開幕までおよそ2ヵ月に迫った「FIFAワールドカップカタール2022」。
日本代表は前回大会ベスト16敗退の悔しさを胸に、史上初のベスト8以上に挑む。
そんな森保ジャパンを支える若き才能・田中碧(デュッセルドルフ所属・24歳)と板倉滉(ボルシアMG所属・25歳)がスポーツ番組『GET SPORTS』に登場。
川崎フロンターレでプロ入り前から2人を知る中村憲剛とナビゲーター・中西哲生が聞き役となり、若きキーマンを徹底分析した。
本記事では放送内容の一部を編集し、彼らの熱いサッカー談義を紹介する
◆最終予選で見えた日本の大きな“変化”
中西:「元々3人は川崎フロンターレのチームメートなんですよね?」
中村:「ユースから2人で上がってきて。存在自体は小学生の時ぐらいから知ってるので、大きくなって帰ってきたなっていう」
中西:「完全にお父さんじゃないですか(笑)」
中村:「本当にお父さんみたいな心境ですよ。デビューの時から見ていますから」
中西:「田中選手も板倉選手ももう代表では欠かせない存在になっているんじゃないですか?」
中村:「本当に一気に頭角を現したというか…。最初は2人とも(試合には)出ていなかったのに、途中からグングン出てきて(代表に)欠かせない選手になりましたね」
ワールドカップアジア最終予選では、田中碧が1得点を決める活躍。板倉も3試合にスタメン出場し、無失点に貢献するなど守備で代表に定着した。
そのなかで中村が注目したのは、アジア最終予選のオーストラリア戦での戦いだ。
開幕3戦で1勝2敗と崖っぷちだった日本は、迎えた4戦目で宿敵オーストラリアと対戦。負ければ本戦出場が絶望的とまで言われたなか、グループ最大のライバルに競り勝ち望みをつなげた。
最終予選の潮目が変わったこの試合、日本にはある大きな変化があった。
それは、フォーメーションを4-2-3-1から4-3-3へと変更したこと。実は試合前に放送された『GET SPORTS』で中村が提言していた形だった。
中村:「守田選手と田中碧選手を入れて、(遠藤航選手を加えた)3人で3センターにして3トップの形にして…」
中西:「川崎フロンターレは実際にこの形でやっていますね」
川崎フロンターレが使用する4-3-3へとフォーメーションを変更し、攻撃的な中盤、インサイドハーフのポジションに川崎出身の田中碧と守田英正を抜擢することを提案していたのだ。
その予測通り初スタメンを飾った2人は勝利に貢献。中村はこの試合で田中と守田を起用したことにより、日本に新たな武器が生まれていたと語る。
◆キーワードは“相手を見る”こと
中西:「4-3-3が機能しましたが、あらためてどこがよかったと思いますか?」
中村:「一人ひとり強度もありますし、守備で相手を圧倒できる。攻撃も前に3枚残せるので、カウンター・ショートカウンターも含めていい攻撃もできる。守田と碧がインサイドだったら相手を見てプレーできるので、相手陣地でプレーができる。相手を見てプレーができる『アドリブ力』というのを2人が補えるかなというふうに見ていました。
日本代表も4-3-3で、インサイドハーフの2人がいろんな形を立ち位置を変えながらプレーをしだしていたので、オーストラリアがどうやって来るかを見ながらプレーしてたのかなという風に思ってましたね。結構それが序盤効いていたと思います」
中西:「今『アドリブ力』という言葉について中村憲剛さんが話してくれました。相手あってのサッカーなので、まず相手がどういう立ち位置で来て、どういうシステムなのかということは、フロンターレの時にちゃんとチームとして共有できていたんですね」
中村:「そうだと思いますね。試合の中で修正ができるように、自分の中で引き出しをたくさん持ってトレーニングからやっていたし、試合でもやっていたし、それを周りにも共有できるように話しかけたりしていました」
中村のいう「アドリブ力」とはどんなものなのか? 以前、番組ではこんな風に説明していた。
中村:「遠い選手も自分がどう関与するか一人ひとりが考えながらポジションを取れると、ボールが回る。サイドバックが高い位置を取った時に、相手がどう付いたらいいかわからないような所に立ってみたり、それを見てうまくポジションを取ってみたり。相手が2トップだったら人数を増やしてもいいと思いますし、相手の前からのプレスの人数を見て後ろをうまく形を変えられる」
