利用率が9割を超え、料金所によっては専用ゲートのみになるところもあるなど、今や主要な有料道路にはほとんど導入されているETC。
そのETCの技術を応用した新たなサービス「ETCX」が2021年から始動している。ETCXとETCの違いや、実際にETCXを使ってみた感想、さらにETCX利用の今後まで、清水草一氏が解説する。
文/清水草一、写真/清水草一、AdobeStock
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■セキュリティ機能が非常に高い日本のETC
2021年から、簡易型ETC課金システム「ETCX」が始動している。これは、ETCと何がどう違うのだろう。
その前にまず、ETCについておさらいしよう。
2001年から本格的運用が始まったETCは2022年4月現在、利用率が93.9%に達している。NEXCOの高速道路はもちろん、首都高や阪神高速、名古屋高速など、主要な有料道路にはほとんど導入され、料金所渋滞を解消する立役者となった。
日本のETCは、課金がきわめて正確で、セキュリティ機能も高い。欧米の自動料金収受システムと比べても、ケタはずれの正確性を誇っている。
これは、日本人の国民性が関係している。日本人はお上(お役所)に非常に厳しく、ミスを許さない。役所は言わば「天」。天が間違えたら天地が引っ繰り返るのだ。
そのため国交省は、自動料金収受システムの導入にあたって、万全の正確性とセキュリティを担保すべく、システムを構築した。目標は達成されたが、代わりにコストが非常に高くなってしまった。
車載器の値段も高いが、もっと高いのは料金所のETC機器だ。一基数千万円、設置費用も合わせると億を超える。ブース数が上下線合計4つ程度の小規模な料金所でも、ETCを導入すると、10億円程度かかると言われる。
このため、地方が運営する交通量の少ない有料道路には、ETCを導入できない路線が残っている。利用者としては「今どきどうして?」と感じるが、莫大な設置費用が壁となっているのだ。
■道路以外での利用が普及しないETC
加えてETCは、有料道路以外での利用がまったく進んでいない。
国交省としては、導入当初からETCの利用を有料道路以外に広げる構想があり、2004年に三菱商事系のITS事業企画(株)が設立され、駐車場、ガソリンスタンド、ドライブスルー向けのETC決済「IBAサービス」を開始したが、わずか数カ所に採用されたのみだった。
IBAサービスは、有料道路としては全国で唯一、2007年に箱根ターンパイク(現アネスト岩田ターンパイク箱根)に導入されたが、2019年、IBAサービスの終了とともに消滅した。
私も当時、IBAサービスに登録しようか迷ったが、登録に際して車検証のコピーの提出が必要だったため断念した(複数台所有で、入れ替えも激しいため)。結局ターンパイクでは、IBAサービスを利用するクルマを一度も見ないままだった。
■気軽に導入できる「ETCX」
代わって登場したのが、ETCXだ。
「ETCX」は、ETCソリューションズ(株)が提供するサービスで、2021年から運用を開始。今回は、ソニーペイメントサービスや沖電気、オリコ、NEXCO中日本などが出資している。
採用施設は今のところ全国に6カ所のみだが、利用登録はIBAサービスに比べるとはるかに簡単で、ネット上で5分程度で完了する。ETCXは、クルマ(ETC車載器)ではなくETCカードを登録する形なので、登録したETCカードをほかのクルマに差し替えての利用も可能だ。
2021年は、静岡県の伊豆中央道と修善寺道路の合計3カ所の料金所(静岡県道路公社)が採用。今年3月には、アネスト岩田ターンパイク箱根にも導入されたので、私も登録し、利用してみた。
■「ETCX」を実際に使ってみた
ETCXは簡易なETC課金システムのため、料金所でいったん停止する必要があるが、それはスマートICも同じ。とまどいはなかったが、最初の利用時は、「本当に作動するのか?」と不安だった。
ターンパイクの料金所に進入すると、係のおじさんが「730円です」と手を差し出したので、「ETCXです。初めて使うんですが、動いていますか?」と尋ねた。
おじさんはハッとしたように前(表示部?)を確認し、「オッケーです」と通してくれた。伊豆中央道の江間料金所でも、ほぼ似たような対応だった。決済に要する時間は、3秒程度とのことである。
まだ、ETCXの利用者が少ないこともあり、窓を開けておじさんと会話する形になったが、なんだか心が温まるし、キャッシュレスで通過できるだけでも充分便利だと感じた。利用の度に確認メールが届くのも安心だ。
■「ETCX」について質問してみた
それにしても、同じETCを使うのに、なぜ新たに利用登録が必要なのだろう。ETCソリューションズに問い合わせてみた。
「ETC多目的利用サービス用のETC情報処理装置を利用するのが、ETCXです。新たに、高速道路で使われるETC情報処理装置とは別のシステムを構築しております」
ETCXは民間が多目的に利用するためのものなので、高速道路利用情報のセキュリティを守るため、ETCとはシステムを厳密に分離している。いったん停止しての利用はスマートICと同じだが、システムそのものが別なので、新たに利用登録を行う必要が生じる。
利用登録には、「親」のクレジットカードと、「子」のETCカード両方の登録が必要だが、これもETCとはシステムが別のため。車載器に挿入されたETCカードの情報だけでは、決済ができないのだ。
ただ、登録料や年会費は無料だし、一度登録してしまえばずっと使える。利用者側の負担は、利用登録の手間だけだ。
つまり、利用が広がるかどうかは、ひとえに利用施設の増加にかかっている。現在のわずか6カ所のままでは事業として成り立たず、いずれIBAサービスのように消滅することも考えられる。
■何に利用できる?「ETCX」の今後
ETCXは、いったん停止しての利用が前提なので、通信速度はETCより遅く、その分、設置施設側の費用は安上がりになる。
ETCソリューションは、その利点を生かして、今後「ドライブスルー」や「駐車場」、「ガソリンスタンド」に「フェリー」、「EVスタンド」などへの展開を目指していくというが、実際の設置費用はどれくらいなのか。
「設置費用は、業態や場所などによって変わってきます。ETCX決済を全自動で行うか、端末によるオペレーションで行うかによっても、かなりの金額差が発生します。詳細につきましては、導入希望の施設と打ち合わせをさせていただき、個別にお見積りさせていただいております。
参考情報ですが、設置ずみ有料道路では、数百万円で設置した施設もあれば、数千万円の施設もあります。
ガソリンスタンド、ドライブスルーなどへの展開策としては、必ずしもノンストップに近い処理速度を求められないことを考えると、機器構成の簡略化、廉価版機器による対応など、導入価格を引き下げることと、機器設置工事、保守などを含めたリースプランなども検討しております」(ETCソリューションズ)
どんなシステムも普及するかしないかは、メリットがあるかないかにかかっている。
有料道路に関しては、文句なしにメリットがある。交通系ICカードを導入した有料道路(三浦縦貫道、新見沼大橋有料道路、皆野寄居有料道路など)もあるが、タッチする必要があるので、利用者としてはETCXのほうが便利だ。
駐車場の場合は、施設利用による割引の処理が壁になるだろう。
それよりも、ドライブスルーが有力ではないか。例えば、マクドナルドは週末ごとにドライブスルーが長蛇の列になり、渋滞すら発生させている。ETCXの導入で支払いがスムーズになれば、社会的にもメリットがあるはずだ。
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