「いまさらMTは操作できない」とか、「AT限定免許だから」とか、MT車に乗らない理由は人によってさまざまだろう。しかしそんな人々も、実は内心「普段乗りは楽で快適に……でも走りも楽しみたい!」と思っているはず。
そこで本稿では、そのようななニーズを満たす、AT車でも走りが楽しめるモデルについてクローズアップしていこう。
文/フォッケウルフ
写真/マツダ、スバル、ホンダ、ダイハツ、スズキ、トヨタ
■MTが絶滅危惧種となった今、ATはどうか?
新車市場におけるAT(オートマチック・トランスミッション)車の普及率が約9割となった現代。今やMT(マニュアル・トランスミッション)車で走りを楽しむという風潮は、もはや古い価値観になってしまった。
言わずもがな、MT車は変速を手動で行うトランスミッションを搭載したクルマであり、ドライバーが加速、あるいは減速したいといった意思に対してダイレクトな操作ができる。さらに、速度に合わせたギアを選択するといった行為もクルマを操っていることを強く実感させ、AT車とは違った運転の醍醐味や面白さを味わわせてくれる。
しかし一方で、ATと比べて運転操作が煩雑であることや、発進時や渋滞時にスムーズに走り出すために気をつかうこと。さらに、坂道発進ではそれなりの技量が求められることなど、こうした難しさが敬遠されるため、多くの若者たちがAT限定免許の取得を選択する要因のひとつとなっている。
MT車が絶滅危惧種となっている事実は、走りを楽しみたいと考える人にとっては由々しき事態かもしれないが、今どきのATだって侮れない。ひと昔前のATは、トルクコンバーターによる変速時のスリップが駆動ロスを生み、それによる伝達効率の悪さが変速のもたつきや加速の悪さを生み出し、スポーティに走りたいというドライバーの意思に応えられないことが多かった。
■よりドライビングに集中できて運転を堪能できる?
このウィークポイントを解消したのがロックアップ機構で、トルクコンバーターの油圧クラッチを機械的に固定し、ダイレクトにエンジンの力をトランスミッションへ伝え、トルコンの問題点であった”滑り”を減らしてAT車でもダイレクト感のある走りが可能になった。
自動車メーカーもより高性能なATを開発するべく技術革新を進め、その結果、現代のような高性能で、走行状況によってはMT車よりもスポーティに走れるほどの進化を遂げている。
ATは速度に応じた適切なギアを自動で選んでくれるうえに、レスポンスがよく、エンジンの出力を効率的に伝達できるのが最たるメリットである。さらにスポーツ走行に特化したモードを備えた車種では、加速・減速・旋回が連続する状況において、ドライバーのブレーキやアクセル操作から次の挙動を予見して最適なギヤを選択するという、MT車のお株を奪うような制御ができるものもある。
結果として、ドライバーはブレーキングとコーナリングにより集中できるから、理想的なコーナリングの成功率が高まり、達成感と爽快感が得られる。運転操作の一部を機械が最適化することで、MT車のような操っている感はやや薄まっているが、AT車でも運転の楽しさは存分に堪能できる。
それでは「ATでも走りが楽しめる」という観点で、オススメのクルマをクローズアップしていこう。先述のような、レスポンスがいいとかエンジン出力を効率的に引き出せるといったトランスミッションそのものの性能だけでなく、日常的な用途でも便利かつ快適に使えるという要素も踏まえて選抜してみた。
■スポーティな走りが楽しめる国産車たち!
