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 2022年は新型EV(電気自動車)が数多くデビューしているが、これら新型EVは、機能や走行性能の面で、既存のエンジン車とは異なる新しさを感じさせる。

 ではデザインはどうかといえば、これもやはりEVならではの先進感を表現。特に、グリルがあるかないかで、フロントまわりのデザインは大きな変貌を遂げつつあるようだ。

文/フォッケウルフ
写真/トヨタ、日産、ホンダ、スバル、BMW、アウディ、メルセデス・ベンツ、ポルシェ、ステランティス、テスラ

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■グリル本来の機能性と立ち位置は?

 デザイン的な観点からクルマの印象を決定づけるパーツとして、近年重要視されているのがフロントグリルだ。フロントグリルはクルマにおける「顔」となる部分の中心に配置され、工夫を凝らした造形とその付近に備えたロゴや左右のヘッドライトとの組み合わせによって成り立っている。

 さらに近年では、フロントまわりのデザインを統一化し、メーカーそれぞれの個性を際立たせ、それを見ればひと目でどこのメーカーのクルマであるかが判別できるものとしても機能している。

 このようなアイコニックな役割を持つ一方で、ラジエーターやエンジンルームに外部から風を取り入れて冷却し、ボンネット内の熱気を逃がすといった機能面での役割も与えられている。

 しかし、この役割はエンジン車にとって重要となるが、パワーユニット本体や周辺パーツも含めて発熱量が少ない電気自動車(EV)では、空気流入のた目のフロントグリルを設ける必要がないとされている。

グリルレスデザインが新鮮なテスラ(写真はモデルS)。ナンバープレートが付くと印象がまた変わってしまうが……

 今後EVが増えればフロントグリルを持つクルマは、確実に減っていくことになるだろうが、フロントグリルがブランドアイコンとして重要なパーツであることを鑑みると、必要性が薄いからといってすぐに廃止するわけにもいかない。

 たしかにこれまであった部品を廃したデザインは、既存のものと大きく差別化が図れることから、一歩先を行く先進性とか未来的なイメージが訴求しやすい。テスラのEVは最たる例で、グリルレスによって構成されるスッキリとしたフロントまわりのデザインが、ブランドとしての個性になっている。

■トヨタとスバルが示した方向性の違い

 日本においても、着実にEVが市民権を獲得しつつあり、カーデザインのトレンドに変化をもたらしている。ただし、グリルレスにするか否かは、メーカーによって考え方はさまざまだ。わかりやすい例を挙げるなら、トヨタとスバルが共同開発した電気自動車、bZ4X(トヨタ)とソルテラ(スバル)だ。

5月12日に発売されたばかりのトヨタ bZ4X。まずはリースとKINTOによるサブスクという形で販売される

 この両車は基本的なデザインこそ共通となるが、bZ4Xのフロントまわりは、空力アイテムが織り込まれたコーナー部と、上下に薄いバンパー形状によって従来のエンジン車とは明らかに異なる独自性を表現。特にフードからヘッドランプ上部へと連続する、特徴的なハンマーヘッド形状がEVらしさを主張している。

 一方ソルテラは、スバルを象徴する大型のヘキサゴングリルを装備。ロアグリルに冷却開口部を設けたEVらしいデザインとしている。また、アッパー開口をなくすことで、空力性能を高め、航続距離の伸長に貢献。さらにラジエーターに風を効率良く取り込む構造とすることで、空調性能とユニット、電池冷却性能を確保した。

 どちらがデザイン的に優れているかを判断するのはあくまで好みの問題だが、いまだエンジン車が主流であることを考慮すると、街なかで他車とは明らかに異なる個性を主張できるのはbZ4X。ソルテラなら既存の車種のなかに違和感なく溶け込みつつ、独自性をアピールすることができる、ということになるだろう。

■リーフを長く販売する日産の手法は?

2010年以来販売され続ける日産 リーフ。現行型となる2代目モデルでは、初代モデルになかったグリルが形取られることになった

 不要になったグリルの代わりに、その部分全体をスモークがかったパネルでカバーしながら、内部に日本の伝統的な組子パターンを立体的な造形を組み込んで、次世代感を表現したのが日産だ。

 クロスオーバーEVとして登場したアリアは、「スリーク」「シック」そして「シームレス」というキーワードを用い、シンプルでありながら力強く、かつモダンな表現で「タイムレス ジャパニーズ フューチャリズム」をデザインに反映した。

 さらに軽電気自動車のサクラでは、アリアのデザインテイストを継承し、次世代の日産らしさを感じさせるフロントフェイスと光るエンブレムによって、既存の軽自動車とは一線を画すスタイルに仕上げた。フロントまわりを含めた落ち着いた大人の雰囲気を感じさせるスタイルは、安価で手頃なクルマという、これまでの軽自動車のイメージを払拭している。

日産 サクラは今年発売された軽自動車クラスのEV。三菱のeKクロスEVとは共同開発された兄弟車となる

 フロントグリルが機能性とデザイン性を両立させるパーツであることは間違いない。しかし、EVではフロントグリルが必ずしも必要ないというのは、現在市場で販売されている車両を見れば分かるとおり。

 これからのフロントグリルは、エンジンルームを冷やすための冷却口という役割であったり、機能的に必要であるという固定観念からも解放され、新しい時代に即した、刺激的なエクステリアデザインの構築という点で大きな役割を担っていくことなる。

 現時点では、既存のクルマと並んだときに「先進的だな」と感じさせる程度の変化に過ぎないが、将来的には機能的な要素をあえて隠しながら、よりアイコニックな要素として新しいデザインを打ち出し、いつしかそれが主流になっていくだろう。

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