これまで私は50数台のクルマを買ってきた。欲しいクルマが現われると矢も楯もたまらず現物に突進してきた。その結果が50数台。しかもそのうちフェラーリが13台、ランボルギーニが2台だ。我ながら「よくがんばったぞ、お前!」と声をかけたくなる。
しかしさすがに年も年。収入は減る一方だし、120回ローンなんて怖くて組めやしない。そんなに現物を買っていられない。
しかも世の中半導体不足やら人手不足やら原材料高やら円安やら気候変動やらで、新車の供給が追い付かず、買いたくても買えないクルマが出始めている。納車待ちも信じられないほど長くなり、その影響で中古車相場もドンと上がった。もう勢いまかせで後先考えずにクルマを買える時代は終わったようだ。
しかし我々にはイマジネーションという武器がある。自由で強力な妄想力を駆使すれば、買わなくたって満足できる! さあ飛び立とう、妄想の翼でクルマ好きの天国へ!
※本稿は2022年9月のものです
文/清水草一、写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2022年*月*日号
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■新型クラウンクロスオーバー VS 中古クラウン(6代目クラウンマジェスタ)
●新旧クラウンどっちにしよう? それがマニアの分かれ道
俺には、クラウン(トヨタ)に対する強い憧れがある。それはつまり「公権力」に対する憧れだ。「制服」への憧れと言ってもいい。
サラリーマンはヒラで退社、その後フリーライターとして過ごしてきただけに、公権力や制服(中高生時代のガクランを除く)とはほとんど無縁で生きてきた。
死ぬまでに一度はクラウンに乗って、「覆面!?」と思われてみたい!! フツーに高速を走っているだけで、周囲のクルマがみるみる減速するのを見て楽しみたいっ!
そう思い続けてきたが、クラウンを買う勇気はついに湧かなかった。やっぱり自分の趣味とは360度、いや540度くらい違うから。
ところが! 新型クラウン「クロスオーバー」を見て電気が走った。こ、これは俺の趣味じゃんか! 俺の趣味に合うクラウンが出るなんて信じられん! うおおおおおお、これを買って男の花道を飾りたい!
しかし、コレで高速を走っても、誰も警戒してくれそうにない。将来的にも、クラウンクロスオーバーが覆面パトの入札に参加するとは思えない。それじゃクラウンの意味ないじゃん!
やっぱり俺の憧れのクラウンは覆面パト系! 乗り味の甘美さを含めて考えると、その頂点は6代目、最終クラウンマジェスタ(トヨタ)だ! 中古車なら200万円台! ホントは全然趣味じゃないけど!
趣味を取るか、憧れを取るか!? 男としてどっちを選択すべきか!? うーん、死ぬまで迷い続けよう! どうせ妄想なんだから!
●支払いシミュレーション…新型クラウンクロスオーバーを買うなら、グレードは「RS」か「RSアドバンスド」以外ない! なぜなら、パワートレーンが2.4Lターボの6ATハイブリッドだから! 超パワフル&スポーティで、トヨタ製ハイブリッドカーの新境地と噂されているぜ!
◆RS…605万円
◆RSアドバンスド…640万円
その差35万円。このクラスのクルマとしては無視してもいいが、装備の差を見ると、どうしても欲しいと思うものはなかった。よってRSで決定だ。総額約660万円! 頭金100万円入れて5年の残価設定ローンで、月々約6万円!
一方の中古マジェスタは、総額300万円程度。意外と金額の差は小さい……気もしてきた。
■シビックタイプR VS シビックe:HEV
●値上がり確実なタイプRか、ラクチン快速のハイブリッドか!?
知り合いのフェラーリオーナーが、シビックタイプR(ホンダ)の抽選に当たったという。目ざとくしっかり申し込んでいたなんて、カーマニアとしてアッパレだ。羨望。
タイプRはディーラーによって抽選だったり先着順だったりしたようだが、俺は完全に出遅れた。もはや抽選だろうが先着順だろうが関係ない。とりあえずタイプRを手に入れられる見込みはない。
いや、これは妄想なので、現実的なことは無視していいのだが、本当にタイプRが欲しいのか!? と自問自答すれば、答えはNOだ。確かにカーマニア垂涎のFF世界最速級スポーティカー。買えれば値上がりも確実だろう。
でも、シビックタイプRを買っても、普段乗りに使うのはもったいないし、フェラーリがもう1台増えるようなもので、おっさんは疲れてしまいそうだ。
実は俺が本当に欲しいのは、シビックのハイブリッド(e:HEV・ホンダ)のほうだ! なぜって、パワートレーンも足回りもデザインも何もかもがメチャメチャ気に入ってるから!
