長距離運行する大型トラックをどうすれば電動化できるか? その最も有望な技術が「燃料電池」である。ドイツで開催中の「IAA Transportation 2022」で、航続距離1000km以上をめざしてダイムラートラックが開発中の大型燃料電池トラック「メルセデス・ベンツ・GenH2」に乗った。
世界最先端のFCEVトラックに盛り込まれた技術とは?
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
燃料電池のクルマとは
「GenH2」は、メルセデス・ベンツの大型トラック「アクトロス」を燃料電池電気自動車(FCEV)とした開発車両で、2027年に量産モデルの納入を開始する計画だ。
燃料電池(FC)とは、「水素(H2)」を分解して電気を発生させる装置である。FCEVは、FCで生みだした電気を直接、またはいったんバッテリーに蓄えてから、モーターで走行する電気自動車(EV)である。
つまり、走りのメカニズムはバッテリーEV(BEV)に近いが、FCで電力をつくりながら走ることができるので、水素を燃料として搭載すれば、BEVよりも長く走り続けられるわけだ。
航続距離はeアクトロスの2倍以上
そのため、FCEVである「GenH2」では、25トンの貨物を積んだセミトレーラ(車両総重量40トン)を牽引した上で、1000km以上という長大な航続距離を目指している。
これは、BEVトラックの「eアクトロス300」の300km、「eアクトロス400」の400km、今回のIAAで公開された長距離大型BEVトラック「eアクトロス・ロングホール」の500kmに対し、2倍以上の航続距離となる。
GenH2の動力性能は、モーターが連続出力230kW×2(625ps)・最高出力330kW×2(897ps)/連続トルク1577Nm×2(3154Nm)・最大トルク2071Nm×2(4142Nm)と、「eアクトロス・ロングホール」よりもさらに強力である。
その強力なモーターへは、FCシステムと高電圧バッテリーが電力を供給する。FCシステムはピーク出力150kW×2基、FCシステムの電力を蓄える高電圧バッテリーはピーク出力400kWを発生する。
高電圧バッテリーはピーク出力値こそFCシステムを上回るが、容量は70kWhに留めている。これは、FCシステムのメイン発電に対して、出力コントロールのしやすい高電圧バッテリーで出力の増減を補うコンセプトを採用しているためで、同時に小容量として重量増を抑えているのである。
あの技術が水素燃費の改善に貢献していた!
「GenH2」はプロトタイプ車ゆえに、運転不可の同乗試乗だが、一般の車道・高速道(アウトバーン)を走るという興味深いものだった。
キャブ室内はもちろん静かで、ブ~ンという音が常に聞こえる程度。FCEVはFCスタックの温度制御が重要なので、冷却ファンの音と思われる。もちろんエアコンもしっかり効いていて、エアサスの乗り心地も快適である。
メーターパネルをのぞいてみると、全面カラーLCDによるグラフィック表示となっており、速度計とパワーメーターが表示されている。パワーメーター内には、2速自動トランスミッションの選択段も示されており、車速40km/h程度を境にLoまたはHiに切り換わっているのだが、シフトショックは全く感じさせない。
さらにFCの発電量と温度、高電圧バッテリーの現在出力と充電率(SOC)、H2タンクの内圧とH2残量などをリアルタイム表示するノートPCも設置されていたので観察すると、バッテリーSOCが50%前後の範囲を維持するように制御されていることがわかる。
運転している開発エンジニア氏によると、バッテリーSOCを一定に保つことでバッテリーの性能劣化を抑え、寿命を伸ばすことができるという。
また、現在位置と3D地図データから、パワートレインの先読み制御を行なう「プレディクティブ・パワートレイン・コントロール(PPC)」も盛り込まれている。これは、例えば進路先に下り坂がある場合、回生による充電が行なえることを見越して、FCの発電量を抑えて、H2消費も改善できるというものだ。
このPPCは、ディーゼルエンジンの「アクトロス」や同グループに属する三菱ふそうの「スーパーグレート」にも導入されている最新技術で、進路先読みでエンジンやトランスミッションを制御するが、全く同じコンセプトが全く異なるFCEVパワートレインにも応用されており、その技術の連続性は印象深いものだった。
このほか、現行アクトロスに装着されているADAS(先進ドライバー支援システム)、衝突被害軽減ブレーキ・ABA5(AEBS)、車線維持システム(LK)、アクティブ・サイドガード・アシスト(巻込警報装置)、ミラーカムなどもそのまま継承されている。となれば、自動運転についても順応できるはずだ。
航続距離1000kmに向けての新技術
GenH2は、2023年から液体水素を用いる技術の試験を実施する計画だ。水素は気体だが、液化することで体積が1/800にできるため、航続距離の拡大に不可欠で、リンデ社との協業で取り組んでいる。
水素はマイナス253℃で液化することから、車載のために真空断熱ステンレスタンク×2本を導入する。シャシーフレームのホイールベース間の左右に断熱タンクを設置するが、充填する水素を重量換算すると1本あたり40kg(2本で80kg)となる。
さらに2039年までに、欧州、米国、日本において、Tank to Wheel(燃料タンクから車輪まで)のカーボンニュートラルを達成させたい考えだ。
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