日本国内で人気のミニバンの大きな特徴が、いわゆる派手なフロントマスクだろう。その代表格がトヨタ アルファードだが、このような勢いのある顔はトヨタ内でも下のクラスのノア/ヴォクシーにも波及している。そしてこの押し出し感は最近追加されたタントファンクロスなど軽自動車にまで影響を与えているのだ。
このわかりやすさは、日本にとどまらずアジア各国でも人気となっている。しかし、韓国ヒョンデ自動車はこれとは真逆ともいえるモデルを相次いで投入している。
今回は世界的な躍進を見せるヒョンデのニューモデルをご紹介しよう。
文/小林敦志、写真/小林敦志、Hyundai
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■コンパクトミニバンで日本車との直接対決を挑むヒョンデ スターゲイザー
2020年にトップ交代を行ったのが韓国ヒョンデ自動車。筆者の実感としては2022年に入り、新しいトップの戦略というものが、明確に形になって出てきたなと感じた。日本国内での乗用車販売復活もその一例といっていいだろう。
聞くところによれば先代は「私の目の黒いうちは(トップのうちは?)日本市場での乗用車販売再開は行わない」と言っていたそうで、まさにトップ交代による判断だと見ている。
海外に目を移すと、いままでは比較的日本車との直接対決を避けてきたように見えてきたのだが、ここ最近ヒョンデはまさに日本車との“ガチンコ勝負”を挑んできているなという“勢い”を感じている。
2022年8月にインドネシアの首都であるジャカルタ市近郊で開催されたGIIAS(GAIKINDO〈インドネシア自動車工業会〉インドネシア国際オートショー)2022で話題のモデルの1台がヒョンデのコンパクトミニバンとなる“スターゲイザー”だった。
2022年に稼働を開始した、ヒョンデのインドネシア工場で生産されているモデルとなる。
このカテゴリーでは、ASEAN地域では三菱自動車のコンパクトミニバンとなるエクスパンダーが大ヒットしている。まさにスターゲイザーはこのエクスパンダーをライバルとして市場投入したのは間違いないと見ている。
押しの強い顔つきが特徴的なエクスパンダーに対し、スターゲイザーは近未来スタイルのコンセプトカーほぼそのままのようなスマートな顔つきが特徴的なモデル。
インドネシアではまだまだ“オラオラ顔”至上主義のような消費者マインドといえるが、インドネシアより自動車市場が成熟しているタイでは“脱オラオラ顔”といった消費者が都市部では目立ってきているようだ。
そのため将来的にはタイでもスターゲイザーは販売されるものと筆者は読んでいるのだが、その時はエクスパンダーとかなりの好勝負になるのではないかと見ている。
■アルファードに挑戦しバンコクでブレイクしたヒョンデ スターリア
2022年3月末にタイの首都バンコク近郊で行われた、“バンコクモーターショー”取材のためバンコクを訪れると、バンコク市内で見かけないフルサイズミニバンが多く走っていた。
それがヒョンデ スターリアである。前述したスターゲイザーよりデビューが早く、スターゲイザーの“兄貴”といっていいだろう。タイと言えば、正規輸入販売だけでなく、日本からはアルファードが個人輸入販売(日本仕様を輸入して売っているということ)されるほど日本並みにアルファード人気が高い国。
当然ながら、あの“オラオラ顔”にタイの人たちも惚れ込んでいるのである。そのタイでアルファードの真逆をいくような近未来感覚でスマートなスタイルを採用するスターリアがバンコクでブレイクしていたのである。
話を聞くと、アルファードを所有する富裕層(アルファードは正規輸入販売でも約1500万円超えとなる)ではそもそもクルマの複数保有は当たり前なのだが、その富裕層がスターリアに興味を示し、アルファードを所有しながらスターリアも購入しているとのこと。
市場が成熟していくなか、都市部では消費者の多様化も進み、いままでのオラオラ顔一辺倒というわけでもなくなってきているようで、スターリアはそこにスポッとはまったといっていいかもしれない。
