三菱のコンパクトSUV「ASX」の次期モデルが、2022年9月に世界初公開された。このASXとは、現行型RVRの輸出名であるため、今後のRVRの展開が注目されている。まずはRVRとは、どんなクルマだったのか、歴代モデルの特徴を振り返りたい。
文/大音安弘、写真/三菱自動車
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■RVR誕生の背景にはクライスラーの存在があった
RVブームとバブル真っ只中に開発された初代RVRは、当時の三菱の勢いを象徴するモデルのひとつであった。車名の由来は、「Recreation Vehicle Runner」の頭文字を取ったもの。正式な表記では、頭の「R」が逆文字とするなど、クルマの持つ遊び心も表現していた。
あえてトールワゴンをショート化した理由には、セダンのような快適性や走りを備えつつ、RVの利便性や走破性も持ち合わせるオールラウンドなスペシャルティカーを目指したことにある。まさにRVを得意としていた三菱らしいモデルであった。
特筆すべきは、RVRの誕生の背景にクライスラーの意向があったこと。1970年より三菱は合弁事業を開始し、クライスラー向けの車両を提供していた。当時のクライスラーは、ミニバンの弟分となる存在を求めていたという。
クライスラーとしては、新しいMPV(マルチパーパスビークル)を求めていたが、三菱は日本で絶好調のRVに仕立てることで、ユーザーの気持ちを掴もうと試みたのである。
この三菱のこだわりが、クライスラーとの共同開発だったプロジェクトを三菱主体のものとし、クライスラー側は販売に集中し、「ダッジ コルト ワゴン」、「イーグル サミット ワゴン」、「プリマス コルト ピスタ ワゴン」として販売されている。
■今までにない超個性派RV
RVRの基本構造は、5ドアトールワゴンの2代目シャリオと共有し、そのショートボディ版といえる存在であるが、発売は新規車種となるRVRのほうが先である。しかしながら、2台のパッケージは異なる点も多く、RVRは極めて個性的な存在であった。
シャリオよりも200mmショートのホイールベースのキャビンには、300mmのロングスライド付きリアシートを採用。スライド時に影響を与えるタイヤハウス上部をカバーで覆うことで、まるでリアシートを大型のソファのように仕立て、足を延ばし、くつろげる空間に仕立てた。
その機構上、後席は2座に割り切られている。もちろん、RVなのでラゲッジスペースもしっかりと確保。バリエーションのなかには固定式の後席仕様もあり、こちらは3人掛けとなっていた。
シャリオよりもアグレッシブかつスポーティに仕上げられたエクステリアにも特徴があり、4WD車にはクロカンを彷彿させるグリルガードを標準化。リアドアは助手席側のみに当時乗用車世界初となるインナーレール式スライドアを採用。
これはワゴン=商用車のイメージが強かった日本での乗用車感を演出するための工夫であった。ちなみに、5ドアとなるシャリオのリアドアはヒンジタイプであった。
■人気の高まりで各種バリエーションを展開
デビュー当初は、自然吸気の2L直列4気筒DOHCエンジンを搭載していたが、人気が高まるにつれ、スポーツ性能やスペシャルティ機能を強化。
1992年には、フロントグリルガードやオーバーフェンダー、背面スペアタイヤキャリアを装備した「スポーツギア」が登場。これは看板車であったパジェロ譲りのアクティブな走りと高い機能性を表現するものでもあった。
翌1993年には、3ドアに改めたボディに前席の上部ルーフをそのままスライド格納できる電動オープンルーフを与えたユニークなタルガトップの「オープンギア」が登場。
1994年のマイナーチェンジでは、三菱スポーツモデルの象徴であった4G63型2L直列4気筒ターボを搭載した「スーパーオープンエア」や「スーパースポーツギア」などの高性能モデルを追加。その特徴として、ボンネットに特徴となるインタークーラー用のエアインテークが追加されている。
■初代の人気を受けて2代目に生まれ変わるが……
初代の成功もあり、1997年に登場した2代目RVRはキープコンセプト。基本的には、3代目となるシャリオグランディスのショートボディ版であるが、象徴的なアイテムだったフロントガードバーは非採用となり、代わりにガードバー風のアクセントがフロントマスクに取り入れられるようになった。
