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 近年、大雪により道路上に閉じ込められる大規模な車両滞留(立往生)が毎年のように発生している。雪による立往生はドライバーの心身を疲弊させるだけでなく、物流が麻痺することで生活や産業にも影響を与える。

 短期間・集中的な大雪が増え、またコロナ禍を経て人々が道路輸送への依存を高めるなか、そのリスクはかつてなく高まっている。

 災害対策基本法の改正により道路管理者が立往生車両を移動させることが可能になったのが2014年だった。2018年の大雪後に国交省が委員会を設置し、冬季の道路交通を確保するための基本的な考え方を従来の方針から大きく転換した。

 しかしその後も立往生が相次いだため、2021年に委員会の中間とりまとめが改定され、再度、方針転換した。行政は現在、タイムラインの作成とそれに基づく予防的通行規制・集中除雪、ドライバーへの周知、運送会社への指導、荷主企業への協力要請などの取組を強化している。

 雪による立往生車両は、その7割が大型車とされる。また、タイヤは冬用タイヤを履くものの、チェーンを装着していない車両がその内の8割以上を占めるという。雪が降ってもトラックを止められない事情があるなら、雪への備えは必須だ。

 同時に、一般消費者や荷主企業を含めて、大雪時の物流をどうするのかというコンセンサスを形成することも重要だ。本格的な雪のシーズンを前に、雪と物流について考えたい。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/フルロード編集部、国土交通省、ダイムラー・トラック


雪に弱い大型車

 国土交通省が大雪でスタックしたトラックを早急に移動させるための「緊急脱出用具」の募集を行なっている(2022年10月28日まで)。調達可能なものについては、今冬にも試行的に導入する。

 大雪による大規模な車両滞留(いわゆる「立往生」)は、この数年の間に多発しており、中には解消までに数日間を要するケースもある。特に、雪に弱いとされるワンデフ車やセミトレーラ連結車、駆動軸(後輪)にトラクションが掛かりにくい空荷の大型トラックが立往生の原因として指摘されている。

大雪によるトラックの立往生を何としても減らしたい! 物流ストップを招くスタックからの緊急脱出用具を国交省が募集中!
雪によるスタックが発生しやすい大型車。国交省のパンフレットより

 実際に2020年の国道での立往生車両のうち、74%が大型車だった。その大部分(82%)は冬用タイヤを装着するもののチェーン未装着の車両だ。また半数近くはそもそもチェーン自体を用意していない「不携帯」だった。

 行政としてもトラックドライバーに対し、冬用タイヤやチェーンの装着を徹底することを呼び掛け、チラシやパンフレットでの周知を行なっている。いっぽうで、除雪作業の支障となるスタック車両(中・大型車)を移動させる手段として「緊急脱出用具」の募集を開始したという次第である。

 募集しているのは「タイヤに装着する用具で、ジャッキアップ不要で容易かつ短時間に装着が可能であり、脱出効果が期待されるもの」としており、既存の用具だけでなく開発中のもの(2年程度以内に実用化が見込まれるもの)であっても応募可能。

 必要であれば北陸地方整備局管内で評価・検証を行ない、応募者と協議を行なった上で選定された用具の一覧表を公開することも予定する。国交省は、雪による滞留解消のための用具の選定であり、企業や大学等の製品・技術の認定を目的としたものではないとしている。

冬季道路の考え方を転換させた平成30年の大雪

 東京都心で20cmを超える積雪を観測した2018年(平成30年)の大雪を覚えているだろうか? 1月には首都高・山手トンネル付近で海コントレーラが走行不能に陥り10時間の立往生が発生、2月には福井県の国道8号線でトラックを中心に約1500台が立往生し、通行再開までに3日以上を要した。

 こうした大雪による交通障害への対策を検討するため、国交省は同年2月に学識経験者等からなる「冬期道路交通確保対策検討委員会」を設置した。委員会の提言(大雪時の道路交通確保対策中間とりまとめ)は、冬期道路に対する考え方の転換を求めるものだった。

 従来、道路管理者は「通行止めを回避する」という考え方のもと、自らが管理する道路をできるだけ通行止めにしないことを目標に対応を行なってきた。この取り組みは通常の降雪時には重要だが、集中的な大雪の場合は、ひとたび立往生が発生すると短期間のうちに大規模な車両滞留に発展してしまう。

