2022年1~6月の小型/普通車販売ランキング1位はトヨタ ヤリス。ただし、これはヤリスクロスやGRヤリスも含めた「ヤリス全体」での結果となる。ランキング2位のカローラ(カローラ、カローラスポーツ、カローラツーリング)でも同様だ。
ヤリスファミリー、カローラファミリーの中のそれぞれを別車種として計算すると、3位のトヨタ ルーミーが上半期の「真の1位」となる。
隠れた実力者ルーミーの人気の秘密とは!?
文/渡辺陽一郎、写真/TOYOTA、SUZUKI、DAIHATSU
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■売れ筋軽自動車の拡大版で人気を得た! ルーミーの底力とは?
2022年上半期(1~6月)の小型/普通車販売ランキングは、1位:ヤリス(1か月平均登録台数は1万3597台)、2位:カローラ(1万1831台)、3位:ルーミー(1万921台)であった。
このうち、ヤリスとカローラは、SUVを含めて複数のボディを合計したシリーズ全体の登録台数だ。ヤリスのボディ別の販売内訳は、ハッチバックが1カ月平均で約6520台、SUVのヤリスクロスは約6780台だ。残りがスポーツモデルのGRヤリスになる。
カローラも同様で、最も多く登録されたタイプは、SUVのカローラクロスだ。1カ月平均の登録台数は約5310台だから、カローラシリーズ全体の45%を占めた。カローラシリーズの2位はワゴンのツーリングで、全体の20%だった。
このように小型/普通車の登録台数をボディ別に見ると、1カ月平均で1万台を超えたのはルーミーのみだ。クルマを買う時には、ヤリスとヤリスクロス、カローラクロスとカローラツーリングは別のクルマと考えるから、ユーザーから見た小型/普通車の実質的な販売1位はルーミーになる。
■軽自動車も含めた「売れてるクルマ」の共通点は?
それなら軽自動車も含めたらどうか。国内販売の総合1位は、軽自動車のN-BOXだ。2022年上半期の1カ月平均届け出台数は1万7325台であった。2位はスペーシアで7946台だから、ルーミーの1万921台よりも少ない。
つまり、ルーミーは小型/普通車の実質的な販売1位で、軽自動車を含めた総合順位でも2位に入る。
ルーミーが好調に売れている理由は、国内総合販売ランキングの上位車種を見るとよくわかる。1位:N-BOX、2位:ルーミー、3位:スペーシア、4位:タントと続く。これらの販売上位車種に共通するのは、全高を1700mm以上に設定してスライドドアを備えるスーパーハイトワゴンになることだ。
もともとスーパーハイトワゴンは、2003年に初代タントが発売されて注目され、2007年末に登場した2代目タントからスライドドアを採用した。ほぼ同時期に、スズキもスライドドアを備えるスーパーハイトワゴンのパレット(スペーシアの前身)を投入して、人気のカテゴリーが成立した。
今ではN-BOX、スペーシア、タント、ルークス、eKスペース&eKクロススペース、ウェイク(2022年8月11日に生産終了)という具合に、各メーカーが軽自動車のスーパーハイトワゴンをそろえる。軽乗用車の新車販売総数のうち、50%以上をスーパーハイトワゴンが占めている。
ルーミーが人気を得た一番の理由は、N-BOXを始めとする人気の高い軽自動車のスーパーハイトワゴンを、小型車サイズへ素直に拡大したことだ。「スーパーハイトワゴンが欲しいけれど、軽自動車では物足りない」というニーズに応えて売れ行きを伸ばした。
■ルーミーが人気を高めた理由
小型車のスーパーハイトワゴンとして、以前からソリオも用意されていたが、スズキは軽自動車が中心のメーカーだ。売れゆきは伸び悩んだが、トヨタは小型/普通車が中心だから、ルーミーもヒット作になった。
ルーミーが人気を高めた機能的な理由は、軽自動車のスーパーハイトワゴンと共通だ。
ボディサイズは全長が3700mm(カスタムは3705mm)、全幅は1670mmとコンパクトで、最小回転半径も4.6m(カスタムG-Tは4.7m)だから小回りの利きもいい。水平基調のボディは視界も優れ、軽自動車並みに運転しやすい。
その一方、全高は1735mmだから、車内が広い。後席の背もたれを前側に倒すと座面も連動して下がり、大容量の荷室になるから自転車なども積める。
荷室の最も低い部分の床面地上高は527mmに抑えられ、自転車を積む時も、前輪を大きく持ち上げる必要はない。後席のドアはスライド式だから、開いた時にドアパネルが外側へ大きく張り出さず、狭い場所でも乗り降りしやすい。
