スーパーフォーミュラ第6戦富士では見事優勝を飾り、スーパーGT第6戦SUGOでは今季初の表彰台に立った笹原右京。
スーパーGTではチームとしてベストの戦いをしているにもかかわらず結果が出せない日が続き、ふつうのメンタルなら心が折れそうになってるだろうなと振り返る。
笹原右京のメンタルの強さの理由は幼少期からのカートで培われたものに加えて、オーストリアでの留学生活にもあるようだ。波乱万丈の笹原右京 in オーストリアを語ってもらった!!
話/笹原右京、聞き手/段純恵、写真/HONDA
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■中学を卒業してすぐ単身オーストリアへ
前回から2ヶ月ほど経ちますが、中身の濃い2ヶ月でした(笑)。スーパーフォーミュラでは優勝しましたが、スーパーGTはチームで優勝の手応えのあるベストな闘いができていたのに勝てなかったり。
ふつうのメンタルなら心が折れそうになってるだろうなぁという場面もありましたが、自分たちに速さがあると自信を持って戦えている。それがチームと僕のモチベーションになっています。
メンタルの強さの理由ですか? ものの考え方や精神面の土台はカートで培われたと思いますが、そこに新しいものが加わったのは間違いなく留学していた時ですね。
中学を卒業してすぐ、オーストリアのザルツブルグ近郊にある全寮制のインターナショナルスクールに入りました。
カートで2度目の世界王座を獲った後、ヨーロッパに住んでレースをしたいとずっと口に出していました。
すると、最初に世界戦でお世話になったオーストリアのチームに、新しいブランドのカートを扱うのでテストや本番で開発する人が必要だ、良い学校があってそこの特待生になればチームとしても応援できるのでぜひ来てくれ、と言われたのがきっかけです。
そこは英国系の学校で校長先生はじめ教師の多くが英国人。生徒は国際色豊かで、当時の世界情勢を反映してロシア人が多かったですね。アジア圏の生徒は少なくて、日本人は僕一人でした。
■レース漬けの日々が始まる……かと思いきや!?
その校長先生がレース好きでカートチームと仲が良くて、僕を基本の学費が3年間免除の特待生に認定してくれました。でも行ってすぐ、とんでもないところに来ちゃったと愕然(笑)。英語の授業がチンプンカンプンだったんです。
レース用語は使用頻度が高いので問題なかったんですが、学校の授業となると英語のレベルが全然違う。
親との連絡も断ち切る勢いで日本語を使う環境を一切なくし、精度のまだ低かった翻訳機を片手に誰彼なくつかまえて教えてもらう毎日で、一日が終わって部屋に戻ると疲れ果ててバタンキュー。新学期が始まるまで準備期間の3ヶ月はホームシックになるヒマもなかったです。
そうして9月の新学期にはなんとか授業についていけるようになっていましたが、今度は授業のレベルの高さや課題の多さが見えてきた。
後でわかったんですがこの学校、卒業生がオックスフォードやケンブリッジに行くような学校だったんです。数学、英語というか国語、物理、化学、政治、経済、音楽に体育など全教科でスコアを出さないと本当にあっさり退学になる。
しかも学年が上がるに従いテストも提出するレポートも増える。僕は学校を続けることがヨーロッパでレースができる条件だから、学校で生き延びていかないと人生も終わってしまう。本当に必死でした。
朝6時に起きて食事や着替えの合間に課題をやりながら次の授業の準備をする。授業が終わったら夕食前も課題、夕食後もまた課題。1日に24時間どころか48時間くらいのことをやってた印象で、いま振り返ってもよく乗り切ったなぁと思います。
でもそんな時間の使い方、クォリティを求めるのと同時に期限内に課題を100%やりきる経験は、いまレース活動でもめちゃくちゃ役に立ってます。
■留学生活のモチベーションはやはりレース
睡眠時間もギリギリの3年間、モチベーションはやはりレースでした。テスト日程が平日しかないので休ませてほしいとチームが学校に依頼してくれると、やったっ! ここから出られる、外の空気が吸える、カートに乗れる! と、迎えに来てくれたチームのバンを見ただけでもうテンションマックスでした。
でもテストやレースが終われば学校に戻らなきゃいけない。帰りは暗かったです(笑)。レースがなければ、留学生活はかなりヤバいことになってたんじゃないかと思います。
学校や寮では基本的に何でも自分でしなくちゃいけない。人種差別ってわけじゃないけど、会話や雰囲気のなかで日本人だから舐められてるなと感じることもありました。
先生でも、コイツはすごく頑張ってると認めてくれる人とは自然と仲も深まるけれど、根っから日本人を受け入れないというか認めていない人とはなんとなく互いを避けていく感じになる。
でもその先生が僕をちゃんと理解してくれないと、その人が評価を下す教科が難しいことになりかねない。とにかく相手が嫌がろうがなんだろうがどんどん話しかけて、『こいつ本当に日本人?』って相手が驚くくらいやっているうちに、僕を理解して助けてくれるようになった先生もいました。
欧米のスタイルとして、自分から何かしなければ誰も助けてくれない、自分から行動しないと前に進まない、意見の違いで関係が悪くなることを恐れちゃいけないというのがすごいあります。
実際、あることないこと言われて、それは違うと本気で相手に向き合ったら、本当の意味で理解が深まる関係が築けました。でも日本で同じようにやると、文句が多いとか言い訳が多いとか、そこは包み隠して黙って頑張りなさい、みたいな感じになっちゃいますね(笑)。
ただ、結局は自分次第なのかな。自分がどれだけ努力と準備を重ねられるか。先日のSGTでもセーフティーカーが入って僕らはチャンスを無くしたけど、SCが出ても何かカバーできることはあったのではないかと後で考えてみると意外にあったりするんですよ。
留学時代を思い出すと、スッゲー嫌なこともあったし自分の時間もなくて面倒臭いことも多かったけど、今となってはあの学校に行って良かった、自分が成長できたと感謝してます。
良いことがあれば悪いこともある。逆に悪いことがあれば良いこともある。最終的に良いことが多かったねって言えるよう、これからも悔いなく過ごしていきたいです。
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投稿 日本人たったひとり!! 孤高の天才レーサーはこう育った!! オーストリアから羽ばたいた若武者のいま は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。