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 警視庁第三交通機動隊、第七方面交通機動隊などに所属し、22年間、白バイに乗ってきた元隊員の洋吾(ようご)氏は、警視庁伝説の白バイ隊員だ。月に80件、年間1000件もの違反切符を切ってきた。3年連続で取り締まり件数の警視庁トップに輝き、警視総監じきじきによる表彰も受けた。そんな洋吾氏は著書『白バイ隊員 交通取り締まり とほほ日記』で、白バイ隊員という「生き物」の生態や日々駆り立てられているノルマの実態を明かし話題だ。今回は、交通違反の取り締まりにおいて絶対に必要な「違反者からのサイン」について紹介する。このサインの時こそ、白バイ乗りがもっとも力量を問われ、苦労するシーンでもある。白バイ隊員の「とほほな胸の内」から紹介していく。

文/洋吾、写真/ベストカー編集部


白バイ隊員 交通取り締まり とほほ日記
白バイ隊員 交通取り締まり とほほ日記


■違反者はお客さま、気持ちよくサインしていただく流儀

「お待たせしました、こちらにサインをお願いします」。交通違反者に切符を渡す直前の緊張の瞬間だ。この時、心の中で願うのは、「頼むからサインしてくれよ……」である。

 違反切符を渡す時、違反者の反応は実にさまざまだ。普通にすらすらサインする人、黙って考えた後に渋々とサインする人、激高しながらなぐり書きで判読困難なサインをする人、明るく温厚な人、陰険な人、なかには涙を浮かべる人もいる。ただし、こちらとしては、サインさえしてくれれば、どんな人でもよいのである。ノルマ達成のための貴重な1件として、切符処理ができるからだ。 

 実は、交通違反の取り締まりにおいて、違反者からのサインは絶対に必要な条件なのである。というのも、このサインがもらえなければ違反を認めたことにならないからだ。

 逆にいえば、サインさえもらえれば、どんな態度だってかまわない。渋々であろうが、素直であろうが、違反の1件に変わりないからだ。もちろん、素直にサインしてくれたほうがありがたいが。

■どんな違反者にも優しい言葉で対応する

 交通違反の取り締まりについては、大いに不満をお持ちの方も多いことだろう。「隠れて取り締まっていないで、もっと注意を促せばいいではないか」と。もちろん白バイ隊員だって、切符を切らずに厳重注意だけで済むなら、どんなに気が楽なことか。だが、実際には絶対必達のノルマが課せられている。ノルマをこなせない白バイ乗りは、遅かれ早かれ白バイを降りるしかないのだ。

 実際、取り締まり時の切符作成は、本当に気苦労が絶えない。スムーズにサインをしてもらえなければ、時間や手間ばかりがかかって、ノルマ達成が遠のく。そのため、白バイ隊員たちの多くは、どんな違反者にも、優しく丁寧な言葉遣いで対応する。「お急ぎのところ申し訳ありません。〇△◇違反です」。まずは敬礼したうえで、違反内容がきちんと伝わるように丁寧に話す。それがプロの白バイ隊員の流儀だからだ。

今では女性の白バイ隊員も現場で活躍している

■白バイ隊員がもっとも困るのは否認されること

 大人しい人だった場合は、ホッとひと安心。違反状況によっては、ちと偉そうにお説教をしちゃったり……。続いて交通切符(おもに青切符)作成にかかって、10分~15分の作業でめでたく1件達成となる。

 しかし、一見して怖そうな人とか、反骨精神むき出しの人に当たってしまった場合はと言うと……。「ハズレた~」ってことで、内心ガックリしているのだ。ギャースカ、ギャースカ、文句を言われながら、それをなだめすかしての切符作成作業は、本当に大変だ。こういう人が違反者だと、切符切りに慣れた白バイ乗りでさえ、かなりのエネルギー消耗になる。

 昭和の時代には、違反者に対して「おいコラ!」と怒鳴るお巡りさんがいたが、そんなお巡りさんはとっくに絶滅してしまっている。今や交通違反者は、ずばりお客さま。気持ちよくサインをしてもらわなければならない。というのも、ブチ切れた違反者が、現場で最後まで違反を認めず、切符へのサインを拒否しようものなら、否認事件となる。今度は白バイ乗りのほうが、困ってしまう。

 違反を認めるか、認めないかは、違反者の自由だから、取り締まり現場ではよくあることなのだ。違反者にしてみれば、反則金の額によっては、その日の稼ぎが吹っ飛んじまうんだから、抵抗したくなる気持ちはよくわかる。おまけに減点もあるわけで、免停にでもなったら、仕事にも支障が出てくるだろう。たいていは、「これから気をつけるので今日は勘弁して下さいよ~」って、違反者も必死に懇願してくるのだ。

■いかに最速で説得できるか

 もちろん白バイ乗りだって、必死だ。大事なノルマの1件なのだから。「頼むからサインしてくれ~」って心の中で叫びながら、ただただ説得することになる。時間の経過に伴い、サインしてもらいたいがために、違反者に対して「裁判になる」とか「逮捕されるかも」など、微妙に脅かしにかかることもある。

 実際、否認事件となると、詳細な実況検分地図の作成のほか、これでもかってぐらい諸々の書類を作成しなければならない。同じ実績1件でも、途方もなく面倒くさくなるのだ。これらの手続きは、後日の裁判に備えての決められた作業なので、慣れた白バイ隊員でさえ、2~3時間、あるいは半日かかる。ノルマは待ってくれない、一件でも早く前に進むためには、サインは不可欠なのだ。

 そして、反則金や罰金は、国の大事な収入となるため、偉い人たちは徹底的に白バイ乗りたちのケツを叩いているのだ。ともかく警察にとって違反者は大事なお客さま。丁寧で優しい言葉遣いが、大事な流儀となる。


白バイ隊員 交通取り締まり とほほ日記
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