そしてルーミーは特に使い勝手に配慮した。収納設備が豊富で、インパネに装着されたカップホルダーには、500mLの紙カップも収まる。荷室の床を反転させると、汚れを落としやすい素材が貼られ、タイヤの汚れた自転車を積んだ後の清掃も簡単だ。
エンジンは直列3気筒1Lだが、軽自動車に比べると、排気量は1.5倍に増える。最高出力は69ps、最大トルクは9.4kg-mで、軽自動車のタントはノーマルエンジンが52ps/6.1kg-mだから、ルーミーの最大トルクは排気量と同じく1.5倍に相当する。ノーマルエンジン車で坂道を登ろうとした時は、ルーミーに余裕がある。
■安全性と割安感も追い風に
また、ルーミーは軽自動車に比べて全幅がワイドだから、カーブを曲がったり、車線を変えたりする時の安定性も自然な印象だ。「小型車のほうが安心」と考えるユーザーは多い。
ルーミーの価格は、最も安い標準ボディのXが、衝突被害軽減ブレーキ、キーフリーシステム、左側スライドドアの電動機能などを標準装着して155万6500円だ。
中級のGは、LEDヘッドランプ、右側スライドドアの電動機能、エアコンのオート機能などを加えて価格は174万3500円になる。
同程度の装備を採用する軽自動車のスーパーハイトワゴンに比べて、15~20万円の価格アップに収まる。税金の安さを重視しない1台だけのクルマを所有する世帯では、ルーミーの魅力が際立った。
ルーミーが2016年に発売された時点では、トヨタブランドの姉妹車としてタンクも用意したが、2020年にトヨタが全店で全車を販売する体制に変わり、タンクを廃止した。
そのために需要がルーミーに集まり、2021年1~6月の登録台数は、前年の約2倍に達した。この時からルーミーの販売にいっそうの弾みが付いて、販売ランキング上位の常連になった。
以上のような経緯により、ルーミーは「トヨタで買える実用的で割安なスーパーハイトワゴン」として人気を高めた。ただし購入時の注意点もある。
■ルーミーを選ぶ上での注意点
まずエンジン、プラットフォーム、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)の数値はパッソと同じだが、車両重量はルーミーが約200kg重く、全高も210mm高い。
基本的なメカニズムはパッソと共通でも、ルーミーはボディが重く背も高いから、小型車では走行安定性に不満を感じる。例えば危険を避ける時などは、ボディが大きく揺り返す。ステアリングの操舵感も曖昧だ。
同様の理由で乗り心地も粗く、エンジンの負荷が大きいから、登坂路ではパワー不足に陥りやすい。3気筒特有のザワザワしたノイズも響く。ターボならパワー不足は解消されるが、2000~3000rpmの実用域で、耳障りなノイズが発生する。
後席は頭上と足元の空間が広いが、床と座面の間隔は不足しており、足を前方へ投げ出す座り方になりやすい。座面の柔軟性も乏しく、座り心地や腰の支え方もよくない。
さまざまな欠点が生じた理由は、ルーミーとその姉妹車を約2年という短期間で開発したからだ。2014年には、先代ハスラーのヒットをきっかけにスズキとダイハツの販売合戦が激化して、国内で新車として売られたクルマの41%が軽自動車になった(2021年は37%)。
■ニーズに合わせた短期開発ゆえの弱点も
この影響で小型車から軽自動車への乗り替えも増えて、小型/普通車しか生産しないトヨタに危機感が生まれた。軽自動車の販売急増にストップをかけるため、傘下のダイハツが大急ぎで開発したのが、ルーミーとその姉妹車であった。
開発期間が乏しく、当時はDNGAの新しいプラットフォームもないから、必然的にパッソをベースに開発した。その結果、前述のような欠点が生じている。
また開発に費やせる時間が短いから、小型車としての工夫を施す余地もない。軽自動車のスーパーハイトワゴンにきわめて近い小型車になったが、そのために商品の特徴がわかりやすく、人気を得ることもできた。
以上のようにルーミーは、よくも悪くも大急ぎで作った売れ筋軽自動車の拡大版だ。そのために販売が好調に推移している。
購入時には、ソリオの試乗車と乗り比べると、ルーミーの長所と短所がよくわかる。販売店に納期を尋ねると「ルーミーは4カ月から5カ月」「ソリオは6カ月」とのことであった。通常に比べると長いが、昨今の納期遅延の状況を踏まえると、半年以内ならむしろ短い部類に入る。
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