友人にクルマを貸したらそのクルマで人身事故を起こした……。それだけでも憂鬱なのに、なんと損害賠償請求が自分のところに!? どうにもこうにも理不尽な話としか思えない。しかし、法律で定められている以上、どんなにゴネても責任をとらなくてもいいよとはならないのだ。
このように、クルマに関わる法律のなかには自分としては被害者側として意気消沈しているのに、法律的には加害者側になってしまったりすることもあるのだ。そんなことにならないために、知っておきたいクルマの法律をご紹介しよう。
文/藤原鉄二、写真/写真AC
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盗まれたクルマが人身事故を起こしたら自分に賠償責任が!?
クルマの盗難というと他人事に思う人が多いかもしれないが、警察庁の発表によると自動車盗の認知件数は、2003年のピーク時の6万4223件と比較して2021年は減少傾向にはあるものの、それでも年間5182台もの車両が盗まれている。つまり、車両盗難は決して対岸の火事とは言えないのだ。
そして、ニュースでよく耳にするのが盗難車による事故。当然、盗んだ本人が事故の責任は負うものと考えるだろうが、場合によっては被害者である車両の所有者に賠償責任が生じることがあるのだ。
賠償責任が生じるケースはクルマの管理責任が不十分であった場合だ。具体的には、エンジンやキーをつけっぱなしにする、ドアロックをしていないなど、盗まれても仕方がないような状態、つまり管理不行き届きの状態でクルマを保管していた場合。
他に管理不行き届きを問われる恐れがあるケースは、盗難被害にあった後にすぐに盗難届を出さずに放置していた場合。そのため、盗難被害に気づいたら、間髪置かずに通報して被害届を提出することは必須だ。
最悪なのは、事故を起こした犯人に賠償金の支払い能力がない時。その場合は、加害者側はクルマの所有者に賠償金の全額を請求することができるのだ……。クルマの所有者は基本的には自賠責保険と任意自動車保険の「対人賠償保険」の補償は受けられるが、それでも自分が起こしたわけではない事故の責任を負うのはなんとも理不尽だ。
いっぽう、クルマの管理は適切に行っていたはずなのにピッキングやリレーアタックなどの被害にあってしまったら、クルマの所有者にはその事故に関する損害賠償責任は生じない可能性は高い。
ちなみに、事故が物損事故だった場合は基本的にはクルマの所有者に賠償請責任は生じない。
とにかくちょっとの時間だから大丈夫だろうと軽く思ってクルマの管理を怠ると、なんとも理不尽な賠償責任を負うことになってしまうので注意してほしい。
貸したクルマで人身事故が発生したらあなたも加害者側に……
友人などにクルマを貸して、その友人があなたのクルマで人身事故を起こしてしまった場合、賠償責任は事故の当事者である友人だけではなく、あなたも負わなくてはならない。
人身事故は自賠責で賄える範囲の金額ではないことが多く、足りない部分は任意保険で支払うことになるが、万一、任意保険に入っていない場合はあなたと友人でなんとか不足分を賠償しなくてはならなくなってしまう。そんな事態に陥らないためにも任意保険に加入するのは必須だ。
これに関しては、長距離ドライブで運転を交替し、その友人が事故を起こしてしまった場合も同じことになるが、あなたが助手席などで事故の状況を見ていた場合は仕方がないとあきらめるしかないが……。
しかし、自分の目の届かないところで事故を起こされた場合は、事故の状況がわからないだけにモヤモヤは収まらないはず。そういったことからも、自分の目の届かないところで自分のクルマを他人に運転させるようなことは絶対に避けてほしい。
同乗者が開けたドアで交通事故が発生すれば運転手も責任を問われる
駐車時に友人が周囲の状況を確認せずにドアを開け、脇を通り抜ける自転車やバイクなどと一触即発といった事態に遭遇したことはないだろうか?
こうした事故の場合、基本的にはドアを開けたクルマの側の過失割合が大きくなってしまう。もちろん、自転車やバイクにも前方注意義務があるため、多少の過失相殺は適用されるものの、ドアを開けた側が90%は過失があると認定されるのが一般的で、状況によっては100%の過失割合となってしまうこともある。
問題は、死傷事故となった場合、あなたには過失運転傷害罪が科されて賠償責任も負わなければならないといことだ。納得いかないと思うかもしれないが、道路交通法71条4の3では「運転者は同乗者のドアの開閉についても安全に配慮しなければならない」と規定されていて、同乗者がドアを開ける時でも運転者は安全確認を行う義務があると定められているのだ。
「同乗者だから他人事」は許されないことも
基本的には交通事故が発生した場合は運転手がその責任を負うことになるが、事故の原因が同乗者だったことが立証された場合は同乗者の責任が問われることがある。以下が具体的な例だ。
●運転者が飲酒していたり、無免許であるのを知りつつ運転を止めなかった
●運転の邪魔をした
●運転者をあおって危険な運転をさせた
●本人が嫌がっているにもかかわらず運転を強要した
特に厳しいのは飲酒運転に関わる法律だ。運転者が飲酒をしているのを知りつつ同乗している時に運転者が飲酒や酒気帯びで検挙されたら、2年以下の懲役または30万円以下の罰金と、同乗者にも厳罰が科される。
さらに、飲酒や酒気帯び運転で事故を起こしたらドライバーとともに損害賠償責任を負うことになる。運転者は任意保険などを使えるが、同乗者がたとえクルマを所有していて任意保険に入っていてもこのケースの場合は補償の対象外のため、賠償金はすべて自腹でということになってしまうことも……。事故の当事者が任意保険に加入していなかったといった場合は、私財を処分して賠償金を支払わなくてはならないなんてことにもなりかねない。
運転者が飲酒していることを知らなかったと認められれば罪には問われないが、それを証明するのは難しい……。車内が酒臭いなどと感じたら、遠慮することなく運転を止めるようにしよう。
自動車事故はすべて運転手の責任、同乗者である自分は関係ないなんて思うのは大間違いなのだ。
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