トラックといっても作業車の乗務員は、ドライバーというより「オペレーター」と呼んだほうが適切ですね。
そんな作業車の中でもちょっと特殊な「アスファルト・ディストリビューター」のオペレーターであるミニトラさんは、専門知識が豊富で、地元信州を中心に長年道路工事に携わってきました。
凍えるような真冬の信州で、大切な道路の維持管理のために、人知れず夜間作業に尽力する人間がここにもいました。
文・写真/アスファルトディストリビューターのオペレーター・ミニトラさん
*2013年2月発行トラックマガジン「フルロード」第8号より
アスファルト乳剤を散布する仕事
トラックドライバーの皆様には日々ご迷惑をおかけしております「道路工事」、それに関わる仕事が私のアスファルト・ディストリビューター、通称「デスビ」の仕事でございます。
道路工事は大きく分けて新しく道路を造る新設と、今ある道路の舗装修繕工事に分かれます。どちらの場合も道路を舗装する時は、路面にアスファルト乳剤という薬剤を撒きます。
道路の構造は、高速道路から国道、県道、市道等でさまざまですが、使用するアスファルト乳剤も、路盤のいわゆる砕石の部分に散布する「プライムコート」と、アスファルトの部分に散布する「タックコート」に大きく分けられ、それぞれに多種多様なアスファルト乳剤があります。
仕事の流れを説明すると、前日に明日の現場、積むアスファルト乳剤の種類、面積、使用量などがオペレーターに伝わります。オペレーターは各自の現場に合わせてプラントで積み込み、デスビの整備と準備をして仕事に行きます。
基本的にはプラント→現場→プラント→現場と行き来しますが、材料がまだある場合にはプラントに戻らず、現場→現場になることもあります。配車が混みあってくると、朝→現場、昼→現場、夜間も現場、翌朝も現場なんてこともあります。
私のディストリビューターは2500リットルしか積むことができませんが、面積の大きな現場以外では充分に仕事をこなす事ができます。ちなみにプライムコートだと1000平方mの舗装で450~500リットルくらいですね。
地元の長野県内の仕事が主ですが、北関東、東京、神奈川、名古屋方面など、他の県への応援に行くこともあります。それぞれのベース基地で寝泊まりし、整備、積み込みなどをするようになります。出稼ぎですね。さまざまなオペさんたちと出会えますから楽しいです。
仕事が少ないときは……
反対に現場が少なく、一日一本とか、無い時もあります。そんな時は、工場の構内作業をしたり、防水工事とか特殊工事に行くこともあったり、やることはたくさんあります。
プラントのタンク掃除、これが一番大変ですね。デスビの修理も、自分でできることは基本的に自分で修理します。普段時間がないとできない、コック類やカバーの交換などです。
デスビの種類はギアポンプ式とエアー式に分かれます。ギアポンプ式は文字通り、ギアポンプでタンク内のアスファルト乳剤を循環させて散布します。
エアー式はPTOでコンプレッサーを回し、加圧したエアーの圧力でアスファルト乳剤を散布します。私のデスビはエアー式なので、23本のノズルがエアーシリンダーにより開閉します。
アスファルト乳剤を均一に散布することは、デスビに求められる重要な機能ですが、これを行なうのがスプレーバです。トラックのリヤオーバーハングに取りつけられている装置がこれです。
私のデスビは、スプレーバの上下・伸縮は手動と油圧による自動を選択することができ、散布幅や舗装路の高低に簡単に対応することができます。
作業で一番大変なことは?
仕事で一番大変なことは、冬場の夜間作業ですね。氷点下での作業ですので、どうしても外気に触れて乳剤が凍るのです。デスビのタンクは保温タンクになっていまして、お風呂のようにボイラーで沸かせるようになっています。
60℃くらいまで加熱して、タンク内のアスファルト乳剤は熱いのですが、配管を通りノズルから外に出ると氷点下の世界……。待機中にエアーで払うのですが、どうしても残留アスファルト乳剤が凍り、配管が詰まってしまうのです。
そんな時はガスバーナーの登場です。エアーを出しながらガスバーナーで炙り、配管に詰まった乳剤を溶かします。信州の夜間は大変です(泣)。
現場についたら必ず23のノズルの点検をします。エアーのホースが近くにある現場は、トーチバーナーでエアホースに穴を開けないよう、弱火で炙ります(何度か穴開けました)。
機械で散布することができないマンホールまわり、スタート、最後のゴールは手撒きになるのですが、これもまた凍ります。バーナー登場です(笑)。
作業終了時には灯油を通しておきます。灯油は氷点下でも凍りませんので。とにかく冬場のメンテナンスは大変ですね。
いろいろ書きましたが、一人で現場に行き一人で仕事をして帰ってくる。そんな仕事ですね。私は建設業界に入って20年経ちますが、トラックに乗れて仕事ができる、この仕事が気に入っています。
トラックドライバーの皆様方には工事規制でご迷惑をおかけしますが、何卒ご協力・ご理解をお願い致しまして終わりにします。
投稿 道路舗装を陰で支える作業車両! アスファルト・ディストリビューターのオペレータの一日 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。