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パワーのターボから燃費のターボへ 最新ターボ車ラインアップ

 かつてターボといえばハイパフォーマンスのためのシステムであった。特に日本では2リッターのエンジンにターボを装着してどこまでパワーを発揮できるかが話題になったものだ。その中でランエボやインプレッサが300psを超える高出力を得るようになった。

 しかしカーボンニュートラルの時代となり、ターボは必ずしもスポーツモデルの専売特許ではなくなっている。ダウンサイジングターボが登場し、少ない排気量のエンジンで燃費を稼ぎつつ、ターボで足りないパフォーマンスを補うようになった。

 そしてシリーズハイブリッドを採用するエクストレイルでは、発電用のエンジンにターボが装着されるまでになったのである。今回はそんなターボエンジンの最新技術を斎藤聡氏に解説してもらった。

文/斎藤 聡、写真/ベストカー編集部、AdobeStock(トップ画像=evannovostro@AdobeStock)

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■日本と海外のターボの歴史

ホンダ ステップワゴンはダウンサイジングターボ/ミドルサイジングターボの代表だ

 1990年代は、日本車のターボ百花繚乱時代と言えるもので、ターボを積極的に使ってパワーアップが図られていました。

 2000年代初頭、日本では排ガス規制が強化され、国産メーカーはターボをやめNAエンジンやハイブリッドに力を入れ始めます。ちょうど時期を同じくして欧州では直噴ターボが脚光を浴び、耐ノッキング性能の高さ、ターボレスポンスの良さなどが注目され、積極的にターボが開発されるようになりました。

 さらに、環境問題が顕在化してくると、大きな排気量のパフォーマンスを小さなエンジンで実現するダウンサイジングターボが注目を集め開発に取り掛かります。

 この背景には高速道路を使い欧州域内を移動するのに適した大排気量エンジンに代わるエンジンが求められていたことが理由に挙げられます。

 開発がさらに進むと、ターボを必要最小限までコンパクトにしてターボレスポンスをよくすることで、まるでNAエンジンのような運転感覚のターボも登場するようになります。

 ダウンサイジングの概念がひと通り浸透すると、ダウンサイジングのデメリットも取りざたされるようになりました。

 ミドルサイジング……つまりそこそこの重さのあるクルマを効率よく走らせるには、そのクルマに見合ったある程度の排気量が必要だ、という考え方を主張するエンジニアも出てきて、現在は2つの考え方が拮抗した状態です。

 直噴ターボ→ダウンサイジングに出遅れた日本では、ダウンサイジングとミドルサイジングがちょうどいい感じで混ざり合った状態です。

■現在の日本のターボ車の味付け

日産 エクストレイルは「スポーツターボ」、「ダウンサイジング/ミドルサイジングターボ」以外の第3のターボ「発電用ターボ」を採用

 現在日本で売られているターボ車(軽自動車を除く)はどんなふうに味付けされているのか解説してみたいと思います。

 うんと大雑把かつ強引に分類すると、現在国産車のターボはパワー重視の「スポーツターボ」、そして現在主流の「ダウンサイジング及びミドルサイジングターボ」に大別できると思います。さらに、もしかしたら今後増えてくる可能性がある「発電用ターボ」というのも登場しました。

 この発電用ターボは日産エクストレイルe-Powerに採用されている発電用エンジンで、VCターボと呼ばれるターボエンジンです。VCターボの詳しいシステムは省きますが、圧縮比を8:1~14:1まで任意に変化させることができます。

 エンジンは圧縮比の高いほうが熱効率がいいので、負荷の少ない状況では圧縮比を高くして発電しながら燃費を稼ぎ、パワーが必要な時≒たくさん発電したいときには圧縮比を下げて過給圧を上げてパワーを発揮し発電します。

 このVCターボを使うことで、従来2Lかそれ以上の排気量が必要だったエンジンを1.5Lにサイズダウンし、質量自体もコンパクト化を可能にしたのです。いかに燃費を良くし、かつ効率的に発電するかという点にフォーカスしたターボエンジンの使い方というわけです。

■細々と生き残っているスポーツターボ

新型日産 フェアレディZはスカイライン400Rと同じ3Lツインターボを採用

 スポーツターボで現在生き残っているのはGT-R、NSXタイプS、フェアレディZ/スカイライン400R、スープラ、シビックタイプR、GRヤリス、スイフトスポーツです。

 GT-Rのターボはターボのインペラーとハウジングの隙間をゼロクリアランスにするアブレダブルシール採用のIHI製で、過給圧は約1.26kg/平方cm。排気量3.8LのV6ツインターボで最高出力570ps/6800rpm、最大トルク637Nm/3300-5800rpmを発揮します。

 大排気量エンジンにさらに強烈なターボパワーを上乗せした豪快な加速性能を誇ります。

 NSXタイプSは過給圧を従来の105kPaから5.6%過給圧をアップ。1.13kgf/平方cmにアップ。最高出力はエンジンのみで529ps/6500-6850rpm、最大トルク600Nm/2300-6000rpm。

 システム出力は610ps/667Nmを発揮します。これだけの出力を発揮するエンジンだけにターボパワーが炸裂する豪快なエンジンかと思いきや、NAエンジンのようにと言ったら多少大げさですが、右足とエンジン+モーターパワーがシンクロしている超絶に速いけれど扱いやすいパワーユニットです。

