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 人々の生活と社会基盤を支えるインフラの老朽化問題に直面する国は多い。老朽化が原因で事故が発生し、命を落とすことがある。物流が滞り日々の暮らしや企業活動に支障が出る場合もある。ドイツ化学工業協会(VCI)が7月11日発表した「物流インフラに対する見解」を読むと、同国でも老朽化が大きな課題なのだと分かる。

 見解では、物流インフラへの投資が長期にわたって慢性的に不足してきたことを指摘したうえで「道路は荒廃し、橋梁は閉鎖され、運河の水門は故障しやすく、鉄道は過負荷にさらされている」との表現で現状に言及。さらに「重要な対策が遅すぎたり、あるいは場当たり的であり、ドイツのインフラは、ますますパッチワークキルトのようになっている」と記している。

 これら背景から(1)物流インフラの効率化(2)鉄道による輸送量の確実な確保(3)将来に備えた水運の構築(4)プロジェクトの計画・承認プロセスの迅速化-の4点を求めている。どれも重要な側面であるが、化学産業にとっては、とくに「鉄道による輸送量の確実な確保」「将来に備えた水運の構築」の2つが看過できないテーマと思われる。

 鉄道輸送は現在、十分に確保できない状況に置かれている。鉄道網の刷新・拡大に向けたプロジェクトが進んでおり、貨物の輸送が制限されることがあるためだ。またライン川の水位が低下していることから、水運についても厳しい状況に直面している。

 2018年6月からコベストロのCEO(最高経営責任者)を務め、VCI次期会長に推挙されているマーカス・スタイレマン氏は本紙との会見で、ドイツでは長らく鉄道や水運、橋梁に十分な投資がなされていないことに触れて「ドイツでは、すべての産業の90%が化学産業が供給する製品に依存している。したがって化学産業が存在しないと他の産業基盤も存在しないことになり、産業の空洞化を引き起こす」と危機感を吐露している。

 物流インフラについてのVCIの見解によると、ドイツでは20年に約6980万トンの化学品が輸送されている。原料の確保や製品供給に際し、化学は最も物流に依存する産業の一つであることにも触れている。このため確固とした物流基盤なしに化学産業は成り立たず、化学品を必要とする多くの産業も存続が難しくなるというわけだ。しっかりとした物流基盤が、ドイツの産業の現在と行く末を左右する決定的な要因であることが理解できる。時間はかかるだろうが、より良い解決策を、いかに見出すか、注視していきたい。

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The post 【社説】インフラ老朽化に立ち向かうドイツ first appeared on 化学工業日報.