コロナ禍収束後、高速バス再生のポイントとして、目立たないが重要な対策を紹介する。
半世紀にわたり伸び続けた高速バスの輸送人員だが、2015年をピークに微減に転じていた。コロナ前から、高速バス事業は転機を迎えていたのだ。
(記事の内容は、2022年1月現在のものです)
執筆・写真/成定竜一
※2022年1月発売《バスマガジンvol.111》『成定竜一 一刀両断高速バス業界』より
■輸送人員微減の要因は?
国交省のデータを細かく読むと、興味深い点がある。その2015年からコロナ直前まで、高速バスの「系統数」は横ばいなのに、「運行便数」が12%も減少している。
この「便数」は続行便も含む。つまり所定便(1号車)と続行便2台(2号車、3号車)が走ったなら、「3便」とカウントされる。コロナ前から始まっていた輸送人員減少の要因の一つが、続行便の減少だったのだ。
では、続行便減少の理由は何か? 需要減少は大きな理由ではない。確かに、全国的に人口が減り需要の総量は縮小している。だが以前からピーク時には続行便を何台出しても足りなかった。需要の総量が減っても、必要な続行便の数はさほど変わらない。
より大きな理由は二つ。まずは都市部での発着枠の不足。具体的には、バスタ新宿開業により、便数に制約がかかっていることだ。次に、要員(乗務員)不足である。
■「満席お断り」は可視化できない
この問題で注意すべき点は、繁忙日の「満席お断り」を可視化しづらいことだ。
仮に需要が集中する土曜朝に、100人分の需要があったとする。2号車まで設定し計80席を提供したなら、「満席お断り」は20人だ。しかしその2号車を設定できず40人で満席となるなら、60人を断ることになる。そして、何人をお断りしたかの実数を測ることは難しい。
その60人は、本来なら「お客様」だったはずの人たちだ。「土曜の朝に実家に帰省し、日曜夕方に戻る」などの習慣を持つ人は、同様の行動を繰り返す。予約センターに電話した(ウェブで空席検索した)けど満席、というシーンを何度も経験している可能性がある。
「いつものバス」が満席なら、競合する後発参入の高速バスや鉄道を使うことになる。そしてそのまま競合のリピーターとして定着してしまう。
■「愛される路線」に必須の条件
昨秋以来コロナの感染が落ち着き、満席便も増えてきた。すると会議で「要員不足で続行便を出せない」という発言が聞こえる。
しかし、その担当者に過去のデータを調べてもらうと、当の本人が驚いている。「わずか数年前、ウチの会社、こんなに台数を出してたんですね」
国全体で生産年齢人口が急減する中、バス業界も要員が不足することは予測されたことだ。
だからこそ、2012年スタートの「新高速乗合バス」で二つの制度が採用された。需要に応じ運賃額を変動させ需要平準化を図る「幅運賃」と、繁忙日に貸切バス事業者が高速バスの続行便を運行する「貸切バス型管理の受委託」である。
とりわけ、高速バスの需要が集中する年末年始は、貸切バスは低稼働だ。応援体制を組めれば、双方に大きなメリットがある。
高速ツアーバスからの移行事業者は、両制度を活用している。だが既存事業者は、西日本ジェイアールバスなど数社を除き、未だ消極的だ。「高速ツアーバスは自由度が高く不公平だ」とあなた方が叫んだから、既存事業者も柔軟な運用ができるように制度を改正したのではなかったか?
「満席お断り」をビジネス用語で説明すると「機会損失」という無機質な響きになる。しかし断られたのは、1人ひとりの人間であり「お客様」である。いつ行っても品切れ、というお店に次回も行くだろうか。
続行便不足は、「売上ロスがもったいない」ではなく「お客様に失礼」と捉えるべき問題だ。需要が集中する曜日、時刻に適切に在庫を用意することは、長く愛される路線作りに必須の条件である。
制度改正から今年で10年。あらためて「貸切バス型管理の受委託」を積極的に活用し需要波動の壁を乗り越えてほしい。
投稿 実は怖い「満席お断り」……乗客がバスから鉄道などに逸走するリスクがヤバすぎ!! は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。