バス利用者の多くを占める「地方側在住者」。ユーザーが求めるのは、バス停留所への自家用車アクセスだ。クルマ社会の地方部では、IC前や本線上の停留所強化が、道路環境、駐車料金、トータル所要時間で鉄道に対する最大の強みになる。
(記事の内容は、2021年11月現在のものです)
執筆・写真/成定竜一
※2021年11月発売《バスマガジンvol.110》『成定竜一 一刀両断高速バス業界』より
■自然発生したパーク&ライド
バスマガジンWeb内記事「高速バス乗客はほぼ地方在住者!! 地方発早朝路線の拡充など、今こそダイヤの見直しを」では、コロナ後の高速バス路線再生のカギは「原点に戻る」だとご説明した。
高速バスの需要の多くは「地方の人の都市への足」であり、自社の商品がそのニーズに応えられているか点検すべきだとして、まずはダイヤ設定を採り上げた。
次に点検すべきが、停留所の設定だ。前号で述べた「地方側早朝発の上り便→深夜着の下り便中心」のダイヤ実現に必須なのが、地方側でのパーク&ライド(P&R)の活用である。
京王バスらによる新宿~長野県各地の路線を見ると、便数の少ない白馬線を除く5路線の上り初便がいずれも4時台発。その時刻に公共交通は動いておらず、自家用車でのアクセスとなる。
当然、中心市街地(松本BTなど)より、インターチェンジ周辺や本線上の停留所(松本インター前、中央道茅野など)の乗降が多い。乗客にとって、郊外の停留所へは道路環境がよく、かつバスに乗車後はすぐ高速道路で、自宅から都心へのトータルの所要時間が相当短縮される。
1990年代初め、本線停留所付近の田畑のあぜ道に自家用車を勝手に止める人が出始め、やむを得ず自治体が駐車場を設置したというのが、おそらくその起源だろう。
■先行する四国。大きい地域差
興味深いのは、地方によりその充実度に大きな差があることだ。4県とも充実しているのが四国で、特に神戸淡路鳴門道の付け根に当たる徳島県の松茂停留所付近には、公共、民間合わせて1千台規模の駐車場が並ぶ。逆に、北海道や九州で普及が遅れている。
積雪地帯では冬場の除雪が課題だが、新潟県各地や山形県の鶴岡など成功事例も多い。
考えてみれば、四国で高速バスが急成長したのは、明石海峡ルートが全通した1998年以降。ほかの地方では80年代半ばに雨後の筍のように新路線が相次いだから、10年以上遅い。
1985年に約7割だった世帯当たりの自家用車普及率が100%を超えたのが、その1998年だった。
ほかの地方では「一家に1台」時代に成長し、家族による送迎を前提としていた高速バスだが、四国で伸び始めた時期には「一人に1台」時代になっていた。四国では、最初から新時代に対応して商品設計がなされたと言える。
他地方では、前述の長野県や新潟県のように乗客のニーズに小まめに対応し駐車場を整備してきた地域もある一方、先行して成長した「高速バス王国」九州で普及していないのは「殿様商売」と言われても仕方あるまい。
■多様な形態。成功事例の視察を
自治体が、違法駐車対策として消極的に、あるいは住民の利便性向上のため積極的に整備した駐車場のほか、商業施設の駐車場の一角を高速バス乗客用として区切る例(バス事業者が賃料を負担する場合と、商業施設側が誘客のため無料開放する場合がある)、バス営業所内に設置する例など形態は多様だ。
明石海峡ルート全通の前年に開通した東京湾アクアラインでも、袖ヶ浦BTなど停留所併設の駐車場やイオンモールなどでP&Rが盛んだ。特に木更津金田BTでは、朝は東京駅線が3分間隔で頻発することから、同市には移住者が増えたともいわれる。
元は古い集落近くの路上停留所だった長野県飯田市の伊賀良のように、後から駐車場、発券所、ビジネスホテルなどが整備され「一大ターミナル」に化けた例もある。
駐車料金は無料、有料、バス乗客のみ無料、定期券設定など、地域や発着路線の特性により異なる。
小規模で始めると、満車でバスに乗り換えられないリスクを考慮し予約制にせざるを得ないが、予約制は乗客、事業者双方に手間で嫌われる。
近年では、コイン駐車場運営の様々な仕組み(「料金機に紙幣が詰まった時の対応代行」なども)ができており、むしろ大規模に展開したほうが効率よく運営でき、乗客への普及も早い。
未だ十分なP&Rが機能していない地方の高速バス事業者の経営者、担当者の皆様には、百聞は一見に如かず、ぜひともここに挙げた各地の事例を視察することをお勧めする。もちろん、現地に泊まって早朝の様子を、だ。
投稿 バス利用者の大半が地方在住者!! 人気の裏にバス停留所への自家用車アクセス「パーク&ライド駐車場」が超便利 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。