SUV全盛の今、軽やミニバンなどをSUV風に仕立てた派生モデルが続々と登場してきているが、未だその数は少ない。いっそのことノア/ヴォクシー、さらにはアルファードなど、全車種にSUV風グレードを設置しちゃえばいいのに! と素人的には思ってしまうが、一体なぜ進まないのか!?
文/青山尚暉、写真/MITSUBISHI、ベストカーWeb編集部
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■なんちゃってはあるけど……ミニバン×本格SUVは世界中デリカだけ
世界的なSUVブームの中、国産、輸入車ともに、新型車のほとんどがSUVとなっている。
つい最近でも、日産 エクストレイル、マツダ CX-60、スバル クロストレック、ホンダZR-V。そしてトヨタ クラウン、シトロエンのフラッグシップたるC5でさえ、C5Xとしてクロスオーバースタイルでデビューしているのである。
そうしたSUVブームの中で異彩を放ち続けてきたのが、三菱のミニバン「デリカD:5」だ。そのデビューは2007年。アウトランダーをベースにミニバン化し、デビュー前にダカールラリーのサポートカーとして完走した実績ある、まさにミニバンの皮を被った本格SUVそのもの。
2019年にはデビュー以来、約12年ぶりのビッグチェンジを行い、従来型のユーザーの不満点だった質感と先進安全予防技術の進化。さらに走行性能にかかわるすべてに手を入れた”新型”となり、依然として、世界中にライバルなき存在となる。
現行型の駆動方式は三菱自慢の新制御4WDに統一。ATは燃費とスムーズな変速を可能にする、新開発のワイドレンジなスポーツモード付き8AT、電動化されたパワーステアリングを採用。
さらに大径化したリヤサスペンションによって走行性能と乗り心地を高め、フロントウインドーの遮音ガラスやフロアカーペットを含めた入念な遮音・吸音対策まで施されているのだから、ほぼフルチェンジと言っていい内容なのである。
だが、ミニバンのSUV、クロスオーバーモデルは、国内外を見ても少ない。デリカD:5のような、中身は本格SUVという車種は、くどいようだが、今も昔もデリカD:5だけ。
ミニバンのクロスオーバーモデルを見渡しても、今買えるのはホンダ フリードクロスターぐらいのもの。過去を振り返っても、初代トヨタ タウンエース・ノアに専用バンパー、ルーフレールなどを与えたSUV風のフィールドツアラーが思い出される程度。
もっとも、フリードクロスターは、エクステリアデザインにクロスオーバーテイストを与えただけの”なんちゃってクロスオーバー”というキャラクターであり、最低地上高は標準型フリードのFF135mm、4WD150mmと変わりはない。
あくまで、フリードというコンパクトミニバンに、クロスオーバー風テイストをちょっとだけ付加しました……というクルマに過ぎないのである(それでもずいぶんカッコいいが)。
■デリカだけのワケは三菱だから!? ラインアップにも秘密アリ
デリカD:5がすでに15年も独自の存在感を放ち続け、多くのファン、ユーザーを獲得してきているのだから、他社も追随してもよさそうなモノである。現在、アルファードにもエルグランドにも、ノア&ヴォクシー、ステップワゴン、セレナにも、そうしたクロスオーバーモデルは存在しない。
その理由の第一が、というか、なぜデリカD:5が存在するかと言えば、それは三菱自動車のラインナップにあると思える。つまり、三菱と言えば4WD、走破性を重視したクルマ造りの基本がある。
そしてトヨタや日産、ホンダなどに比べ、車種ラインナップが絞られていることもあるはずだ。具体的には、やはりパジェロなき後もSUVが中心で、アウトランダー、エクリプスクロス、RVRが主力車種であり、ミニバンはデリカD:5の1モデルのみ。
そのほかの純三菱車はミラージュぐらいのもの(ここではOEM車、軽自動車、商用車には触れない)。つまり、現時点では、デリカD:5を含む全ラインナップがSUV、4WDに特化したモデルで揃えた自動車メーカーなのである。
だから、2007年にデビューしているデリカD:5のようなミニバンを、当時のアウトランダーをベースに、SUVの皮を被ったミニバンを造ることなど得意中の得意(というほど簡単ではなかったはずだが)。
いや、当時のミニバンブームの最中、三菱車のファン、三菱の4WDファンに向けてどう考えても造るべき、造らなくてはならない1台だった推測する。
■デリカ似のミニバンは他社からもう出ない!? 納得の理由とは
フリードクロスターはともかくとして、他社がデリカD:5のような本格的な4WD性能、走破性を備えたミニバンを作らないのは、悪路の走破性をお望みなら、トヨタであればランドクルーザー、RAV4などのSUVをどうぞ……という幅広い車種展開があるからではないだろうか。
スカイアクティブの思想からミニバンを廃したマツダで言えば、3列シートをお望みなら、3列目席でもしっかりと座れ、乗降性もいいCX-8がありますよ、ということだ。
そして三菱以外の自動車メーカーには、背の高いボックス型ミニバンに余裕ある最低地上高を与えることに、乗降性、重心、走行安定性などの要件から、抵抗があるのかも知れない。
そしてミニバン×本格SUVという、両車のいいとこ取りをしたある意味特殊なクルマを積極的に望むユーザーが、三菱ほどいないであろう予測も立つ。
とはいえアウトドア・キャンプでは、SUVよりむしろミニバンのほうが役立つことが多い。荷物の積載性(3列目席格納時)はもちろん、天候の急変などで車内に避難する際のシートアレンジ性の多彩さ、ベッド化、お座敷化のしやすさにもメリットがある。
実際、三菱自動車主催のスターキャンプの現場でも、アウトランダーの参加者は当然としても、主役はデリカD:5なのである。
だとすれば、他車のミニバンにも、アウトドアテイストあるモデルが追加されるのが時代の流れというべきだろうが、そこは、上記の理由もあって、最低地上高を高めない、ルックス重視のミニバンクロスオーバーモデルにならざるを得ないのだろう。
トヨタ シエンタが、先代までのキャラクターから一転、クロスオーバーテイストあるルックスになったのが、その象徴のようにも思える。
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