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 2022年11月10~13日、愛知と岐阜の両県で開催された世界ラリー選手権(WRC)2022シーズン最終戦「フォーラムエイト・ラリージャパン」。ここにプライベーターとして自らルノールーテシアを用意して参戦したのが、自動車ジャーナリストの国沢光宏氏でした。序盤からトップチームやベテランドライバーのクラッシュやトラブルなどが相次ぐ波乱の展開のなか、順調に好タイムを出していた国沢氏。しかし運命の3日目、SS11にてクラッシュ→リタイヤ。あああぁ…残念無念。本稿では私財を投じて参戦した国沢氏に、ラリージャパン参戦記をご執筆いただきました。

文/国沢光宏、写真/国沢光宏、Rally Japan、ベストカー編集部、TOYOTA

■「ラリーをやりたい」という人のために

 よく「なんでWRCに出るのか?」と聞かれる。普通なら「TOPドライバーの走りを見て憧れました」みたいな答えになるのだろうけれど、私の場合、ぜ~んぜん違います。もちろんWRCの凄さや奥行きに感動したのはTOPドライバーの走りである。フルアタックしているTOPドライバーを見たら、クルマに詳しくない人でも「ハンパない!」と思うことだろう。

 私が初めてWRCを見たのはフランスのコルシカ島を一周する「ツールド・コルス」だった。ラリーは速いドライバー順に走るため、まず「WRCの華」である派手&キレた走りを見せるラリー1車両がやってくる(当時はグループA車両)。自分が予想していたよりはるか高い速度で目の前のコーナーを駆け抜けているのを見て、文字通り「魂消た」(「たまげた」=タマシイが消えるほど驚く、という語源)。

アクロポリスやモンテカルロなどと並ぶ、フランスの名門ラリー「ツール・ド・コルス」。全行程ターマックなのと、ツイスティなコーナーが続くタイトな道が特徴の難コース。写真は2018年のヤリスWRC

 しかし! それ以上に印象的だったのは、見ていると走ってくるクルマがドンドン遅くなっていくこと。やがて「あのくらいなら私でも走れるな!」というレベルになる。翌日もラリーを見に行くと同じ展開。こうなると「自分も走りたい!」という気持ちがムクムク湧き出し、心の中に「熾火(おきび)」(消えたよう見えるけれど実は熱く燃えている状態を示す)となって残ってしまった。

 熟考すると、TOPドライバーはWRCの人気を高めるための役割を持つ。でも10人たらずのTOPドライバーだけだとWRCは成立しない。ピラミッドの下を支えているのが中盤以降を走るドライバーであり、そういったドライバー達が「ラリーをやりたい」という人を勧誘しているように思う。私の走りを見て「このくらいなら自分も出来る」と感じた人が居れば私もWRCの役に立てる!

 そんな気持ちで私はラリーに出ています。今回、自分でラリー車を買った。同業者がポルシェだフェラーリだヘチマだナスだに乗っていることを考えれば、ルーテシアのラリー5はラリーに出られる状態で800万円ほど。老後の資金を切り崩す。参戦費用も400万円ほど掛かったけれど(今回クルマぶつけたのでプラス100万円か?)、これまた稼いだお金をすべて投じればなんとかなる。

豊田スタジアムで開催されたラリージャパンのセレモニアルスタート。ご協力いただいた皆さまと根性と原稿料でここまで来れました!!

■成績がいいと「クルマが速い」と言われ、成績悪ければ「ウデが悪い」と言われる

 長い前置きになった! ラリージャパンが始まり、最初のSSのタイムを見ると、大雑把な自分のポジションが見えてくる。今回私の車両の競争力は『ラリー5』クラスとなり、コペンと少し古いヴィッツの続く下から3番目。それ以外、すべて格上。この2台に負けなければ100点! もっと上に行けば、1台に付き100点の加点と言っていい。果たして1本目の順位はどうだったか?

