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 これまで「トラックの脱炭素の本命は電動化」としてきたスカニアが、2024~2025年に燃料電池トラックを発売すると発表した。予定しているのはスイス市場への投入で、日本を含めたそのほかの市場については、今のところ不明だ。

 大型車の脱炭素に関して、欧州の大手トラックグループの中ではダイムラーのみが当初から電気と水素の両面戦略を採っていたが、それ以外は電動化を中心に据えていた。

 今年(2022年)6月にボルボが燃料電池トラックの商用化を発表したのに続き、この度は、トレイトングループ(VWの商用車部門)に属するスカニアも燃料電池トラックでの市場参入を発表したことになる。

 これにより商用車の世界3大グループ(ダイムラー、ボルボ、トレイトン)はいずれも電気と水素の両にらみ戦略に転じた。スカニアはこれに先立って水素エンジンの熱効率がディーゼルエンジンを超えたことも発表しており、水素技術での優位をアピールしている。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/Scania CV AB、 Hyundai Motor Company、 Westport Fuel Systems Inc.


スカニア、スイス企業へ燃料電池トラックを販売予定

 スウェーデンの大手商用車メーカーで、フォルクスワーゲン(VW)グループに属するスカニアは、持続可能な輸送システムへの移行を実現するために本命となる技術は、バッテリー電気自動車(BEV)だと考えている。

 ただ、水素技術や燃料電池(水素などの燃料から電気を作る技術)ソリューションについても模索しており、これまではBEVとハイブリッド(PHEV)トラックを中心に展開していたスカニアが、2022年11月8日に燃料電池(FCEV)トラックを開発・販売すると発表した。

 スカニア初のFCEVトラックは、いずれもスイスの複数の企業に販売される予定で、間もなく(2024年から2025年にかけて)納車する計画。6月にFCEVへの参入を表明したボルボは「2025年以降の商用化を目指す」という発表だったので、スカニアのFCEVは、販売をかなり急いでいるという印象を受ける。

 公表されている販売先の企業は多様な輸送分野にまたがっており、実際の運行形態も日用品、リテール、建機輸送、地場輸送、長距離輸送など様々なものになりそうだ。

 車両の詳細はまだ不明だが、GVW(車両総重量)もしくはGCW(連結総重量)は40トンから70トンの大型車となる。研究プロジェクトとしてスカニアがFCEVトラックを開発したことはあるものの、実際に顧客に販売し運行するのは初めてだ。

 伝統メーカーであるスカニアは、顧客である運送会社との付き合いも長く、今回のFCEVの販売先の一社で、姉妹企業を通じて水素ステーションにも投資しているトラベコ・トランスポートAGは次のようにコメントしている。

 「水素はエネルギーのキャリアとして将来的に大きな可能性を秘めています。こうした理由から私たちが水素技術に投資するのは当然です。スカニアとは長年培ってきた信頼関係があるので、一緒に『脱炭素』というゴールを目指すことができます」。(同社のマネージング・ディレクター)

スイスの水素プロジェクト

 スイスは欧州の中でも再生可能エネルギーや水素の活用に必要なインフラの整備が進んでいるとされる。2020年には韓国の現代自動車(ヒョンデ)が、スイス向けにFCEVトラックを販売し、大型車で欧州市場に参入すことを発表している。

 実際にヒョンデは同年中にFCEV大型トラック「エクシェントFC」10台をスイスに輸出しているのだが、2025年までに1600台、2030年までに2万5000台としていた壮大な計画は後が続かず、2年以上が経過した現在でも実際に届いたのは50台未満(47台か?)となっているようだ。

いつの間に方針転換したの!? スカニアが間もなく水素燃料電池トラックを発売へ
ヒョンデの「エクシェントFC(フューエル・セル)」。2025年までに1600台をスイスに届けると発表したが……

 このため現地ではヒョンデがスイスの水素トラックプロジェクトから撤退するのではないかという観測が出ている。もちろんヒョンデは噂を否定し、グリーン水素(再生可能エネルギーから製造する水素)の供給量が原因でありプロジェクトの中止ではないとしている。

 穿った見方になってしまうが、スカニアが2025年までにスイス市場向けにFCEV大型トラックを販売するというのは、エクシェントFCの調達の遅れに対応するものとも考えられる。2025年までに1600台の予定が未だ50台未満とすれば、同国には少なくとも1500台のFCEV大型トラックの需要が確実に存在するからだ。

