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 JR東海が路線開業に向けて建設工事を進める中央新幹線。東京の品川駅と愛知県の名古屋駅約285㎞を最速40分で結ぶ超高速鉄道だ。さらに計画では大阪まで延伸し、品川~大阪間を最速67分で結ぶという。営業最高速度は500㎞/h!!

 この高速走行を実現するのが、超電導磁石を使った、浮上式鉄道だ。一般的には「リニアモーターカー」と呼ばれる、最新テクノロジー満載のこの鉄道。果たしてどんなものなのか? 開業に向けてテスト走行を繰り返す、「山梨リニア実験線」での試乗体験をお伝えしよう!!

山梨県都留市にある山梨リニア実験線の拠点に姿を現したL0系車両。写真の東京方先頭車両は「改良型」と呼ばれる最新型で、28mの全長のうち、流線型のノーズ部分が15mを占める。L0系初期型に対し先頭部の空気抵抗を13%低減した

文・写真/梅木智晴(ベストカー編集委員)

【画像ギャラリー】品川~名古屋40分‼ リニア中央新幹線の500km/hは超快適空間だった(12枚)画像ギャラリー

『のぞみ』よりも鋭い加速でグイグイ加速し静かな室内

「では発車します」。案内放送とともにスルスルスルと加速する。やや振動を感じるが、これはゴムタイヤが接地しているため。グググググと、押されるような加速Gを感じる。体感的には東海道新幹線『のぞみ』のN700系よりも強い加速感。山手線などの通勤電車のよりも強力な加速に感じる。リニア新幹線のL0系の起動加速度は公表されていないが、N700Sの起動加速度は2.6㎞/h/sec.で、山手線のE235系は3.0km/h/sec.だ。現況はあくまでも42.8㎞の山梨リニア実験線を走行するためのスペックで、営業運転時の加速度などはまだ決まっていないのだという。

 ゴーという走行音がスッと消えて振動もほぼ皆無となった。150㎞/h前後でタイヤが格納され浮上走行に切り替わったのだ。ここまでの加速は40秒程度。あっという間であった。

 リニアというと「浮いて走る」イメージ。実際、このL0系は案内軌道上を約10㎝浮いて走っているのだが、停車時に接地しているタイヤで走り出して速度が上昇することで浮上するのではなく、タイヤが格納されることでむしろ沈み込んで10㎝のクリアランスでの浮上走行に切り替わるのだ。この浮上力は車両側の超電導磁石が高速で通過した際に、側壁側の浮上案内コイルに電流が流れる原理により生じるため、外部からの電源供給の必要なく浮上力を発する。つまり、停電になっても一定以上の速度があれば浮上力が突然失われることはないという安全設計。停電時は惰力で浮上走行し続け、一定の速度以下になった時点でタイヤが接地して安全に停車できるのだ。このゴムタイヤは万が一の緊急事態に500km/hのトップスピードから接地させても大丈夫な設計だという。詳細は明かされなかったが、航空機用タイヤの技術などが応用されているのであろう。

ガイドウェイの「推進コイル」に電流を流すことで電磁石のN極とS極を電気的に切り替え、側面に超電導磁石を搭載した車両を吸引・反発させることで加速、減速をするのが「超電導リニア」の原理だ(図/JR東海パンフレットより)
ガイドウェイの側壁両側に浮上、案内コイルが設置されている。車両の超電導磁石が高速で通過すると、側壁側の「浮上・案内コイル」に電流が流れ電磁石となり、車両を押し上げる力と、引き上げる力が発生する。この浮上・案内コイルには外部からの電源は必要ないので、停電で浮上力を失う心配はないのだ(図/JR東海パンフレットより)
車体がガイドウェイ内で左右に振れた場合、磁石の反発力、吸引力が働くことで常にガイドウェイの中心に保たれるのだ(図/JR東海パンフレットより)

500㎞/hで疾走する超電導リニアに運転席はない!!

 超電導リニアの車両はL0系と呼ばれる。5両編成の東京方2両は2020年に登場した「改良型」と呼ばれる仕様で、営業運転時の仕様に向けて進化したものだ。先頭車両の全長は28mで流線型のノーズ部は15mの長さ。初期型に対し先頭部の空気抵抗を13%低減する新形状としたことで消費電力を低減するとともに走行時の風切り音を低減した。

 客室部は中央の通路を挟み、2人掛け座席が左右に並ぶ配列。新幹線普通車の2列+3列の座席配置とは異なり在来線特急のような配列だ。先頭車は6列で定員24名、中間車は最大15列で60名の定員となる。座ると前後間隔は広く快適。リクライニングは最新のN700S系のグリーン車のように背もたれに連動して座面も沈み込むタイプでゆったり座れる。

超電導リニア「L0系改良型」の中間車室内。中央
の通路を挟んで2人掛けシートが並ぶ。中間車両は最大定員60名に対応するという。室内は東海道新幹線N700Sよりもコンパクトな印象だが、シート自体は前後の余裕もあり、また座席自体の横幅も広く快適だ

 広さ感としてはN700系列の普通車以上だが、グリーン車ほどではない、といった印象。それでも座面幅は477㎜あり、N700Sのグリーン車の座席幅480㎜に近い広さ。ただ、背もたれの重厚感や座面のクッション厚などはグリーン車には及ばない。

アームレスト部に収納されるテーブルはカーボン樹脂製。シートの骨格なども軽量化を意識した構造となっている。座面横幅は477㎜あり、N700Sグリーン車の』480㎜に迫る広さだ

 先頭部には運転席らしき窓が見えるが、実はこれ、前方を映すカメラと前照灯が格納された「窓」で、ここに運転士は乗車することはない。車両に運転士は乗務しないが、超電導リニアは指令室からの遠隔制御で走行する。前方視認はカメラにより指令室でモニタリングされるのだ。走行は自動運行システムによって管理され、高い安全性が担保されるのだ。

急勾配もものとせず、2分30秒で500km/hに達する!!

