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 エンジンの型式認証で不正を繰り返してきた日野自動車だが、10月に二度と不正をおこさないための「3つの改革」を策定し、このほど不正の温床となってきた組織風土を改革するために、経営層と従業員が対話する「経営情報共有会」が実施された。

 日野が信頼回復に向けて歩み始めるいっぽうで、型式認証の監査を行なう立場にありながら、約20年に渡り不正を見抜けなかった国土交通省にも批判が集まっている。

 自動車メーカーの不正としては、2016~2017年に三菱自動車の燃費不正や日産・スバルの完成検査不正などが相次ぎ、防止に向けた対策が強化された。今回の日野の不正においてもその背景の分析と、審査・監査の強化が発表されている。

 また、不正行為の通報窓口も国交省に拡充設置されている。社員からの「チクリ」で不正が発覚するというのも嫌な話ではあるが、抑止力になるのであれば、これもしょうがない事かもしれない。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/フルロード編集部、日野自動車、国土交通省、AdobeStock(トップ写真=hirota@AdobeStock)


「組織風土」の改革に向けて対話会を実施

 日野自動車によるエンジンの型式認証不正問題は、顧客企業やトラックドライバーを始め、ディーラーや架装メーカーなどを含めた全てのステークホルダーに多大な影響を及ぼしている。

 日野は10月に二度と不正を起こさないための「3つの改革」の策定・公表を行ない、すべての礎となる新企業理念「HINO ウェイ」に則った改革を推進している。その改革案では、まずは経営層が意識を変え、覚悟を持って率先垂範することで、「経営」「組織風土」「クルマづくり」における全社的な改革を断行するとしていた。

 11月2日には「組織風土改革」に向けた施策の一つとして、経営層と従業員の対話の場となる「経営情報共有会」が実施された。

 対話会では、社長の小木曽氏および財務・経理領域 領域長の松川氏がそれぞれ登壇し、二度と不正を起こさないための「3つの改革」や上期決算の状況を改めて説明した後、コミュニケーションの活性化を図るため、参加した従業員との質疑応答や意見交換を行なった。

3つの改革にかける思いと相互理解

社員の存在を抜きにして不正防止はできない!? 対話重視の日野自動車とチクリ奨励の国交省
経営層と従業員の対話会の様子

 小木曽社長は「変化が激しい時代には経営情報をしっかりと共有し、一人ひとりに考えていただき、もちろんマネジメント側もしっかり指揮をとりながらやっていく事が大切。今後も双方向でコミュニケーションを続けていきたい」と本会の位置づけを示した。

 今回のエンジン認証不正問題については、企業の職場風土が大きく関係していることを挙げたうえで、改めて「3つの改革」について説明した。また、改革にかける思いについて、次のように話した。

 「これらの改革を、一人ひとり・チームで考え、行動を起こしていきたい。自分も役員も部長も課長も工長も職長も先輩から若手まで含めて、全員がやっていくことが大切なので、ぜひみんなの力を貸してほしい」。

 従業員からは「日野自動車の現状やこれから」「3つの改革」「新しい体制に向けた期待や不安」などに関する質問・コメントがあり、これを基に対話を行なった。

 最後に、「今後も対話の場を大切にし、抱えている真実や課題に迫り、その解決に向けしっかりと連携・相談しながら進め、信頼回復に向け愚直に実行していきたい」として経営情報共有会は終了した。

不正を見抜けなかった背景は……

 いっぽうで型式指定の審査と試験の監査を行なう立場にある国土交通省が、約20年に渡り不正を見抜けなかったことにも批判が集まっている。そのため国交省は型式指定の不正防止に向けた監査強化等の取組を9月に発表している。

 自動車メーカーによる不正に関しては、2016年に発覚した三菱自動車工業による型式指定における燃費不正を受けて、国交省は不正行為の防止策を取りまとめるとともに、道路運送車両法を改正して自動車メーカーによる型式指定の虚偽報告に対する罰則強化などを行なっていた。

 しかし翌2017年には日産自動車等による完成検査における不正が発覚。メーカーへの監査を無通告としたうえで、再び道路運送車両法を改正してメーカーに対する是正命令の導入などを行なった。

 今回の日野自動車による一連の不正においては、こうした改正で拡充された規定を適用して型式指定の取り消しや是正命令の発出等を行なっている。

 なお、今回の不正行為を見抜けなかった背景を、国交省は次のように分析している。

●試験データの書き換え:型式申請以前に行なわれるため、立ち合いを行なっておらず、自動車メーカーとの信頼関係を前提としていた。

●量産時とは異なるエンジン制御プログラム:制御プログラムが量産時と同じであることの確認を行なっていなかった。

●燃料流量校正値の変更:校正証明書は確認していたが、証明書に記載される校正値が変更されていないことまでは確認していなかった。

●燃料流量が安定しない段階で燃費測定を開始し測定結果を偽ったこと:このような手口があることを審査官が認識していなかった。

●社内試験において都合の良い測定結果のみを国に提出したこと:社内試験のすべてに審査官が立ち会うわけではなく、メーカーとの信頼関係を前提としていた。

自動車メーカーに対する監査・審査を強化

 こうした不正行為が、日野自動車だけでなく他のメーカーにおいても二度と行なわれないようにするため、国交省と審査機関である(独)自動車技術総合機構自動車認証・審査部は、次のような監査・審査の強化を行なう。

 排ガスの長距離耐久試験については、測定記録や試験条件の確認、申請者の社内チェックの強化などを求める。中長期的には国際調和基準の導入など試験の見直しを検討する。

 燃費性能試験は、2025年から生産時抜取試験の実施が義務化される。また、今回の不正で審査官が認識していなかった手口などを確認項目に追加する。

 虚偽報告については、社内調査の実施方法などについても報告を求め、抜き打ち監査により報告の妥当性を検証する。また開発・型式指定プロセスを通じて、是正命令に関わるような社内の問題点について、確認・指導を行なう。

 ところで、2016~2017年の燃費不正・完成検査不正を受けて、国交省に「自動車メーカーにおける不正行為の通報窓口」が設置されている。

 たしかに不正行為は社内にいる人間にしかわからない部分も多い。メーカーが社会への責任を果たしていくことを望むと同時に、通報窓口が不正に対する抑止力になってくれることを祈るばかりだ。

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