 また、高速道路/国道など道路管理者間の連携も充分ではなく、高速を通行止めにすると車両が国道に流れ、そこで立往生が発生してしまうという課題もあった。

 平成30年の提言では、こうした考え方を「道路ネットワーク機能への影響の最小化」という考え方に転換し、それぞれの道路管理者が連携して除雪に努めつつ、関係機関に協力を求めながら、道路ネットワーク全体として大規模な車両滞留の抑制と通行止め時間の最小化を図るべきとした。

 ちなみにこのときの提言では、低コストで効果の高い新技術に対しては、国が適切に公募・評価を行なうとともに、それに対応した契約方法や仕様、基準の検討など、民間の技術やノウハウに関しても積極的に活用することが必要となるとしていた。

 この度の「緊急脱出用具」の公募も、2018年の大雪が一つのきっかけになっていると言えそうだ。

令和3年の改定

 しかしその後も大規模な車両滞留が続き、令和2年(2020年)12月の関越道では合計2000台が立往生し、車両の移動と通行止めの解消に2日かかった。翌1月にも北陸道で1600台の立往生が発生し、福井県が災害対策基本法に基づく自衛隊の派遣要請を行なった。

 これらを踏まえて対策委員会は先の中間とりまとめを2021年に改定し、基本的な考え方を「道路ネットワーク機能への影響の最小化」から「人命を最優先に、幹線道路上で大規模な車両滞留を徹底的に回避すること」へ再び転換した。

 背景には道路ネットワーク機能を確保するために通行止めを躊躇した結果、かえって大規模な車両滞留が発生してしまったという反省がある。

 具体的な強化点としては、タイムライン(段階的な行動計画)を作成し躊躇なく通行止めを実施すること、予防的な通行規制により集中除雪を行なうこと、チェーン装着の徹底、気象庁と連携した緊急発表と社会全体での行動変容の呼びかけ、立往生が発生した場合の迅速な対応などがある。

 しかし運送会社にとっては、運航中止や延着に繋がる広域迂回の判断には、荷主企業の理解が不可欠だ。中には大雪でも予定通り荷物を運ぶよう荷主から強い要望を受けるケースもある。そのため国交省と荷主を所管する関係省庁は緊急発表等があった場合に、柔軟な対応をとるように荷主団体に要請している。

 一般消費者としても、大雪時に無理な運行を指示すれば、かえって大規模な混乱を招くことは理解すべきだろう。

 なお、大型車がノーマルタイヤにより雪道で立往生した場合、事業者に指導(監査)を行ない、悪質と判断されれば行政処分の対象となる。併せて整備担当者・運行管理者に対して冬用タイヤの溝の深さが、メーカーの推奨する使用限度よりすり減っていないことの確認が義務付けられている。

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大型車では冬用タイヤの残溝確認が義務化されている。国交省のパンフレットより

 中間とりまとめは、業務として車両を運行する以上、チェーン等の装備は運送会社が責任を持って用意するほか、ドライバーに対しては車内にスコップや飲食料、毛布、砂、軍手、長靴、懐中電灯、スクレーパー等の準備を行なうべきとしている。

大雪という「危機」の認識を

 日本全国の3割以上の地点で過去10年間に積雪の深さが観測史上最高を更新している。局所的な大雪も発生しており、雪の降り方自体が変化しているのは間違いない。

 また、ネット通販の急速な拡大による輸送の小口多頻度化や、工場における在庫確保のスタイルの変化など、物流の現状も変化している。こうした変化に柔軟に対応できるトラック輸送は、今や国内の貨物輸送全体の9割を占め、企業も消費者も道路交通への依存を高めている。

 さらに、コロナ禍により人々の生活や行動様式は大きく変化したが、トラックドライバーはエッセンシャルワーカーと呼ばれ、緊急事態宣言下でも物流は止まらなかった。コロナ禍を経てトラックによる貨物の取り扱い量はむしろ増えた。

 そのため大雪による車両滞留の影響がこれまで以上に大きくなっている。安定的な物流を確保するためにトラックは止められないという実情を鑑みれば、トラックドライバーだけでなく、荷主企業や一般消費者も、大雪を「危機」として認識することが重要となる。

 台風の接近時に鉄道が計画運休することに対しても最初は批判が多かったが、今では社会に浸透している。人々の生活を支えるトラック輸送を止めないために、大雪時の物流のあり方について、社会全体で広くコンセンサスを形成して行く必要がある。

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