スーパーGT第6戦SUGO、第7戦はサクセスウエイト(SW)係数が半減、第8戦がノーハンデウエイトになることから、SUGO戦はシーズン中、もっとも重いマシンによる戦いになる。裏を返せば、このSUGOの結果をもって今季のチャンピオン候補が実質定まることになり、ランキング中位以下のチームにとってはタイトル候補へのラストチャンスとなるのだが、今回GT500で注目したいのが前回の鈴鹿、そしてシーズンここまでで低迷してしまっているホンダNSX-GTのブリヂストン装着の3台だ。
前回の鈴鹿で、セーフティカー(SC)が入る直前の絶妙のピットタイミングでトップに立った17号車Astemo NSX-GT。しかし、そのSC直前のピットでの給油作業で想定していた3分の2しかガソリンが入っておらず、17号車の塚越広大は燃費走行を強いられ、トップを奪われて優勝を逃してしまった。それでもなんとか2位に入り、ランキングは同ポイントでの実質2位。まさに不幸中の幸いだったが、その給油ミスの原因をSUGOの現場で金石勝智監督に聞いた。
「確認ミスです。焦らず丁寧にやっていれば、というところですね」と金石監督。実際には2回目の給油の際、給油ホースのエア抜き側のホースにガソリンが溜まってしまっていて、給油側のホースの流速が極端に遅くなってしまったという。鈴鹿1000kmのような長距離レースで起こりやすく、その度にエア抜きのチェックをするのだが、450kmレースの2回目の給油作業でそのアクシデントが起きてしまったのは、チームにとってもまさかの出来事だったようだ。
それでも、17号車Astemoにとっては2位を守れたのは、金石監督にとっても望外の結果だったと言える。
「逆にゼロポイントもあり得た状況だったので、ゼロだったらここに来るのがどれだけしんどかっただろうなと(笑)。ホント、止まらなくてよかったです。そういう風に考えるようにしています。ランキングも同ポイントの2位ですし、鈴鹿のレースはどっちのドライバーも頑張ってくれた。(塚越)広大も最後にベテランの味を出して、ガソリンを保たせて最後、2位を守り切れた。最後の1周で4位に落ちる可能性もあったので、僕ももう、最後の1周は悔しくなってきちゃって、目をつぶって『行け!』って言ってました(苦笑)。ここまで来て、最後の1周で2位から4位まで落ちるのは嫌だと思って。自我が出過ぎてしまいましたが、なんとか最後の1周保ってくれました」
17号車にとっては、このSUGOは近郊にメインスポンサーの日立Astemoの工場が5つある、地元レースでもある。
「このSUGOでも、ワンリス(燃料リストリクター1)ダウンで2位表彰台に上がっているので、そうなったらいいなと思っています。今回は2リスダウンですので、それがどこまで影響するのか、ちょっと想像できないですけど、またうまく流れを掴んで、しつこく頑張ります。Astemoさん、今回も600人くらい来てくれますからね」と、笑顔を見せる金石監督。17号車がランキングトップの12号車カルソニック IMPUL Zとのポイント差を縮めることができれば、今後のタイトル争いがますます面白くなる。
そして前回の鈴鹿で悔しい思いをした、100号車STANLEY NSX-GTにとっても、今回のSUGOはまさにチャンピオン争いに向けた背水の陣となる。100号車は前戦の鈴鹿のファイナルラップで5番手を奪われただけでなく、山本尚貴が130Rでまさかの大クラッシュをしてしまい、レース直後はその状況がわからないままだった。
「最後のピットストップでタイヤを交換せずに行って、最終的には表彰台に上がれるか上がれないかという瀬戸際だったので結構、頑張っていましたが、思いのほかタイヤの消耗が激しい状況でした。レース終盤はポジションをキープするどころかひとつ落としてしまって、なおかつ最終ラップに関しては後ろから23号車(MOTUL AUTECH Z)が来ていて、向こうの方がタイヤがフレッシュだったのでペースにかなりの差がありました」と、前戦を振り返る山本。
「順位を守るのは厳しいと分かってはいたのですけど、最後のラップだったので抑えたかった。130Rでイン側を取られてしまって、でもそこで早々と引くわけにもいかない。ここでポイントをゼロにするのと、ひとつ順位を下げたポイントにするのとでは、明らかに後者の方がまだいい、その考えはもちろんあったので、引きつつもなんとかギリギリまで粘った結果、130Rの外側にいてタイヤ1本分くらいラインからはらんだだけだったのですが、結果的に自分の見立てが甘かった。タイヤかすに乗ってしまって、自分でもあそこまで制御が不能になるとは思っていませんでした。まったくハンドルが効かなくて、まっすぐに(クラッシュバリアに)刺さってしまいました」
レース後の山本は、やはり自分を責めた。
「そこだけ路面が濡れていたのかと思うくらい減速もできない状況で、あんなにクルマが跳ね上がるとも思っていませんでした。10年もGTをやっていて、あんなミスをするなんて情けないです。クルマも壊してしまいましたし、貴重なポイントも最後の最後に逃してしまった。いろいろと心に刺さるものがありました」
その悔しさがある分、今回のSUGOに懸ける思いも強い。
「今回のSUGO、ここで落とすともう後がないので、条件だけでいうと燃リスは良くも悪くも入っていないので(サクセスウエイトは46kg)、まだ上位で戦えるし、ここで上位で戦えないとシーズン終盤にタイトルの可能性はかなり低くなってしまうので、なるべくここで大量得点がほしいですね」
今回、ホンダ陣営は全5台に、シーズン2基目のスペック2エンジンを投入するが、山本も当然、ニューエンジンへの期待は高い。
「もし前回のレースで新しいエンジンを入れていたら、あのクラッシュでダメになっていたので不幸中の幸いと言えるので良かったと思いますし、新しいエンジンは台上(ベンチテスト上)ではポテンシャルアップしたものを導入してもらっているので、これからの合わせ込みが多少必要になりますけど、その合わせ込みといろいろ考えて持ち込んできたセットアップがしっかりと上位で通用すれば、うまく流れに乗れるかなと思っています」
そしてもう1チーム、ホンダ陣営で今回の優勝候補に挙げられるのが、8号車ARTA NSX-GT。昨年のSUGO戦で速さを見せながらも、レースではペナルティに次ぐペナルティで、イレギュラーで4度ピットロードを走行して勝負権を失ってしまった。今回はサクセスウエイトも42kgで燃料リストリクターは入っておらず、ライバルの38号車ZENT CERUMO GR Supraと並んで優勝候補最右翼と言える。
「当然、(優勝を)狙っているというか、なんとか結果を出さないといけないなというところではあるので、そうなるといいなと思っています」と、話す8号車の野尻智紀。
「今年は去年より難しい状況だと思っています。燃リス(燃料リストリクター)が入っていないクルマも多いですし、かなり接戦になるのではないかなと思っています。まずは予選で前に行って、流れを作るというのがまず今週のスタートになるのかなと思います」と、続ける。
今年のGT500のホンダ陣営は、昨年のようにレースで順位を上げていくレースペースやレースでの燃費の良さが陰を潜め、GRスープラ、Zに主役の座を奪われてきたが、このSUGO、そして次の第7戦オートポリスはもともとホンダ陣営が得意としていたサーキット。スペック2のニューエンジン投入で、どこまで巻き返せるか、ホンダ陣営にとってはこのSUGOがシーズンの行方を左右する大きな一戦となる。