これは歩行者との交通事故の際のリスク軽減の観点から自動車メーカー各社が自主規制を行ったことにある。第二世代のポイントは、シャリオグランディスが大型化され、より上級指向となったこと。その結果、より2車種の住み分けが明確化された。
さらにホイールベースも拡大され、より広々としたキャビンを得ることが出来たうえ、インパネシフトの採用で前後席間の移動も可能となるなど、利便性も高まっていた。
しかし、高級感を増したシャリオグランディスの好調が、RVRに影響を及ぼすことになる。1999年には、最上級グレードとなる「スーパーエクシード」を追加するなど、ラグジュアリー志向を意識するように。
さらに一部グレードには、両側スライドドアを採用するなど、機能面とバリエーションが広がった一方、RVRのアクティブなスペシャルティワゴンという独自性は薄まっていく。
その結果、RVブームの終焉と運命をともにするように、2002年に製造を終了。ヒットした初代と比べ、シャリオグランディスの陰に隠れてしまい、ヒット作となったRVRは2世代で終焉を迎えた。
■空白期間を経て復活した3代目
時は流れ、2009年12月、三菱はRVRの名が復活することを発表。2007年のフランクフルトモーターショーで世界初披露したコンセプトカー「Concept-cX」をベースに生まれた新型コンパクトSUVに、「RVR」の名を与えることが明かされたのだ。
これが2010年2月に発売された3代目となる現行型RVRである。基本構造は、ギャランフォルティスなどと共有で、日本仕様は自然吸気の1.8L直列4気筒DOHCエンジンを基本とし、トランスミッションもCVTのみに。手頃なサイズのシティクロスオーバーとして投入された。
前期モデルではギャランフォルティスなどと共通のジェットファイターグリル顔であったが、2017年2月のフェイスリフトではダイナミックシールドマスクに進化。しかし、これは初期のダイナミックシールドマスクであり、2019年8月に最新仕様のダイナミックシールドマスクへと進化している。
ただ、強力な競合車が存在することもあり、機能や装備、スペックに話題性のない新生RVRは、日本では苦戦を強いられることになった。
■新型ASXは「4代目RVR」なのか!?
さて、最新モデルに話を戻そう。欧州では、欧州向けの新型ASXが9月21日にワールドプレミアされた。その新型ASXは、ルノー・日産・三菱のアライアンスで生まれた全面刷新モデルであり、ルノーキャプチャーや日産ノートなどと同じ新世代プラットフォーム「CMF-B」を採用。
パワートレーンは、1L直列3気筒ターボや1.3L直列4気筒ターボに加え、1.6Lエンジンのハイブリッド車とプラグインハイブリッド車が用意される。いずれもガソリン仕様となる。
このうち、ハイブリッド車には、マルチモードドッグギアボックスを備えることが明言されているため、ルノーの「E-TECH HYBRID」と同じシステムだと思っていい。
生産は、スペインにあるルノー工場で行われ、2023年春から販売が開始される予定だ。いよいよRVRも新型へと期待が膨らむが、この新型車のプロジェクトは、直接RVRと結びつかないようなのだ。
というのも2021年3月、三菱は欧州戦略においてルノーからOEM供給を受けることで2023年をメドに一部欧州市場での新車販売から撤退することを発表している。つまり、ASXは三菱製からルノー製OEM車に置き換えられたというわけだ。
ワールドプレミアされたASXは、ルノーのコンパクトSUV「キャプチャー」をベースにバッジエンジニアリングとなった。つまり、三菱キャプチャーが誕生したのだ。ただし、フロントマスクは三菱車共通のスリーダイヤモンドが装着されている。
それでは日本仕様のRVR、ほかの市場向けのASXは今後はどうなるのだろうか。三菱自動車工業に問い合わせたところ、日本仕様のRVRについては、現時点では現行型の販売について変更はないとのこと。
しかし、すでに登場より10年以上の歳月が流れていた今、依然としてSUVカテゴリーは高い人気を誇るだけに、三菱復活の一手として日本で扱いやすいサイズでもあるRVRの新型を期待したいのも本音だ。
断言できるのは、常にRVRは時代に合わせた進化を遂げてきた車種であること。欧州仕様の登場をきっかけに、世界戦略車である現行RVRにも、新たな流れが起きることを期待したい。
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