 加速は力強く、グイグイ速度を上げていく。

 山梨リニア実験線は総延長42.8㎞で、試乗会の基地となる山梨リニア実験センターは名古屋方、山梨県笛吹市の実験線起点から27.6㎞の地点にある。まずは東京方面に向かって最高速250㎞/hで走行。35.4㎞地点に到着して折り返す。

 走り出すとグイグイ速度を上げ、あっという間に150㎞/hを超えタイヤが格納される。この区間は下り坂ということもあるのだろう。スマホのストップウオッチで確認すると、わずか80秒程度で東海道新幹線の最高速度285km/hに達し、1分56秒で400km/hを超えた。まったく加速感に衰えは感じることなくモニターに表示されるデジタル速度計の数字は上がっていく。振動はほとんど感じない。音も小さくシャーと聞こえる程度だ。速度計の表示が500km/hを示した! トップスピードに達するまでの時間は2分30秒だった。

 笛吹市の実験線起点に到着すると、今度は東京方に向かって折り返す。ここからがまた見どころなのだ!!

 実はこの区間、40パーミルの急こう配なのだ。これ、1000m走って40m高度を上げる勾配のことなのだが、一般的な鉄道では25パーミルと言えばかなりの急こう配。東海道、山陽新幹線の最大勾配は20パーミルに抑えられている。博多から鹿児島中央を目指す九州新幹線には、博多駅を出ると最大勾配35パーミルの筑紫トンネルがあるのだが、そのため博多以南には8両編成全車電動車の専用編成しか入ることができないのだ。これよりもきつい勾配を、超電導リニアはグイグイ加速しながら駆け上っていく。鉄のレールと車輪の摩擦力に依存しない、超電導リニアならではの利点のひとつだ。

急勾配をもものとしない力強い加速で、発進から2分半程度でトップスピードの500km/hに到達。振動は少なく、走行音も静かなため、500km/hという超高速での走行を意識させられることはない

 さらに勾配区間には8000R(半径8km)の曲線も存在する。設計上、8000Rカーブは500㎞/hのトップスピードのまま巡航できるということで、急な勾配を大きなカーブを描きながら超電導リニアは速度を高め、発進から3分かからず500㎞/hに達した!!

 感覚的には東海道新幹線の285km/hのほうが速く感じる。レール上を車輪で走っているわけではないので、床下からはほぼ無音。パンタグラフもないので風切り音も大幅に抑えられている。車内にいると振動はほぼ感じない。文字通り空を飛ぶように、滑るように走っている。一瞬トンネルを抜けて外の風景が見えたのだが、500km/hの感覚はない。というか、わからない。窓のすぐ横に壁があるのだが、壁の流れる速度では300㎞/hでも500km/hでもその差がわからないくらい速いのだ。

わずか2分、あっという間の500㎞/h体験

 グググググと減速Gを感じた。わずか2分で500km/h巡航は終わり、終点に向けて減速が始まった。JR東海によると、一度トップスピードの500km/h巡航に達したら、特段の事情がない限りは減速を要する区間はないという。実験線の区間が短いため、あっという間に減速を開始しないとならないのが残念だ。

 減速も意外とGを感じる。走行区間が短いための措置なのか? 営業運転時とは異なる加減速なのかもしれない。300km/hを下回ると、まるで止まっているかのような錯覚に陥る。やはり500km/hは「速かった」のだ。これでも東海道新幹線の最高速度よりも速く、山陽新幹線の最高速度と同じなのだ。

 さらに減速は続く。200km/hを下回り、150km/h前後になった時、“ダダダン”と旅客機がソフトに着陸したような振動を感じた。格納されていたタイヤが接地したのだ。“コー”と甲高い音が聞こえるが、これはタイヤの発する音だろう。

工事は進むも、開業までには課題もある

 2022年9月末時点で、品川~名古屋約285㎞の工区の約9割が契約済みで、東海道新幹線ホーム直下で工事が進む品川駅地下ホーム(土被り約40m)や、最大深度90mをシールド工法で掘り進む品川~神奈川県駅(仮称)の約37㎞を結ぶ「第一首都圏トンネル」など、工事が進んでおり、横浜線橋本駅に接続する神奈川県駅(仮称)の建設も進行中。

神奈川県相模原市のJR東日本横浜線橋本駅に隣接する場所でリニア中央新幹線神奈川県駅(仮称)の建設工事が進む。2022年9月時点(写真/JR東海提供)

 一方で静岡県、山梨県、長野県にまたがる南アルプストンネルで未着工となっている静岡工区での大井川の水資源への影響、南アルプスの自然環境の保全については大きな課題。国交省の有識者会議の中間報告では、トンネル掘削で発生する湧水を大井川に戻すことで中下流域の水量は維持され、地下水への影響は極めて小さいとの指摘もあり、問題解決への大きな足掛かりとなる。しかし最終的には最善策の策定と繰り返しの説明、関係する地域住民などの理解が不可欠だ。

長野工区など、南アルプストンネルの工事は進捗している。2022年9月時点(写真/JR東海提供)

 静岡県内の工事が進捗しなければ、開業に向けた具体的な時期が定まらない。JR東海は2027年の品川~名古屋間開業を目指している。

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