●マツダ CX-60
SUVながらマツダが提唱する”人馬一体”の思想を具現化。重心が高く、車重が思いSUVでありながら、ドライバーの期待とクルマからのフィードバックのリズムを一致させ、互いをシンクロさせるという考えのもと、パワーユニットの特性やシャーシの設定が煮詰められている。
なかでも新開発8速ATは、トルコンをクラッチに置き換えることでエンジンやモーターのトルクをダイレクトに伝え、MTのような駆動伝達と切れのいいリズミカルな変速を実現。アクセルの踏み込み、ハンドルを切ったときのフィーリングなど、あらゆる領域において、意のままにコントロールする楽しさが実感できる。
●スバル WRX S4
2.4L直噴ターボエンジンとトランスミッションのきめ細かな協調制御によって、伸びやかに出力が上昇する、途切れない加速感を実現する。トランスミッションは、2ペダルのスポーツドライビングを極めるべく開発された「スバルパフォーマンストランスミッション」を採用。
素早い変速や操作に対する応答性のよさはもちろん、S、S#モード選択時には、アクセルやブレーキペダルの操作からドライバーの意思を読み取り、トルク制御やブリッピングを駆使してシフトアップ&ダウンを行い、まるで熟練ドライバーが操作するMTのような変速感覚が味わえる。運転の楽しさはもちろん、セダンならではの居住性や実用性の高さも魅力だ。
●ホンダ シビック
現行型は「爽快スポーツe:HEV」をコンセプトに進化を遂げた。パワーユニットは2タイプ設定されており、主力は2L直噴エンジンと進化したハイブリッドユニットを組み合わせたスポーツe:HEVだが、熟成が図られた1.5L VTECターボエンジンも選べる。
スポーツe:HEVは、電気のパワーを活かした上質かつ爽快な走りが持ち味で、いっぽうの1.5Lターボは、アクセルワークに対して期待通りの加速レスポンスと伸びを発揮し、なおかつ強い加速を行う際に、エンジン回転数を段階的に制御して有段トランスミッションのような変速を実現する全開加速ステップアップシフト制御を採用したCVTが組み合わされる。耳に心地いいエンジンサウンドも相まって、クルマとの一体感を存分に堪能できる。
●ダイハツ コペン
ジャンルとしてはスポーツカーに属するので、走りが楽しめることに重きをおいて開発されているのは言わずもがな。しかし、コペンは他のスポーツカーとは違って、扱いに際してさほど神経質にならずに済むのがいい。軽自動車だからボディが小さくて取りまわしがいいし、車重が軽いので660㏄の排気量でも気持ちよさは十分に味わえる。
トランスミッションはCVTだが、コペン専用のセッティングがなされていて、マニュアル操作も可能。さらに、シフトダウン時にはショックのないスムーズな変速を行う「ブリッピング制御」が採用されるなど、スポーツドライブを楽しませてくれる。
●スズキ スイフトスポーツ
“走りを楽しむ”というテーマの記事において、圧倒的な出現率を誇るコンパクトスポーツハッチバック。歴代いずれのモデルも、スイフトをベースに日常での使いやすさを確保しながら、高性能なホットハッチバックへと仕上げられ、走りにこだわるカーマニアから絶大な支持を集めてきた。
本来、スイフトスポーツのようなクルマはMTで乗るのが定石だが、現行型の6速ATはスポーティな走りのためにチューニングが施され、パドルシフトを操作すれば素早い変速が可能だ。1.4Lターボのパワフルな動力性能と、軽快なハンドリング性能という持ち味は、ATであっても楽しむことができる。
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現代の自動車界においては、おっさん世代が楽しめるMT車は一部の高額スポーツカーを除けば風前の灯。自動車業界の将来を担ってほしい若者はAT限定免許を取るのが主流である。それでもかつてMT車で走りを楽しんだ人たちからすれば、ギアとギアをつなぐ変速を手動で行ってこそスポーツ走行であり、機械任せのシフトチェンジに物足りなさを感じるかもしれない。
しかし、MTでなければ走りは楽しめないのか? MT車こそがクルマ好きの選択なのか!? と問われれば、すべて否である。AT車であっても走りにこだわった車種は選べるし、AT車ならイージーかつスマートに走りを楽しめるのだから。
【画像ギャラリー】ATでも運転が楽しいスポーツモデルを写真で見る!(12枚)画像ギャラリー投稿 エーティーでもエーじゃないか!? ATでも走りを存分に楽しめる国産車5選 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。