■日本車ひしめくピックアップトラック&SUVに飛び込んだヒョンデ パリセード
ASEAN地域で日本車が強みを見せる背景は、ピックアップトラックとその派生となるSUVの人気が高いのがある。トヨタ ハイラックス、いすゞ D-MAX、三菱 トライトンがASEAN地域での“人気ピックアップトラック御三家”といってもいいだろう。
そしてこれらの派生となる、トヨタ フォーチュナー、いすゞ MU-X、三菱 パジェロスポーツはASEAN地域での“人気SUV御三家”といってもいいだろう。ヒョンデはこのSUVに刺客を放った。
ヒョンデはモノコックボディながら、フォーチュナーなどと同格となるフルサイズSUVの“パリセード”をインドネシアやベトナムなどでラインナップしている(タイはまだ)。
2022年8月にインドネシアの首都ジャカルタを訪れると、このパリセードを意外なほど見かけた。
しかもフォーチュナーやMU-X、パジェロスポーツが新興国向けモデルとして先進国ではまず見かけないのに対し、パリセードは北米市場などでも正式ラインナップされており、ヒョンデ自動車傘下の起亜ブランドのパリセードの兄弟車となる“テルライド”とともに、かなりの勢いで売れているのである。
北米市場ではフルサイズピックアップとなる、トヨタ タンドラベースのセコイアや、日産 タイタンベースのアルマーダなどがラインナップされている。
このクラスで圧倒的な強みを見せるシボレー タホやフォード エクスペディション、ジープ グランドチェロキーやワゴニア系に比べると勢いはいまひとつだが、南カリフォルニアで見る限りは、パリセードとテルライドはセコイアやアルマーダの勢いを越えていいといえるほどよく売れている。
ASEAN地域、北米市場、いずれにしろブランド全体の販売台数でみればヒョンデや起亜ブランドがトヨタには及ばないが、カウント次第(ヒョンデ+起亜、つまりヒョンデグループ)では、2021暦年締めアメリカ国内での年間新車販売台数ではすでにホンダや日産を抜いている。
とにかくここへきてトップの若返り効果がモデルラインナップを増やしながら、ブランド全体の魅力を急速にそして世界的レベルであげている。しかも、いままでとは異なり、日本車の“一丁目一番地”ともいえるカテゴリーでガチンコ勝負を挑んできている。
これは完全にトップの若返りが影響していると見ていいだろう。政治的部分などでは何かと日韓両国で問題はあるが、古い世代では韓国のひとのなか、とくに経営者では日本に“一目置く”傾向も強かった。
しかし、若い世代は日本と対等もしくは韓国のほうが上という感覚の人のほうがむしろ多いようだ。
しかも日本は自動車産業だけでなく、国全体で新型コロナウイルス感染拡大以降、いわゆる“鎖国”を強め、国民全員で日本国内に引きこもってしまった。
この日本の“失われた3年”を韓国だけでなく中国企業などが見逃すはずはない。まさにビジネスチャンスとしてコロナ禍のなか、日本を追い落とすために勢力拡大を進めていたのである。
■日本上陸したヒョンデEVの現在は?
ヒョンデの日本国内販売は、いまのところBEV(バッテリー電気自動車)のアイオニック5と、FCEV(燃料電池車)のネッソのみ。しかし、オンライン販売のみにも関わらず販売は好調に推移しているとのこと。
日本では一定世代以上では“韓国アレルギー”が強く、韓国製品に問答無用で拒否感を示す人も目立つが、若い世代はサブカルチャーなどを通じて韓国に抵抗なく親近感を持つ。
それだけでなく、“日本より韓国の方が先進国”というイメージを持つ人も少なくないというので、消費者層の世代交代が進めばヒョンデは日本国内でも拡大戦略をとってくるかもしれない。
BEVなど新エネルギー車でも、日系ブランドに比べればラインナップ数も多く、明らかに日本車をリードしている。このようなヒョンデグループの勢いは、韓国車が一定数以上量販されている現地へ赴き肌で感じないとなかなか伝わってこない。
とにかく、いまの韓国系ブランドには勢いがあることだけは間違いない事実といっていいだろう。
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