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今年2月の長崎県知事選で初当選した大石賢吾氏の陣営の出納責任者と選挙コンサルタントの2人が公選法違反(買収)の疑いで長崎地検に刑事告発された問題で(過去記事)、告発人となった郷原信郎弁護士と上脇博之神戸学院大教授が19日、オンラインで記者会見を行い、地検が告発状を正式に受理したことを明らかにした。

オンライン記者会見で告発受理を報告する郷原氏

告発状によると、大石知事が選挙後に選管に提出した選挙の収支報告書では、投開票日から8日後の2月28日、告発された選挙コンサルタントの大濱崎卓真氏が経営する東京都内の会社に対し選挙運動に使った「電話料金」として402万82円を支払ったことを計上していた。

報告書には同じく「電話料金」として地元ケーブルテレビ局などに支払った5,304円〜5万2,806円も記載されているが、大濱崎氏への支払いは金額が突出していた。

オートコールによる選挙運動そのものは、陣営があらかじめ用意した投票呼びかけの録音を流すだけの“単純業務”にあたるため公選法上も問題はない。しかし大濱崎氏の会社が登記している事業内容には電話関連業務は含まれておらず、仮にオートコール業者への支払い経費だったとしても、候補者から対価を得て、有権者への投票働きかけを行なったことになる、と郷原、上脇両氏は主張していた。

郷原、上脇両氏とは別に長崎県内の市民団体も今月4日、長崎署に同容疑で刑事告発状を提出し、受理されたことを記者会見で明らかにしている。郷原氏によると、市民団体の動きを受けて地検に対し、6月に提出した告発状の取り扱いを確認したところ、地検も正式に受理する意向を伝えられていた。若干の形式的な補正を経てこの日、受理したとの連絡があったという。郷原氏は記者会見で「我々の告発の後、地検と県警の間で色々な情報交換が行われたのではない」との見立てを示した。

長崎の空気が一変した転機

2月の長崎県知事選は保守分裂の激しい選挙戦となり、新人の大石氏が、3期務めた現職の中村法道氏を、541票という歴史的な僅差で破って勝利。全国最年少39歳の知事誕生として注目された。大濱崎氏は大石氏の選挙参謀の1人として陣営に入り、当選に貢献した。本業の選挙コンサルの傍ら芸能事務所にも所属。ヤフーニュース公認の専門家として選挙・政治の解説記事を執筆するなど選挙業界の中では比較的一般にも知られている存在だ。

告発された大濱崎氏(ジャッグジャパン社サイト)

今回の疑惑は選挙直後から市民団体などが指摘。長崎県警に一度は告発状が提出されたが、「事実関係など告発状の形式を満たしていなかった素人が作成していた」(関係者)もので、捜査当局に「門前払い」の様相だった。こうした経緯から、選挙業界のある関係者は「大濱崎氏はすっかり油断したのではないか」と指摘する。

雲行きが変わったのは郷原、上脇両氏の登場だった。長崎地検次席検事時代、自民党長崎県連の違法献金事件の捜査指揮をとった郷原氏、広島県の元国会議員夫妻による大型買収事件の端緒の一つになった刑事告発した上脇氏が参戦したことで、長崎県内の空気も一変した。

複数の事情通によると、県警は今夏から市民団体側に告発状の形式を整えるよう何らかの「指導」があった模様だ。さらに市民団体側も弁護士からのテクニカルなサポートを得て告発状の完成度を高めた経緯があった。

「知事失職」シナリオは?

県警が市民団体からの、地検が郷原・上脇両氏からの、刑事告発を正式に受理したことで今後の焦点は捜査がどこまで進展するか。今回告発された2人が仮に起訴され、特に出納責任者の有罪が確定した場合は、連座制の対象となり、大石氏の関与がなかったとしても知事を失職することになる。

12日の定例記者会見で釈明する大石知事(長崎県YouTubeより)

一方で、現職知事の失職につながる可能性がある事件だけに、県警・地検の捜査は慎重に行われるのは必至だ。当事者の捜査協力への態度次第では、犯罪の嫌疑が十分認められるものの、あえて立件を見送る「起訴猶予処分」にする可能性も否定はできない。

ただ、その「起訴猶予シナリオ」についても、郷原氏は、菅原一秀元経産相のケースを挙げる。菅原氏は選挙民への香典提供で買収罪で告発され、一度は起訴猶予処分となった。しかし、検察審査会が「起訴相当」と議決。再捜査の末、菅原氏は結局略式起訴され、東京地裁から罰金40万円、公民権停止3年の略式命令を受けた。郷原氏は「(今回も検察は)検察審査会の反応も考慮した対応になるのではないか」との見通しを示した。

告発された問題について、大石氏は今月12日の定例会見で「(捜査当局に協力を)求められればしっかり対応はしたい」と述べたが、「費用について適切に支出をした」と違法性はなかったとの認識を改めて示した。大濱崎氏は今年6月、本サイトの取材には答えなかったが、毎日新聞の取材に対して問題の402万円について「報酬は含まれておらず公選法には抵触しない」と反論している。

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