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 10月31日から警視庁は、「信号無視」、「一時不停止」、「車道の右側通行」、「徐行せずに歩道通行」という4つの違反の取り締まりを強化している。なぜ強化することになったのだろうか?

 スクランブル交差点の歩行者用信号が青信号だったので、何気なく自転車に乗って渡ったら、警察官に「違反ですよ!」と赤切符を取られたというケースもあるという。

 そう、自転車は車両のなかま、軽車両なのである(ただし、自転車を押して歩いている者は歩行者と見なされる)。

 ここでは、改めて自転車が守らなければいけない交通ルールを解説していく。また電動キックボードについても言及する。

文/諸星陽一
写真/ベストカーweb編集部、Adobe Stock(トップ画像=hideaki@Adobe Stock)

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■警視庁の自転車取り締まりの強化は4つの違反とされた

警視庁は2022年10月31日から自転車の交通違反に対する取り締まりを強化した。自転車はれっきとした「車両」なのだ(Hirayama toshiya@Adobe Stock)

自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~(警察庁)

 警視庁は2022年10月31日から自転車の交通違反に対する取り締まりを強化した。警視庁のデータによれば、都内の自転車への赤切符の交付は2022年9月末時点で3906枚と、前年同月比に比べ、669枚増加しているという。

 テレビのワイドショーなどでは、自転車取り締まりの様子が放送されるとともに、コメンテーターがさまざまな意見を述べている。私はドライバーとしての立場から、この自転車取り締まりについて考えてみたい。

 警視庁が取り締まりを強化するのは以下の4つの違反とされている。

1.信号無視
2.一時不停止
3.右側通行
4.徐行せずに歩道走行する

 「なんだかなあ」である。4はクルマには無縁だが、1から3の違反、クルマがやったら一発で捕まるし、動画が撮影されたらあっという間に拡散されて、悪の権化のような扱いを受けるだろう。いままで、取り締まっていないほうが大間違いである。

 これまで自転車の違反は、悪質な違反者に「自転車指導警告カード」が渡され、罰則のない警告として大半が処理されてきたが今後は、刑事処分の対象となる赤切符(前科がつく)を積極的に交付していくことになる。ちなみに上記に挙げた道交法違反は、3ヵ月の懲役または5万円以下の罰金となる。

 筆者は来年で還暦を迎えるが、小学生のときに自転車の乗り方を学習する機会があった。今はどうかといえば、小学校で交通安全教室は行われているし、親が道路交通法を教えることも社会生活を送るうえでは大切なことである。

 まあ、その親が道路交通法を守らないから子供も守らないのだろう。歩行者用信号が点滅し始めると「さあ、急ぎなさい」と言って子供の手を引いて走りはじめる親のなんと多いことだろう。親がそうすれば子供はそれでいいと思うし、周囲の大人がそうすればそれでいいと思うだろう。

自転車の違反行為一覧。平成27年6月1日から、交通の危険を生じさせるおそれのある一定の違反行為(危険行為)を反復して行った自転車の運転者に対し、自転車運転者講習を実施している。講習時間は3時間、講習手数料は6000円(標準額)。受講命令に違反した場合は5万円以下の罰金

■取り締まりはきちんと行われるのか? 4項目だけでいいのか?

警察庁が公式ホームページで公開している自転車安全利用五則(令和4年11月1日交通対策本部決定より)

 さて、話を自転車に戻そう。この取り締まりの強化だが、これらの行為はそもそも違反であったが、それが見過ごされていただけであって、従来も違反であったことには変わりはない。

 そうした違反を見過ごさないようにしようということなのだが、この動きは過去にもあった。2013年1月には東京地検が自転車の悪質違反者について、略式起訴する方針を打ち出した。

 このタイミングでもテレビなどでは、違反を取り締まる警察官の姿が放送され、街中でも自転車対応をしている警察官を見ることがあったが、1週間もするとその姿を見ることはなくなった。

 つい先日もクルマの一時不停止を取り締まるために隠れている警察官の目の前を、イヤホンをして、傘を差して、一時不停止で走り去る自転車を見過ごしていた。

 そうした態度に対し筆者が「自転車の違反は取り締まらないのですか?」と聞いても、無視されただけ。ほかの同じようなときに「はあ」と言われることもあった。まあ、無関心である。

