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何が人を惹きつける? レガシィ スカイラインGT-R iQ エレメント… 平成レトロカーにあって今のクルマにないもの

 時代もクルマも熱かった平成中期、さまざまな自動車が現れ、しのぎを削り、そして消えていった。

「平成レトロ」が大ブームだが、1998年~2008年の間に登場した「平成レトロカー」にあって、現代のクルマにないものとは何だろうか。3名の自動車評論家に持論を語ってもらった。

※本稿は2022年9月のものです。
文/国沢光宏、清水草一、斎藤 聡、写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2022年10月10日号

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■その頃はスバルの時代。今はない熱の強さ(国沢光宏)

4代目スバル レガシィツーリングワゴン(2003年)

 平成はスバルの時代だったと思う。

 平成元年に初代レガシィがデビュー。当時のスバルの凄さは、毎年のようなバージョンアップである。

 レガシィについちゃ平成15年(2003年)にデビューした4代目レガシィ終売の2009年まで、クルマ好きの話題の中心に。それが今はない、この平成時代のひとつの特色といえる。

 私も4代目まですべてのレガシィを買いましたね。インプレッサWRXも強烈な存在感を見せる。こちらはランエボというライバルがいたため、一段と激しい戦いに。

●“平成トヨタ”も勢い出る

 スバルの大暴れは5代目のレガシィ3代目インプレッサで突如終わる。

 さらに2008年のリーマンショックを受け元気を失い、そいつを戻せなかった。

 スバルそのものは“活動の拠点”をアメリカに移して大躍進するのだけれど、日本のファンを失ってしまう。

 ここから存在感を出し始めるのがトヨタ。豊田章男社長就任直後、アメリカでの暴走問題など出て存続の危機とまで言われたけれど、見事立て直す!

 ここからのトヨタは平成の終わりまで全開! 話題の中心になる。

●毎年進化の平成CAR

 トヨタとスバル(ランエボを含む)の時代と、今の時代の違いはやはり進化の早さだと思う。

 昨今のトヨタ車を見てもわかるとおり、毎年の進化などありえない。採算ベースを考えれば決して得策じゃありませんから。

 当時のスバルはWRCに会社のすべてをかけており、勝つために毎年進化を要求され、その雰囲気が全モデルに波及していた。

「WRXがやるなら長男のレガシィだって当然、手を加える」的な熱さがあったように思う。平成は雑誌も売れた(笑)。

■クルマの大変革、それに挑んでいたのが平成カー(清水草一)

ホンダ エレメント(2003年)

 第1のポイントは、「この頃のクルマはまだ軽かった」ってことか。

 2代目キューブ(日産)が1060kgから、3代目デミオ(マツダ)は970kgから。アコードユーロR(ホンダ)は1330kgでちょっと重いけど、今のアコードは1560kg。だいたい今より100kgくらい軽かった感じでしょうか。

 第2に、サイズがコンパクトだった。この頃はまだ5ナンバー枠に収まるクルマが今より多かったよね。

 歳月とともにクルマのサイズは拡大の一途をたどっているので、当たり前のことなのですが。

●洗練されていないデザイン

 第3に、デザインが素朴だった。

 これは先述した3台というよりも、「平成レトロカー」として今人気になっているようなクルマに特に言えることだけど、今と比べるとデザインが洗練されてなくて、バカ正直だったんだよね。昔の漫才みたいな。

 昔のお笑いを見ると、「こんなことで笑ってたんだ~」って思うでしょ。それと同じで、どことなくダサいんだけど、それがハートウォーミングなの。

●革命を目指していた!!

 そして一番重要なことは、この当時はまだ、クルマの在り方そのものの革命を目指した例が存在したということだろう。

 エディックス(ホンダ)エレメント(ホンダ)初代インサイト(ホンダ)iQ(トヨタ)みたいな。まだクルマには大変革の余地がある、その可能性を探ろう! という試みが行われていたんだね。

 今のクルマのデザインはとっても洗練されたけど、そういう試みはあまり見られなくなった。ちょっと寂しい。

■悪い意味も含め、昔のクルマはコクがあった(斎藤 聡)

日産 スカイライン GT-R(R34・1999年)

 1980年代後半から1990年代半ばにかけては、バブル景気のおかげでたくさんのスポーツカーやハイパフォーマンスカー、高級車が作られた栄華の時代でした。

 1998年から2008年は、巷ではバブルが弾け、崩壊に向かって突き進んでいるさなかでした。

 自動車業界は栄華が大きかった分、大きな慣性エネルギーが残っていて、バブルに登場したクルマが、あるいは進化し、あるいは次世代モデルを強引に産み落とした時代だったと思います。

●エンジニアの意地が……!

 そして、エンジニアの意地とか、メーカーの個性が残っていた時代だったと思います。モノづくりの狭間に浪花節が見え隠れしていたいい時代だったとも言えます。

 もちろん今のクルマやエンジニアに熱とかエネルギーがないなんてことはありませんが、排ガス規制やカーボンニュートラル問題など昔以上に高いハードルを突きつけられ、非効率なことがなかなか許されない時代になっているとは思います。

 悪い意味も含め昔のクルマはコクがあり、現代のクルマは癖がなくなったと言えるかもしれません。

●今のクルマ、刺激が薄め

 ちなみに横滑り防止装置。

 ABSを乗用車用としてメルセデルベンツとボッシュが共同開発した1978年以降普及し、平成レトロカーの時代にはほとんどの車種に付いていましたが、横滑り防止装置(ESP)の本格普及は2012年頃から。

 各種センサーと電子制御を駆使して、安全性、安定性を高めています。

 が、それと引き換えに、今のクルマにはスリリングな刺激が薄められているように思います。


【番外コラム】1998〜2008年頃と今 クルマの技術進化はどれほど進んでいるのか!?

電動化技術の進化はこの先のクルマ界を変えそうだ
2000年前後のハイブリッド技術は黎明期だったが、今は主役となり、常に磨かれている

 極端なことを書けば平成時代のクルマと現在のクルマの違いは電動化とADAS(先進運転支援システム)だけだと思う。

 新車のランエボIXが存在したとしたら、今のタイヤを履かせ筑波サーキットを走らせれば最新のスポーツモデルに勝るとも劣らない速さで走るだろう。また、インプレッサWRXの鷹目の走りも、素晴らしい評価を受けると思う。

 また平成のエンジン、熱効率という点で少し厳しく、官能評価で優勢。平成のエンジンを見ると大排気量のマルチシリンダーが少なからず存在した。高回転型のNAや高性能ターボもほぼ全メーカーから出ていたほど。燃費より性能重視ということです。

 ハイブリッドは黎明期だったけど、遠からず主役になると思っていたのは私くらいだった(注・誇大な表現です)。

●ADASの進化と浸透具合には驚き!

驚くほど浸透したADAS

 それらを踏まえると、一番の違いはADAS。平成の時代、終盤に自動ブレーキが出てきたけれど、10年もしないうち、軽自動車にまで標準装備されるなんて想像もできず。実際、追突事故など激減し、板金屋さんが続々廃業しなければならないほどになった。

 今後の10年で一段とADAS性能は進化していくことだろう。やはり直近の課題といえば環境と安全。そこは大歓迎したい。

(TEXT/国沢光宏)

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