 フェアレディZに新しく搭載された3Lツインターボはスカイライン400Rに搭載されているものと基本的に同じものです。ターボ回転センサーによってターボの回転数と過給圧を制御。405ps/475Nmのパワーとトルクを発揮し、レスポンスの良さと迫力あるパワーを両立しています。

 このエンジンとキャラクターがよく似ているのがGRスープラRZの3Lツインターボエンジンで、387ps/500Nmを発揮します。それからSZ-Rの2Lターボもスポーツターボに分類できると思います。258ps/400Nmを発揮して、鋭く伸びのいい加速を見せてくれます。

 シビックタイプRは、国産ターボでもっとも攻撃的なエンジンと言えるかもしれません。端的に言ってしまえば、FF車で世界一ニュルブルクリンク北コースを速く走るために作られた……と言っても過言ではないクルマだからです。

 2Lターボで330ps/420Nmを発揮しますが、パワーをひねり出しているわけではなく、エンジンやターボの応答、フラットなトルク特性まで設計値どおりに作り込まれている、そんな印象のターボです。

 トラクション性能に限界のあるFFスポーツカーをいかに速く走らせるかに心血を注いで作られている過激なエンジンなのです。

ホンダ シビックタイプR。FFスポーツカーを速く走らせるために作られた2Lターボを搭載

 過激という意味ではGRヤリスの1.6Lターボも攻撃的なスポーツエンジンと言えます。出力こそ272馬力ですが、これを1.6Lのエンジンから絞り出しているのですから、チューニング度としてはかなり高めです。セラミックボールベアリングターボを採用し、ターボラグを最小限に抑えています。

 それでもエンジンに比べて大きめのタービンを回している感覚がありパワー重視のターボの匂いがプンプンしています。

 スイフトスポーツは例外的にスポーツターボに組み入れたいエンジンです。1.4L、140馬力はL当たり100馬力で、ターボのチューニング度としてはそれほど高くはありません。

 しかし、ターボの過給圧制御を、常時ウエストゲートを閉じてレスポンスの向上を狙い、過給圧が設定を越える飛ぶエストゲートが開く、昔ながらのノーマルクローズド制御(最近のターボはポンピングロスを少なくするためウエストゲートを開いているノーマルオープン制御が多いのだそうです)を採用して、昔ながらのレスポンスよくかつ刺激的なパワーを発揮しているのです。

 このほか、レクサス ISやRCの2Lターボもスポーツターボに分類できると思います。

 スイフトスポーツは例外と書きましたが、スポーツターボとダウンサイジング(ミドルサイジング)ターボの区別の目安はリッター当たり120馬力を超えているかどうか、というところに置きました。

 そこに明確な線引きがあるわけではありませんが、実際のところ仕分けてみても、加速の刺激度や迫力、鋭さ、伸びの良さなど、スポーツ性を感じるターボチューンは、このあたりが境界線になっているように感じます。

■スポーツターボ以外のターボ

スポーツエンジン並みの性能を誇るがクルマのキャラクターを加味するとダウンサイジングターボにカテゴライズされそうなレクサス LS

 上記スポーツターボ以外のターボモデルを便宜的にダウンサイジングターボ、ミドルサイジングターボに分類したのですが、境界線にあるのがクラウン・ハイブリッドターボとレクサス LSの3.5Lターボ(422ps/600Nm)です。

 クラウンはエンジンだけをとったら2.4L 272ps/460Nmでリッター当たり113馬力。トルクは巨大ですがエンジンのチューニング度は高くありません。

 ただ、デュアルブーストを謳うターボ+モーターのシステム出力は349馬力にも上ります。今回はエンジンに重点を置いてダウンサイジングに入れましたが、今後ハイブリッドスポーツカテゴリーは確実に登場することになると思います。

 また、レクサスLSは3.5Lターボで422馬力/600Nmで、リッター当たり120馬力となりスポーツエンジン並みの性能を誇ります。

 しかしこのクルマに限っては、欧州ハイパフォーマンスセダン(サルーン)をライバルに置いてレクサスのフラッグシップモデルとしてパフォーマンスを与えるのが狙いなのでしょう。クルマのキャラクターを勘案してダウンサイジングにカテゴライズしました。

 近年のターボの使い方は、排気量に対して小型化し、レスポンスをよくするのがトレンドで、それで十分に速さやスポーツ性を感じさせるパフォーマンスを発揮しているので、単純にダウンサイジングとかミドルサイジングという言葉でくくりにくいのです。

 スバルのターボエンジンはその好例で、速さ、伸びの良さを備えながら、ひとクラス大きなエンジンを感じさせる走りの余裕を作り出しています。

 典型的なダウンサイジングエンジンとして挙げられるのはステップワゴンでしょう。ステップワゴンは1.5Lで150ps/203Nmのパワーとトルクを発生しています。

 同じ1.5Lでクラス分けは明らかにダウンサイジングターボなのですが、同時にスポーツエンジンとしての成立しているのがシビックです。1.5Lで182ps/240Nmを発揮。リッター当たり121馬力になります。

 もはやダウンサイジングだからおとなしいエンジンとは限りません。ターボの性能や、制御の進化、さらにはハイブリッドモーターとの組み合わせによって、刺激的な速さを持ちながら好燃費性能も両立するエンジンがまだまだ登場してきそうです。

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