 一時不停止の取り締まりを受けたことがある人ならわかるだろうが、クルマの場合は完全にタイヤの回転が止まり、なおかつブレーキランプが点灯しないと一時不停止とされることが多い。

 バイクの場合も同様だが停止後に少なくとも片足を地面に付けないとならない。

 自転車もバイクと同じような判断で取り締まりが行われなければ不公平だが、一時停止の標識があるところで、こうした一時停止をしている自転車を見ることはなかなか難しいし、警察官や道路監視員の乗る自転車でさえ一時停止しないことがある。

 一時停止はその交差点が一時停止しないと危険だから一時停止の看板が掲げられている。しかし、一方通行の場合は逆走側には一時停止の看板がない。

 都内などでは路面に自転車のイラストとともに「とまれ」の文字添えられた「自転車ストップマーク」がペイントされていることも多いが、このペイントは注意喚起のためのもので法的拘束力はない。

 つまり、一方通行を逆走してきた自転車(多くの一方通行は自転車を除くとなっている)は、危険な交差点に一時停止することなく進入していいのである。これは法律の大きな不備だと言える。

 この不備を正しくするには、「自転車ストップマーク」に法的拘束力を与えたり、自転車はすべての交差点で一時停止を義務化したり、するといったことが必要だ。

 そして今回の4項目の選び方には大きな疑問を感じる。なぜ「飲酒」や「酒気帯び」が入っていないのか? なぜ「携帯電話使用等」が入っていないのか? なぜ「傘さし運転」が入っていないのか? なぜ「イヤホンをしての運転」が入っていないのか? 不思議でしかない。

■交通ルールという言い方 やめにしませんか?

意外と知られていないのが一方通行の規制だ。「自転車は除く」といった補助標識が追加されていなければ、逆走は違反だ。しかし、この補助標識が付いていない一方通行路も意外と多い

 自転車が一時停止の標識のある場所で一時停止するのは、道路交通法でそう定められているから。にもかかわらずテレビをはじめとしたメディアでは「交通ルールを守りましょう」という言い方をする。

 なにか「交通ルール」という言葉を使って、ものごとをやんわりさせようとしているのだろう。人はもともと規制されるのが嫌いなので「道路交通法」と言われるより「交通ルール」と言われたほうが耳障りがいい。しかし、取り締まりは道路交通法に則って行われるし、略式起訴も同様である。

 あなたがしているのは、道路交通法違反ですよということを明確に知らせるほうがいいと思う。やんわりした表現にすれば、それだけ「大したことではない」と思われる可能性もある。

 いずれにしても自転車には運転免許がないため、正しい自転車の乗り方を学ぶ機会がほぼないので、自転車購入時に自転車の正しい乗り方の講習を義務付け、講習済みのカードを常時携帯するなどの措置が必要ではないだろうか。

急速に増えてきた自転車専用通行帯。もちろん逆走は違反だ。手前の自転車は自転車ナビマーク、奥の青い矢印は自転車ナビライン。矢印の向きに走行し、逆走はできない

■ヘルメット着用が任意の電動キックボードはやっぱり理解しがたい

警察庁が公開している自転車利用五則では自転車のヘルメット着用が織り込まれていて、自転車乗用中の乗車用ヘルメット非着用時の死傷者に占める致死率は着用時に比べて3倍も高くなっており、頭部損傷が重大な事故につながりやすいことが確認されているのにもかかわらず、なぜナンバー付きの電動キックボードのヘルメット着用が任意なのか

 現在、電動キックボードは2種に大別されている。個人などが所有するものは原動機付き自転車となるので、ヘルメットの着用が必要であるとともに、原付スクーターと同じ法律で運用する必要がある。

 一方で特例電動キックボードと言われるものは、小型特殊自動車扱いとなり、ヘルメットは任意(着用を推奨)となっている。特例電動キックボードは首都圏などで実証実験が行われているものなので、今後法規が変更になる可能性は十分に考えられる。

 さて、ヘルメットは何のために装着するのだろう? 安全を確保するために装着するに決まっている。では、小型特殊自動車扱いの特例電動キックボードは安全性が高いのだろうか?

 特例電動キックボードは最高速度が15km/hに制限されているので、自損事故という面では安全性は高いかもしれない(それも疑問だ)が、相手がいる事故となると制限速度はあまり関係ないだろう。実証実験だからヘルメットを装着しなくてもいい……というのはまるで人体実験をしているようで気味が悪い。

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