特にパワートレーンの気持ちよさには驚嘆した。スポーツモードでアクセルを床まで踏み込むと、まるでF1マシンみたいにステップ変速しつつ加速する!
実は疑似変速なのだが、気持ちよければそれでいい! フツーに走ってもアクセルレスポンス抜群だし、乗り心地も猛烈にいい! これぞおっさんの終着駅!
よし、いつか必ずシビックハイブリッドを買うぞ! なんせ決めるだけならタダだから!
●支払いシミュレーション…シビックタイプRの価格は執筆時点で未発表だが、ちょうど500万円くらいと噂されている。これは意外と安い!対するシビックハイブリッドのお値段は、394万円のワングレード。これでナビまでついていて、オプションを追加する必要はほとんどない。実際に購入シミュレーションをやってみたところ、オプションはフロアマットのみ。エコカーなので諸費用は11万円ちょい、合計約412万円。頭金諸費用のみの60回払いの残価設定ローンで、月々5万3800円! 充分魅力的だが、あと100万円ちょい出せばタイプRが買えると思うと、つい心が揺れてしまう。いや、俺の人生にタイプRは必要ない! だってやっぱり疲れそうだから! ハイブリッドが正解だ!
■レクサスLX600エグゼクティブ VS ロードスター990S
●最強か、それとも最軽量か? おっさんは常に極限を目指せ!
先日、レクサスLX600の最上級グレード「エグゼクティブ」に乗って衝撃を受けた。走りに、ではない、後席の快適性に驚愕したのだ。
ランクルベースでこの乗り心地のよさは何だ! しかも後席の完全セパレート&フルリクライニング&マッサージ機能付きシートは快適すぎる! おっさんカーマニアの老後の夢は、LXエグゼクティブの後席かもしれない……。
しかし価格は1800万円。フェラーリ(中古)より高いし、新車は受注停止で買えない。中古車は3000万円する! ガーン。
そこで発想を180度変えてみた。最重量級のLXの真逆、1トン切りの超名車であるロードスター990S(マツダ)はどうだろう?
後席はないが、運転の楽しさは折り紙付きだ。世界中に文句を付ける者など誰もいない。問題は納車待ちだけである。
マツダディーラーに問い合わせたところ、「3カ月でご納車できます」だと! 今どきこんな名車が、たったの3カ月で手に入るなんて信じられん! もうその事実だけで、ありがたすぎて涙が出る。ロードスター990S様、ありがとうございます! あなたはカーマニアの救世主です!
●支払いシミュレーション…レクサスLX600エグゼクティブの車両本体価格は1800万円だ。しかし受注停止で買えないのは前述のとおり。中古車サイトを見ると、「エグゼクティブ」は2台だけ存在したが(執筆時点)、どちらも約3000万円。これはもう、何をどうやっても買えないクルマである。一方のロードスター990Sは、3カ月ほどで新車が納車可能。価格は289万3000円のワングレード(6MTのみ)。実に男らしい。メーカーオプションはサイドエアバッグのみ! ナビも付かない。諸費用が22万2070円、合計311万5070円! 頭金ゼロの61回の残価設定ローンで、月々4万1760円! この程度の負担で世界の名車が手に入るなんて夢のようです! マツダさん本当にありがとう!
■後編に続く!
カーマニアの最大の楽しみはクルマを妄想で買うことかもしれない! しかも妄想を現実的に考えて、支払いシミュレーションまでやってみると、ほとんど買ったような気分になれる! それだけで満足できるのだ! 妄想しないのはソンソン! 妄想するだけならタダだから、無限に妄想を膨らませよう! さあ次に買うのは何だ!? もちろん妄想で!
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