 なんと32台中の26位! 望外のリザルトです! そして金曜日(2日目)が終わって32台中の27位。私の場合、成績がいいと「クルマが速い」と言われ、成績悪ければ「ウデが悪い」と言われる。おそらくルーテシアの評価が高まると思う(笑)。

ワークス勢も苦しんだ今回のラリージャパン。トラブルが多発するなか、順調にSSをこなしてゆく国沢号。ボディ横には大きく「ベストカー」のステッカーが

 実際、ルーテシアって乗りやすい! そもそもルーテシアを選んだ理由は、欧州のラリーで一番いい結果を残しているから。ラリー界のベストセラー車なのだった。

 ちなみにプラットフォームは日産ノートと同じ。エンジンも日産とルノー、メルセデスで共同開発した1300cc直噴ターボ(普通のルーテシアに搭載されている)ということで、日本との関係が深い。こうなるとスケベ根性が出てきちゃう。総合的に考えたら、無理せずペースをキープして完走すればOK。すべて上手くいく。でもそれじゃなんのためにラリーやってるって話です。

サービスパークへ陣中見舞いに訪れてくれた、ルノー・ジャポン代表取締役社長の小川隼平氏(写真右)
紅葉シーズン真っ只中に開催されたラリージャパン。景観の美しさとホスピタリティは世界トップクラス。ぜひ来年も開催してほしい!!

 今回チーフエンジニアとしてルーテシアのセットアップをしてくれたサンコーワークスの喜多見さんも「よもやよもや、安全に走ろうなんて思ってないですね!」。

 久し振りに組む木原コ・ドライバーのペースノートリーディングは素晴らしい! ということで土曜日も攻めることにした。「1台でも上を狙う」というのがモータースポーツの原点だと私は考える。ルーテシア、楽しいし。

 と考えて走り出した土曜日午後の1本目で岩の壁に呼ばれてジ・エンド。

「ざんね~ん!」ってヤツです。リタイアした人なら皆さんわかっていただけると思うけれど、激しく落ち込む。もう後悔後悔後悔。

「もう少し速度落としていれば」とか「ラインが10cm違っていれば」等々。明るく振る舞いながらも、気持ちは砂を飲んだ如し。この原稿だってオーダー受けてから4日間、書く気になれず。

 されど気持ちはもう切り換えた! こうなれば来年リベンジです! 完走して満足している自分より「攻めた結果コースアウト修行した自分」のほうが似合ってる。また来年に向けて頑張ろうと思う。まずはクルマを修理することから始めます!

コ・ドライバーをお願いした木原氏(写真左)と国沢氏(同右)。感謝感謝感謝であります

■タイヤも「競技」で鍛えられる

 今回タイヤはダンロップです。WRCの場合、FIAの認定タイヤを使わなくてはならず、選択の範囲が狭い。しかもどこも在庫なし。そんなことからラリージャパンの前に出場した全日本ラリー『ハイランドマスターズ』は比較的簡単に入手できるアメリカのタイヤを使うことになった。初めてのルーテシアに初めてのタイヤ。

 はたしてどうかといえば「イマイチですね~」。

 基本的なグリップが、ルーテシアの開発タイヤとなっているミシュランより低いんだと思う。FFなのでコーナーでアクセルを踏むとLSDが効いてハンドル切った方向に立ち上がるようになっているハズながら、ハイランドマスターズでは曲がってくれない。喜多見さんによれば「タイヤ構造の考え方が古いんだと思います」。こらアカンということでダンロップです。

今回、ルーテシアの足元を支えてくれたのは「ダンロップDIREZZA 94R」。お薦めです

 ダンロップにFIAタイヤはないと思って探さなかったのだけれど、聞いたら「あります」。なんとなんと! 遠回りしました。考えてみたらダンロップのラインアップは幅広い。レーシングカート用タイヤを始め、様々な競技用タイヤを作っている。日本のタイヤメーカーの中で一番多くのジャンルをカバーしていると思う。クルマと同じくタイヤも競技で鍛えられる。そういった意味じゃ素晴らしい。

 直前だったため走行テストできず。ぶっつけ本番となる。

剛性感があってグリップもハイレベルだからコーナーもアクセルを踏んで曲がっていける

 結果どうかといえば、望外なリザルトを残せた! 事前に「後輪が少し暖まりにくいと思います」と聞いていたとおりだったけれど、これはFIAタイヤに共通すること。何より絶対的なグリップが高い。ハイランドマスターズで乗ったルーテシアと違うクルマのようにLSDが効いてアクセル踏むとガンガン曲がって行く。

 しかも強い! ラリーで一番イヤなのはパンク。WRCファンなら誰でも御存知のように、イベントごとにパンクでドライバーは悩まされている。今回何度かコースを飛び出してタイヤを強打しているのだけれど、一度もパンクなし! タイヤに対する不満はまったくなく、コースオフするまでラリーを存分に楽しめました!

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