「新幹線に触れないのはおかしい」。西九州新幹線(武雄温泉-長崎)開業まで半年に迫った今年3月。佐賀市で開かれた佐賀経済同友会の会合で、佐賀共栄銀行の二宮洋二頭取(71)は、居並ぶ財界人に疑問をぶつけたという。
西九州新幹線は、九州新幹線西九州(長崎)ルートの一部区間に当たる。関係者によると、その「開業元年」でもある2022年度の事業計画案が議題に上がった際、二宮氏はルート全体の整備促進に向け議論を深めるよう働きかけた。
財務省出身でしがらみの少ない二宮氏は、佐賀県内の残された新鳥栖-武雄温泉について言及せずにはいられなかった。「地域経済をよくすることが経済団体の目的。整備方式の議論すらしないのは、変だろ」と違和感を口にする。
国が博多-長崎の新幹線整備計画を決めたのは1973年。並行在来線や技術開発などを巡る曲折を経て、ちょうど50年目に武雄温泉-長崎の「部分開業」にこぎつけた。だが、残る区間の整備方式やルートに関しては議論が進まず、佐賀県の経済界は態度を示せずにいる。
「何も言わないことにしている」。重鎮の一人は声を潜める。理由を問われると、数秒間沈黙し、短く続けた。「聞かんでも分かるやろ。知事があんなふうに言っているからだ」
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新幹線は、少子高齢化が進む地域に活力をもたらす可能性を秘める。だが、新鳥栖-武雄温泉を一般の新幹線と同じフル規格で整備することに前のめりな国と与党に、佐賀県が立ちはだかる。「強硬路線」のど真ん中にいるのが山口祥義知事だ。
2015年の知事選で自民党の推薦候補らを破り、初当選してから今年で2期8年目。常に「県民党」の姿勢を貫き、民意を背に政財界で影響力を振るってきた。県議会最大会派の自民党県議団との力関係でも、優位に立つ。
そんな山口知事の求心力の源泉には、新幹線の全線フル規格化に首を縦に振らない、県民目線のリーダー像がある。県の財政負担が重い割に博多駅への時間短縮は限られ、並行在来線が不便になる-。こうした懸念を背景に、「フル規格は求めていない」と、中央からの要請を突っぱねてきた。
「お金もないのに新幹線はいらない」(佐賀市の40代男性会社員)、「在来線沿線の地域がさびれる」(佐賀県鹿島市の70代男性)。県民の声が、知事の強気を支えてきた。
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だが、新幹線開業が近づくにつれ、県民感情に変化が出ている。今年7月の西日本新聞社の世論調査で、新鳥栖-武雄温泉のフル規格化の賛否を尋ねると、「賛成」は56・2%に達した。19年の調査は38・5%。3年間で民意が逆転した。西九州新幹線が開業する武雄、嬉野両市の政財界や、自民党の地元国会議員などが進めるフル規格促進の活動も熱を帯びる。
「フル規格の議論をするなら、新たな着想で着地点を見いだすことも必要だ」。今月7日の県議会定例会。自民議員から国との協議の進め方をただされた山口知事は、そう答えた。未整備区間を巡る発言に、微妙な変化がうかがえる。
12月に3選を目指す知事選を控える中、時にとげとげしい言葉でフル規格化をけん制してきた山口知事に見えた、軟化の兆し。「政治家だから、空気を敏感に察しているんだろう」。知事に近い県幹部は、心情を推し量る。
23日から武雄温泉-長崎で新幹線が疾走する。そこから博多に、どうつなぐのか。何も決まらないままで、地域活性化の道筋を描けるのか。西九州新幹線の開業のその先へ、重い問いが佐賀県の針路を覆っている。
(山下航)
西日本新聞 2022/9/19 6:00 (2022/9/19 11:38 更新)
https://www.nishinippon.co.jp/sp/item/n/989710/
引用元: ・「フル規格」に軟化の兆し? 佐賀県知事の微妙な変化の理由 [蚤の市★]
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