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Imge:Koshiro K/Shutterstock.com

今月16日に5年に1度の中国共産党大会が開幕し、習近平総書記(国家主席)が台湾統一を公約するとともに「決して武力行使の放棄を約束しない」と語ったことで、国際的な緊張が高まっている。特に、台湾に拠点を置く世界最大手ファウンダリーTSMCは、武力侵攻リスクの矢面に立たされている格好だ。

そんななか、米政府関係者のなかには中国が半導体製造施設を手に入れるぐらいなら、TSMCの施設を爆撃した方が望ましいとの声もあるとの噂が報じられている。

TSMCのR&Dセンター(2022年6月撮影)Image:Google Maps

米Bloomberg報道によると、米政府内ではロシアがウクライナ侵攻を開始したことで、中国が勢いづいて台湾に侵攻することが懸念されているという。そうしたシナリオを想定し、有事の計画を立て「ウォー・ゲーミング」(戦争シミュレーション)を行っているそうだ。

そのシナリオの1つが、TSMCごと避難させ、特に優秀なエンジニアを安全な場所に退避させることが最優先されるというもの。だが米政府関係者の中には、TSMCの施設を爆撃するという極端な選択肢を提唱している者もいるという。中国に世界の半導体供給の大部分を支配されるくらいなら、破壊したほうがマシだと考えているようだ。

このシナリオはあくまで仮説にすぎず、最終的に実行される計画というわけではない。しかし、台湾の陳明通・国家安全局長はこの極端なプランを聞きつけ、TSMCの施設を破壊する必要はないとの声明を出している。サプライチェーンは非常に複雑で、中国が台湾に侵攻した場合、半導体の生産は不可能になるというのだ。

陳氏いわく「TSMCのエコシステムを理解すれば、その考えは非現実的だ」とのこと。なぜならTSMCが最先端チップを製造する前に「グローバルな要素を統合」する、つまり全世界から先端機器を調達する必要があるからだ。たとえばオランダ企業ASMLの極端紫外線(EUV)露光装置などの高度な機材がなければ、TSMCが生産を続けられないというわけだ。

陳氏は、米国やオランダのサプライチェーンが利用できなくなれば、TSMCの工場は使い物にならなくなるという。そして中国が施設を接収したとしても、半導体を生産する手段がないとも付け加えている。

しかし米AppleInsiderは、TSMCの工場には最先端の半導体製造装置や機械がふんだんに設置され、使われていることを指摘している。いま現在、中国は米国に由来する高度な半導体技術に直接アクセスできないため、侵攻によって高度な装置を手に入れること自体が深刻な問題になり得るというのだ。

さて陳氏の談話に戻ると、米国が自らTSMCの施設を占拠したり、技術者を引き抜くというプランにも否定的だ。「TSMCのエコシステムをもっと理解すれば、彼らが考えているほど単純ではないことに気づくはずだ。だからインテルはTSMCに追いつけないのだ」と辛らつである。

米国家安全保障会議は、中国の侵攻によりTSMCが消滅した場合は、世界経済に1兆ドル以上の損失をもたらすと試算している。習近平氏は異例の3期目政権を正当化するため、台湾統一を公約せざるを得ないとの指摘もあるが、くれぐれも熟慮を望みたいところだ。