2022年9月26日、ハリアーの一部改良が発表され、同時にプラグインハイブリッド(以下PHEV)を設定した。PHEVの販売は10月31日から開始された。
この改良が要因か、数カ月前に一部では旧モデル(改良前)を注文していたユーザーに対し、注文取消しを行い、改良後モデルで契約を結び直すという事態に発展した。一時混乱したハリアー周辺だが、なぜこのタイミングでPHEVが導入されるのか。
謎を解き明かすとともに、販売現場の声、さらにはハリアーPHEVの今後の展望を考えていきたい。
文/佐々木亘、写真/ベストカーWeb編集部、TOYOTA
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なぜハリアーPHEVが導入されたのか? 2030年以降への準備
ガソリンエンジン搭載車は、2030年以降に訪れる大変革をいかにして乗り切るか、既にその対応に迫られているのだろう。
読者の皆様もご承知のとおり、純ガソリンエンジン車は、今後販売が制限されていくはずだ。欧州は最も早く、厳しい対応を打ち出し、欧州自動車メーカーは大きくピュアEVへ舵を切っている。欧州市場で勝負するなら、今後はBEV(電気自動車)をいかにうまく作っていくかがカギになるのは確定的な事実だ。
では日本市場はどうかというと、ガソリン車に対する対応は、まだまだ曖昧な部分が多い。「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の中では、2035年前後を目途にガソリン車の新車販売を終えることを掲げ、電動車が100%になる状態を目指すとした。
ただ、「前後」、「目指す」という霧がかかったような表現が目立つのが現状。さらに電動車に対する区分けも、欧州のようにBEVだけとしているのか、それともPHEVも可、さらにはHEV(ハイブリッド)も電動車に含まれるのかなど、不確かな部分が多い。そのためハリアーPHEVが、日本市場の電動化対策として登場してきたとは考えにくいのだ。
日本でも人気のハリアーだが、元々は北米市場で爆発的に人気となったモデル。レクサスRXとして北米導入された初代ハリアーは、レクサスが北米市場で確固たる地位を築くのに、大きく貢献した一台でもある。
ここから見えてくるのは、ハリアー(北米名ヴェンザ)のアメリカ市場対策だ。
2021年8月5日、バイデン大統領は2030年までに新車販売の50%を電動車にする目標を定めた大統領令に署名している。この大統領令には、ゼロエミッション車(走行中に二酸化炭素を排出しない車)を定義しており、BEVやFCVはもちろん、PHEVも設定されているのだ。
ハリアーがPHEVを、なぜ今導入したのか。そこには、ハリアーと北米市場の濃密な間柄が大きく関係していると筆者は考える。
販売店ではどう受け止める? RAV4とのすみ分けはいかに
RAV4にPHEVが設定された際には、大フィーバーとなり、PHEVが受注停止となったのは記憶に新しい。今回、大人気車種ハリアーにPHEVが設定されたが、販売現場の様子はどうだろう。
筆者が取材を行ったのは、プレスリリース後ではあるが、正式発売前の段階。それを加味しても、ハリアーPHEVに対するユーザーの反応は、少し冷めたように感じた。
「改良モデルの登場と新グレード(PHEV)の設定はありがたいが、問題はクルマがいつ来るのかということに終始しています。年単位の待ち時間はほぼ確定だと思うので、RAV4の時のように、いけいけどんどんで販売することも難しいでしょう。熱の入り方は、販売店ごと、あるいは営業マンごとに結構差があります」(トヨタ販売店営業マン談)
販売店で話を聞くかぎり、RAV4 PHEVとのバッティングはほとんどないようだ。通常モデルのハリアーも充分魅力的であり、PHEVに偏重した売り方もされていない。ハリアーPHEVでは、すみ分けや売り分けで、販売店が苦悩することはなさそうだ。
ハリアーPHEVから見えた日本市場の危機感と気になるライバルは?
ライバルは、PHEV搭載モデルの筆頭格として三菱アウトランダーPHEVが想像できる。ただ、価格やキャラクターはどちらかというとRAV4寄りのアウトランダー。ハリアーPHEVとガチンコという感じはない。
価格帯だけで考えると、マツダCX-60が適役だが、全幅・全高が若干広く、高くなるため、ボディサイズが一回り大きく感じる。セダンライクな乗り味の好きなハリアーユーザーが、CX-60のデザインや乗り味をどう感じるのか。ここにも疑念が残るため、直接的に争う相手ではないだろう。
やはりハリアーのライバルとなるのは、同門のレクサスNXになるだろう。先代でもプレミアムSUV市場で大きな覇権争いをした両車。価格はNX450h+の方が高いが、この構図も先代のハリアー対NXと同じ状態である。ハリアーかNXか、どちらを選択するかで迷うユーザーが多いのではないだろうか。
いっぽうで、筆者には今PHEVを選ぶ必要があるのかという疑問も湧いてくる。
ハリアーPHEVのパワートレインは、RAV4 PHEVのものと同じものだ。RAV4 PHEVの車両本体価格は563万3000円に対して、ハリアーPHEVは620万円である。500万円台なら考える余地があると思うが、600万円の大台に乗ると、PHEVにこだわらなければ高級SUVの選択肢は輸入車にも大きく広がっていくからだ。
装備や質感の差があり、通常モデルでもハリアーとRAV4の間には、約60万円の価格差はあるが、果たして620万円出してPHEVにこだわる必要があるだろうか。
電動車に対する日本市場の先行きも、確度の高い決定が下されていない状況で、積極的にハリアーPHEVを選ぶ理由が、まだ筆者には見当たらない。圧倒的なパワーは魅力の一つだが、現時点でハリアーを選ぶなら、Zレザーパッケージにオプションを盛っていくほうが、この先5年間の保有満足度は高くなるような気がする。
日本の施策がしっかりと決まらなければ、各メーカーは、さらに海外へ目を向けた商品開発を進めていくだろう。ハリアーPHEVの登場から、不確定な日本の方策への警鐘を筆者は感じ取った。ハリアーPHEVに対する、国内、そして海外の反応を注視しながら、今後の展開を見守りたい。
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