コロナの影響で3年ぶりの開催となったデトロイトモーターショー。新型マスタングや日本で話題のクラウンも展示された。デトロイトショー2022で見えた「自動車界のこれから」を自動車評論家 鈴木直也が現地レポートしていく。
●デトロイトショー2022 イベント概要
・イベント名:North American International Auto Show
・開催期間:2022年9月14日~25日(メディアデイ:9月14日)
・開催場所:アメリカ・ミシガン州デトロイト/ハンチントンプレイス及びハートプラザ
・チケット料金…大人:20ドル(日本円:約2900円)/シニア:12ドル(日本円:約1750円)/子ども:10ドル(日本円:約1450円)
※本稿は2022年10月のものです
文/鈴木直也、写真/鈴木直也、NAIAS
初出:『ベストカー』2022年11月10日号
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■現地での「本音」と「建て前」
デトロイトショーといえば例年正月の風物詩だったけれど、コロナによる延期と中止の結果3年ぶり、9月に時期を移しての開催となった。
折しも、アメリカでは8月16日に「インフレ抑制法」が成立し、10年間で52兆円という巨費がエネルギー安全保障・気候変動対策に投じられることになった。
このうち、EV・FCVのためのグリーン自動車税控除として、10年で2兆1700億円の予算が計上されている。
この政府の施策は当然デトロイトショーに影響を与えているはずで、今回のデトロイトショーはこの補助金をブン捕るための派手なEV祭りになるんじゃないか?
そんなことを予想しつつアメリカに向かったのだった。
■新型車に加え要人も数多くやってきたデトロイトショー
プレスデイ初日は、いきなりのサプライズから始まった。
会場に到着するや、ものすごい警備とセキュリティチェックにびっくり。聞けば、なんとバイデン大統領がやってくるという!
バイデン視察の模様は世界中に報道され、たとえばNHKでは「私たちは電気自動車の未来を築いているところだ。
私の経済政策が、アメリカで歴史的な製造業のブームに火をつけた」など、EVの普及を促進する政策の効果を訴えたとリポートされた。
なので、デトロイト3、とりわけGMの新型EVアピールはかなり力が入っていた。
■トヨタと同じく「数で勝負」に出たGM
GMはトヨタと似たところがあって、EVも「数を売ってこそ環境対策になる」というスタンス。
まずはボルトで普及価格帯EVを開拓。今回のモーターショーでは、その次の段階として「売れ線車種」をEV化。エキノックス、ブレーザー、シルバラードの3車種にEV仕様を投入している。
このなかで、シルバラードはコロナ禍でも年間50万台以上売れてるアメリカ名物のベストセラートラックで、その1〜2割でもEV化に成功したらすぐ10万台スケール。
また、エキノックスはコロナ前までは年間30万台以上売れていたベストセラーSUVで、ここにはエントリー3万ドル台のEV仕様を用意するのだという。
半導体不足や電池の調達など難しい問題はあるが、それが克服できればGMのEV戦略は侮れない。
あれほど売れているイメージのあるテスラモデル3だって、アメリカ市場に限っていえばピークの2020年で20万台ちょい。そうなれば充分射程距離に入るわけだ。
実は、大騒ぎしているわりにはアメリカのEV普及率が低く、全米販売台数の比率では約6%程度。
ロサンゼルスへ行くとテスラがわんさか走っているんで勘違いしがちだが、内陸部ではEVを見かける比率は日本と大して変わらない。
各メーカーとも、バイデン大統領が用意してくれた補助金を足がかりにEVビジネスのテイクオフを狙っているのだが、補助金は「掛ける台数」だから数の勝負。
GMの戦略はこのあたりが強かだと感じたね。
■フォードもEVで態勢を作るも売るものがなし……
一方のフォードは、マスタング・マッハEとF-150ライトニングがEV戦略の持ち玉だ。
マッハEはエントリー価格5万ドル以下と思ったより安いせいか、西海岸はもちろん内陸部でもちょこちょこ見かけるし、F-150はコロナ禍の去年でも年間72万台を売るバケモノ。
これも1〜2割ほどEVバージョンが売れたら凄いボリュームになる。
ただ、フォードのEV戦略はGMより先行していたものの、半導体不足が直撃してバックオーダーの列が延びている状況。
これはフォードに限ったことではないが、各メーカーとも補助金は欲しいけれど売るタマがなしというジレンマに悩まされている。
補助金を取ってゆくには、今すぐ顧客にデリバリーできるEVが必須なわけで、絵に描いた餅じゃダメなんよという空気を感じたね。
■そして注目のガソリン車。内燃機関は死せず!
というわけで「EV祭り」は前評判どおり盛り上がっていたわけだが、忘れちゃいけないのは自動車メーカーにとって明日のメシ代を稼いでくれるのは、従来のエンジン車という現実だ。
デトロイト3にとってそれはビッグなトラックとマッスルカーなわけで、フォードはプレスデイ初日の夜に第7世代マスタングのフルモデルチェンジを発表。
クライスラーも300Cのマイナーチェンジで対抗するなど、ばりばり内燃機関オンリーのクルマもEVに負けず元気なところを見せている。
面白いのは、オフロード系SUVを使ったユーザー体験コーナーが充実していることで、ジープやブロンコが遊園地なみのスケールで急登坂やモーグルのコースを走り回って観客をきゃーきゃー言わせている。
プレスよりも来場する一般ユーザー向けに、いろいろ趣向を凝らした仕掛けを考えているあたりに、デトロイト3の本音が見えるような気がしたね。
■加速するEV化の流れと現場の温度差から見えること
アメリカでも電動化は着実に進行しているけれど、同時にデッカイV8を積んだトラックも健在だし、マッスルカーも相変わらずの人気。
このへんの商売を捨ててEV一本に絞るのは、サスティナブルなビジネスとして無理がある。
なんでもそうだけれど、世の中は「一気に変わる」ものじゃなく、行きつ戻りつしつつ、気がついたらずいぶん変わってましたというのが実態なんじゃないですかねぇ?
* * *
実際にイベント会場へ赴き、その場の雰囲気を感じ取ってきた鈴木直也氏によるデトロイトショーリポート、いかがだっただろうか? 現地の様子や展示車の内容を見るに、アメリカも環境政策や補助金でEV推進を掲げつつも100%そうではない。
やはりガソリン車もなくてはならない存在で、マスタングやトラックといったマッスルカーもまだ終わっていないことがわかる。こういったことを知るうえでも、やはりイベントは現地に行くに限る!
【番外コラム】ショー会場にバイデン大統領の姿も。アメリカの現状とそこから見える狙いとは
バイデン大統領にとっては、中間選挙も近い(執筆当時)ことだし環境重視の政策をアピールするには格好の舞台。
インフレ抑制法案と巨額の補助金を手土産に、意気揚々とデトロイトに乗り込んできたカタチだ。
現場では、GMのメアリー・バーラ女史のエスコートで会場を視察。自身もかつてはカーガイだったことをアピールするなど、終始ご機嫌だったようでございます。
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