日野自動車によるエンジン認証試験の不正問題を受け、日野はCJPT(コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジー)から今年8月に除名されている。CJPTはそもそも物流などの社会問題を解決するためにトヨタと日野、そしていすゞで立ち上げた団体だったが、今後の日野の企業経営はいったいどうなってしまうのか? 国沢光宏氏が警鐘を鳴らす!
文/国沢光宏、写真/日野自動車、フルロード編集部、AdobeStock(トビラ写真:Andrii@AdobeStock)
【画像ギャラリー】エンジン認証不正問題を起こした日野自動車は果たして企業解体される!?(8枚)画像ギャラリー
■型式指定を取り消されると日本でナンバーは発行できず
日野自動車の不正問題、発覚当時は立腹した人も多かっただろうけれど、おそらく今や皆さん、「どうでもいい」になりつつあると思う。そもそもトラックって普通の人だと興味の対象じゃないですから。とはいえ日野自動車のイメージはよくないと思う。企業としてなくなってしまっても「まぁそうでしょうね」。実際、今回の不正事件で日野自動車は存続の危機を迎えている。
象徴的なのが「型式指定の取消し」だ。型式指定とは、「この番号が付いたクルマなら安心です」という国のお墨付きのようなもの。本来ならクルマは1台ずつ衝突試験の結果や排気ガスの内容などをチェックし、そいつを書類にして提出し、問題がなかったら公道を走れるナンバープレートが交付される。個人で海外から買ってきたクルマと同じ。1台当たり数十万円かかってしまう。
型式指定さえあれば買った人が登録するために必要となる書類を揃えるだけでいい。型式指定を取り消されてしまうと、日本でナンバープレートが発給されないことを意味する。
商用車の場合、輸出台数は少ないため、国内で登録できなければ工場を止めるしかない。その間、日野自動車としては収入なし。従業員の給与と工場などインフラに投資した金利など金額も出ていく。
■日野に求められるのは「社会にどれだけのダメージを与えるか」という意識
日野自動車くらい規模の大きい企業が無収入だと非常に厳しい。加えて巨額のリコール費用だって必要になってくる。制御ソフトの書き替えくらいですめばいいけれど、今回不正した耐久性に関する問題だと触媒などを含めた対策が必要。
しかも20年前から行っていた不正ということで、現時点では、その規模すらわかっていないようだ。そもそも不正を行った時点でクリアできなかった技術です。
100歩譲って日野自動車は何とか耐えられても、部品会社からすれば致命傷になる可能性大。日野自動車向けの部品を作っていたのなら、そいつが無収入になってしまう。日野自動車からすれば、協力企業がなくなると製品だって作れない。だからといって協力企業を助けようとしたら莫大な資金が必要。自動車産業の裾野は広い。破綻すると、日野自動車だけにかぎらないのだった。
ここで気になるのは「日野自動車の不正はどのくらい社会にダメージを与えるのか?」という点。不正によって起きる現象は排気ガスの汚染。その場合の被害者って我々国民だ。
日野自動車は国交省や顧客に対しては何度も謝罪しているが、被害を受ける国民に対して情報すら出していない。私らがトラックに興味がないように、日野自動車からすれば国民に迷惑かけるという概念がないんだと思う。
■実は新車で販売していたエンジンはすべて問題なしだった!!
ということで、日野自動車に具体的な大気汚染レベルを聞いてみた。すると、少しばかり肩すかしの内容。大雑把に説明すると、不正の対象になったエンジンは「45万km以上走った時の排気ガス浄化性能が少しずつ落ちていく可能性あります」ということらしい。つまり、新車で売っていたエンジンはすべて問題なし。耐久面で性能保証ができていなかったということ。
不正は悪質ながら、VWのように新車時から汚染された排気ガスを出すと言った実害の大きさじゃないようだ。加えて今回発表したリコールは「走行距離に応じて排気ガスの状況をチェックし、問題あれば触媒などを交換する」という内容。不正が発覚していなければ実害が出ただろうけれど、現時点ではすべて規制値に抑えられることになった。「悪いことをしたが結果的に実害なし」です。
ここにきて国交省も実害の有無や、下請け企業の存続などを考慮したのだろう。少し手綱を緩め始めており、小型トラックのデュトロを10月3日から、中型トラックのレンジャーは11月1日からの生産再開を容認するようだ。多からず残りのエンジンの生産も許可されることだろう。「日野自動車、破綻か」という決定的な状況からは脱出できたようにも見える。
ただ、このままだと国民の日野自動車に対するイメージの悪さは定着してしまう。また、20年前から行っている不正の状況も見えておらず、今後さらなる問題が発覚するかもしれない。
この際、日野自動車は国民に向けてしっかり状況説明し、謝罪すべきだと思う。それが日野自動車の将来のためになる。同時に「目に見える善行」も行っていくといい。すべては日野自動車の企業姿勢次第です。
【画像ギャラリー】エンジン認証不正問題を起こした日野自動車は果たして企業解体される!?(8枚)画像ギャラリー
投稿 日野自動車による悪質なエンジン認証不正問題、果たしてこのまま企業解体に陥ってしまうのか!? は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。