水際対策が緩和され、コロナ前の日常が戻りつつある。
そうした中、今度は別の感染症が流行の兆しを見せている。BNO NEWSなどの報道によると、アフリカ大陸の東部に位置するウガンダで、先月中旬からエボラ出血熱が発生し、今月11日には初めて首都・カンパラで死者が出た。11日までに少なくとも74件の症例と39人の死亡が報告されている。これを受けて、同国のムセベニ大統領は、国民向けに緊急の演説を行う予定だという。
アメリカはいち早くアラート発令
エボラ出血熱はエボラウイルスによる感染症で、ウイルスは患者の血液、唾液、吐瀉物、排泄物に含まれ、これらに触れたときに皮膚から体に入り、感染する。2~21日の潜伏期の後、熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛、咽頭痛等の症状を呈する。その後、嘔吐、下痢、胸部痛、吐血、下血等の症状が出現する。
エボラ出血熱は、致死率が非常に高いことで知られている感染症だ。新型コロナウイルス感染症(オミクロン株)の致死率は0.2~0.3%だとされているが、エボラ出血熱の致死率は「ザイール型」で約90%、「スーダン型」で約50%に上る。今回、ウガンダで確認されたのは致死率が比較的低い「スーダン型」だが、「スーダン型」は有効なワクチンが確立されていない。
この事態に、アメリカはいち早く対応している。米国疾病対策センター (CDC)は10月4日、旅行者に対して強化された予防措置を講じる必要のある、「レベル 2」 のアラートを発令した。さらに、ムベンデ、カサンダなどそれまでに症例が発症した地域に対しては、不要不急の旅行を避けるよう警告が出された。
また、「21日以内にウガンダ滞在歴がある渡航者は、検査設備のある指定空港のみに到着先を限る」、「入国時にスクリーニング検査を義務付ける」といった水際対策も今月6日から始めている。
日本は情報更新すらなし
一方、日本はというと、厚生労働省と外務省がWHOの発表をもとに、ウガンダでエボラ出血熱が発生したとアナウンスするのみ。「感染者が発生している地域には近づかないようにし、感染者又は感染の疑いがある人との接触は避けてください」としているが、首都・カンパラで感染者および死者が出た情報は更新できていない。
外務省が発表する危険度は、コンゴ民主共和国との国境付近など東部の一部地域はレベル2の「不要不急の渡航は止めてください」だった。首都カンパラを含む大半の地域はレベル1の「十分注意してください」。これは、昨年10月から11月にかけて該当地域で爆弾テロ事件や、治安当局と強盗との銃撃戦により双方に死者が出る事件が頻発していることを受けてのものだ。
また、感染症危険情報については、8月24日にレベル2の「不要不急の渡航は止めてください」からレベル1の「十分注意してください」に引き下げられている。この情報は8月24日以降更新されていない。外務省の感染症危険情報は、新型コロナウイルスのみを対象にしているのではないだろうか。
振り返ってみれば、新型コロナウイルスの初動を巡っても、日本政府は大きな批判を浴びた。緊急事態宣言が初めて発令されたのは2020年4月7日だが、国内初症例が確認されてから約2か月半が経過していた。その間に、累計の新規感染者数は4,500人以上に上っていた。
一方で、アメリカは2020年2月2日に緊急事態宣言を発令。最近中国へ渡航した履歴がある外国人および中国からの渡航者の入国を禁止すると発表した。また、入国規制は自国民にもおよび、過去2週間以内に中国湖北省に滞在していた米国民は最大14日間にわたり強制的に隔離されることになった。欧米諸国も同様で、2月初旬には多くの国が中国からの入国制限措置を取っていた。日本が中国からの入国制限措置を取ったのは、各国から1カ月あまり遅れた2020年3月9日のことだった。
WHO「国際的な広がりのリスク排除できない」
ウガンダでのエボラ出血熱の発生を受けて、今年9月26日、WHOは「承認されたワクチンがなく、最初の症例が発見される3週間前にアウトブレイクが始まった可能性がある」「国境を越えた活発な人口移動により、国際的な広がりのリスクを排除することはできない」との声明を出した。
新型コロナウイルスとは比べ物にならないほど高い致死率の感染症の世界的な流行が懸念される中、日本はウガンダの危険情報、感染症危険情報ともに今年8月末以降、更新すらされていない。アメリカと比べると、危機感が薄いと言わざるをえない日本政府の対応。
折りしもインバウンド全面解禁へ、入国時のコロナ規制が大幅に解除されたばかり。いつものように、日本人の感染者が出てからはじめて大騒ぎするのだろうか。