キーワードは“相手を見る”こと。「アドリブ力」とは相手の動きや反応をみて、柔軟に戦い方を変える力のことだという。
◆田中のプレーに「やってんな」
オーストラリア戦でその「アドリブ力」が発揮されていたシーンを中村に選んでもらった。
それが前半4分の場面、注目は田中碧の立ち位置だ。最終ラインから田中碧が前線にロングパスを送った動きに「アドリブ力」が集約されていたという。
中村:「田中碧選手が最終ラインにいますけど、インサイドハーフは普通ここにはいないわけですよ」
中西:「普通いないですね。しかも前半4分ですからね」
中村:「オーストラリアの選手からすると、『何だこの選手は』『何だこの立ち位置は』ということになるわけです。碧が落ちないと、吉田選手と冨安選手が思いっきりプレスをくらってしまう。プラスワンを作ることで逃げ道にもなったし、自分たちの時間も増えた。
要は田中選手が守備の基準点をずらすというか、オーストラリアの選手を『誰が行けばいいんだ』という状態にしてるんです。これはすごく『やってんな』って思いましたね(笑)」
実は直前のプレーで、日本はオーストラリアのフォワードにゴール前までプレッシャーをかけられ、前線に苦し紛れのロングパスを送っていた。
そこで本来はインサイドハーフで前線にポジションを取る田中が、最終ラインへとポジションを移した。
すると日本の最終ラインには数的優位が生まれ、オーストラリアの守備に対してもボールを奪われにくい状況に。
田中が立ち位置を変えることで、日本は落ち着いてボールをキープすることに成功する。
田中:「一回落ち着けたいというのと、自分もたぶん初めてボールをちゃんと触った時だったので、しっかりとボールを握りたいという気持ちでした。たぶん本当は高い位置にいけるんですけど、もう一回横パスをもらって時間を作って我慢するというのをこの時はずっと考えてましたね」
中西:「誰がここにボールを寄せに来るかということも確認しているんですか? 相手のどのポジションの選手が自分のところに来るとか」
田中:「そうです。2センターフォワードがどこまで自分に来るのかもそうですし、ちゃんと守備するのか、あとはサイドハーフが自分に来るのか、それとも下がり切ってサイドバックの選手を見るのか見ていました。そしたら全然自分の所に来なかったので、そこで時間を作りながら、たぶん最後にちょっと(相手が)来るから(クロスを)出そうというタイミングで出した形になります」
ボールを保持できるようになった田中が次に考えたのは、相手を見ること。前に上がれる状況でも相手の出方を伺うため、あえて最終ラインでパスを回す。
ここでフォワードは自分に来るのか、さらにサイドハーフは自分とサイドバックのどちらを気にするのか、相手の出方を確認する。このシーンでオーストラリアの選手に目立った動きはない。
再びセンターバックとパスを交換すると、相手のサイドハーフが自分に食いつく。それを見た田中は後方へロングパスを送り、クロスへとつながるチャンスを作り出してみせた。
まさに、相手の動きを見てプレーの選択を変える“アドリブ力”が発揮された場面だった。
中村:「フロンターレで4-3-3やってたじゃないですか。4-4-2の相手の攻略法はもうたぶん彼の引き出しの中にあるわけです。おそらく試合がはじまってオーストラリアが4-4-2でやってきた時に、『じゃあちょっとここに立ってみよう』と。そしたらオーストラリアがどう来るか、誰が来るかというところを見て、自分の時間も作る。
日本で彼が時間を作れば日本の時間が長くなる。そうすると周りの選手も動き出しやすくなるし、ポジションも取れるようになる。しかも立ち上がりガチャガチャしていたことを感じて自分たちの時間にしたいと思ってやっているので、『やってるな』って」
中西:「お父さん感無量みたいな(笑)」
中村:「これで今日は自分たちの時間が長くなる。それができる選手が守田もいたので、この2人がやれば、そんなにビルドアップで引っかかることはないだろうというのはこの時間にちょっと感じました」