 なお、エクシェントFCは数少ない市販のFCEV大型トラックであり、累計の走行距離は史上初めて500万kmに達している。

最優先は引き続きBEV

 とはいえ、スカニアの最優先事項は引き続きBEVトラックだ。その理由として同社は、一般的な顧客にとって広範囲に市場展開される最初のゼロ排出技術がBEVであることを挙げる。

 しかし変革を加速するためには、あらゆる種類の再生可能エネルギーが必要となる。水素は約束されたエネルギーキャリアであり、長期間にわたり再生可能エネルギーを貯蔵する優れた方法だ。

 再生可能エネルギーによって作り出されるグリーン水素は、将来的にエネルギーシステムの脱炭素化に向けて重要な役割を果たすことになる。

 このため、BEVトラックの提供を拡大し、より多くの市場セグメントと架装の要求を満たして来たのと同じように、スカニアはグリーン水素が果たすであろう役割についても強い関心を寄せている。

 「排出ゼロの輸送に向けた変革を加速するためには、オープンな考え方も必要となります。ある方法ではゼロ・エミッションの実現が難しい輸送でも、別の方法なら実現可能になるからです」。(スカニアのパイロット・パートナー責任者、トニー・サンドバーグ氏)

水素エンジンでもブレイクスルー

 いっぽう、水素を内燃機関で燃焼させる水素エンジンでも、スカニアは10月に画期的な実験結果を発表している。カナダ・バンクーバーを本拠とする代替燃料システム大手のウェストポート・フューエル・システムズと共同で、ディーゼルエンジンを超える熱効率を達成したのだ。

 両社が共同で行なった実験は、スカニアの13リットル級「CBE1」プラットフォーム(最新のディーゼルエンジンのベースとなる共通プラットフォーム)にウェストポートの水素燃料システム「H2HPDI」を組み合わせたエンジンの性能に関するもの。

 CBE=コモン・ベース・エンジンは、スカニアとトレイトングループ(VWの商用車部門)が欧州の次期排ガス規制・ユーロVIIへの対応などを目的に開発したもので、世界で最も厳しい排ガス規制への適合と、燃費、高トルクを同時に成立させるクラス最高の次世代エンジンプラットフォームだ。

 このベースエンジンにウェストポートのHPDI技術を採用した水素燃料システムを組み合わせ脱炭素エンジンとした。

 初期の実験では、正味熱効率(ピーク)は51.5%、道路負荷で48.7%という結果を得た。これはベースのディーゼルエンジンと同等か、それを超える効率だ。

いつの間に方針転換したの!? スカニアが間もなく水素燃料電池トラックを発売へ
スカニアのCBE1プラットフォーム(排気量13リットル)+ウェストポートのH2HPDIシステムの水素エンジンは最新のディーゼルエンジンより高い熱効率を示した

 排ガスの出ない燃料電池とは異なり、水素エンジンはディーゼルエンジンと同様にNOxを排出するが、こちらもユーロVIIや米国の次期排ガス規制・EPA27の範囲内とみられる。

 スカニアの上級技術顧問、エリック・オロフソン氏はこの水素エンジンを次のように評価する。

 「水素HPDIというコンセプトを実証するにあたって、ベースとなるディーゼルエンジンのシリンダヘッドにわずかな設計変更を行ないました。それ以外の吸排気系、後処理装置、クランクケースなどは変更していません。

 それにもかかわらず、高いローエンドトルク(BMEP/正味平均有効圧は900rpmで28bar)と、優れた過渡性能を示しました。

 これは、言い換えれば短い開発期間と少ない投資で素晴らしい製品を市場に投入できるということです。とりわけ、長距離輸送や充電インフラが限られる地域においては水素エンジンによりBEV商用車を補うことができそうです」。

 両社は11月中にもこのエンジンの初期試験を終え、次のステップに進むことにしている。

 水素燃料を使った内燃機関は、既存の技術が使えるためコスト効率に優れた方法で脱炭素を実現し、特に高い信頼性が求められる大型商用車での活用が期待されている。

 電動化を本命としていたスカニアだが、いつの間にか水素技術でも世界をリードし始めている。

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