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 ダイハツ ムーヴの派生車、ムーヴキャンバスの新型が発売されたが、ムーヴコンテ、ムーヴラテ、そしてムーヴカスタムなど、ムーヴにはこれまでにさまざまな派生車を生み出されてきた。

 初代登場から27年の時を経てすっかり大家族になったムーヴファミリーの歴史を、今ここで振り返ってみよう。

文/フォッケウルフ
写真/ダイハツ

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■初代モデルに「カスタム」が誕生した背景とは?

現在では自動車界の横綱的存在(?)となったムーヴだが、そのルーツは1995年に遡る

 今でこそ軽自動車クラスの売れ筋といえば、N-BOXやタントといったスーパーハイトワゴンだが、これらの車種が登場する以前に軽自動車クラスを牽引してきたのがダイハツ ムーヴのようなハイトワゴンモデルである。

 初代が登場したのは1995年8月。当時は、まだ軽自動車が自動車界のヒエラルキーにおいて最下層に位置する存在だったが、先にデビューしていたスズキ ワゴンR(初代)ともに軽自動車の優位性を広く知らしめ、軽自動車に対するイメージとか価値を大きく変えた。

 L500系ミラをベースに開発された初代モデルは、「ビッグキャビン&ウルトラコンパクトノーズ」を謳い文句にしたキャブフォワードタイプで、見た目こそライバルであるワゴンRを模倣したように思える。しかし、右1ドア+左2ドアのワゴンRに対し、ムーヴは4ドアでなおかつ横開き式のバックドアを採用した5ドア仕様としていた。

 ハイマウントタイプのテールランプやグリルレスタイプのフロントマスクといったデザインも含め、先行するライバルを追撃するべく徹底的に研究し開発されたことが伺える。エンジンは全車DOHC 直列3&4気筒の660ccで、5速MTとATが選択できた。

 1997年5月には、ムーヴとしては初となる派生モデル「カスタム」が登場する。カスタムは、特別仕様車として設定されていた「エアロダウンカスタム」が人気を博したことを受け、カタログモデルとして追加されたグレードで、大型角2灯ヘッドランプと大型メッキグリルの採用などにより標準車とは明らかに違う個性を主張。さらにフェンダー、ボンネット、バンパーも専用タイプとし、車内もインパネまわりやシートが専用のものが備わっていた。

 こうした基本コンポーネンツを共有しながら、標準仕様とは違うあしらいで別グレードを生み出して販売するという手法を始めたのは、ムーヴが先駆けと言われている。「裏ムーヴ」と呼ばれた派生車の成功があったからこそ、標準&カスタム系をセットで販売するという売り方が定着したと言っても過言ではないだろう。カスタムは2代目以降もカタログモデルとして設定され、ムーヴの販売を支えいくことになる。

 なお、ムーブという車名は、英語で「動かす」「感動させる」という意味を持ち、乗る人に新たな感動を与え、クルマの価値をちょっぴり動かせるクルマでありたいという思いを込めて名付けられた。

軽自動車新規格に対応して安全で快適な走りを目指した2代目

 1998年10月に施行された軽自動車新規格に対応するべくフルモデルチェンジを実施した2代目が登場。「世界に通用する先進の安全性」を謳い、衝突安全ボディ「TAF(Total Advanced Functionボディ)」や、滑りやすい路面での安全運転をサポートする新機構「DVS(Daihatsu Vehicle Stability control system)」などを採用することで、安全で快適な走りを目指した。外観は「エレガントスペイシャスワゴン」というコンセプトのもと一新され、初代で好評だったスタイルをさらに洗練させている。

 4ドア+横開きバックドアはそのままに、ラゲッジ容量を拡大し、全席フルフラットや片側フルフラットなど目的に応じて多彩なアレンジを可能にするといった実用面でのトピックも見逃せない。

 搭載エンジンは64psの4気筒ツインカムターボ、58psの3気筒ツインカム、45psの3気筒シングルカムの3タイプとなる。

■ラテとコンテが誕生した中興期

成熟の機運が高まるスモールカー市場をリードした3代目

 新たなミレニアムが始まり、クルマに対するユーザーのニーズはさらなる多様化を極めているなか、3代目は2002年10月に登場。スタイルは先代と比べてガラッと変わり、台形シルエットをベースにホイールコンシャスな造形と横に広がりを持たせたフロントデザインによって安定感と低重心感が表現された。

 もちろん、標準車&カスタムの2枚看板は健在。標準車は「生活革新!エキサイティングミニバン」を、カスタムは「モバイル世代のラジカルボックス」をそれぞれコンセプトに開発された。

 ボディサイズに制約があるなか、革新的なパッケージングによって、室内長を1920mm、室内幅は従来型比プラス80mmの1300mmを確保。前後乗員間隔は940mmとし、前後左右すべてにゆとりのある室内空間を実現した。すべての世代に快適な使い勝手を提供するべく、実用装備はさらに充実化が図られている。

女性目線の装備・機能・収納が充実したムーヴラテ

 この3代目をベースに「おおらか新スペース」というコンセプトを掲げて開発されたのが「ムーヴラテ」だ。メインターゲットを「ミス&ミセス」に設定し、ムーヴの基本性能をさらに進化させることで、彼女たちの生活に潤いと豊かさを与えることを目指している。

 肩の力を抜いたラインと「まる」をバランスよく組み合わせ、おおらかでほのぼのとしたショートノーズ・ロングキャビンスタイルを特徴とし、車内にはシルバーに塗装された楕円型インパネクラスターや大きくて見やすい丸型一眼メーターなど「まる」を基調としたデザインを多用している。

 見た目だけでなく、シートバックティッシュポケット、オートオープン式のワンプッシュ式前席カップホルダー、プラズマクラスター付オートエアコン、全面UVカットガラス、照明付大型バニティミラーといった女性の考える「あったらいいな」をふんだんに盛り込むなど、ミス&ミセスをハッピーな気持ちにさせることに注力していた。

 ちなみに「ラテ」とは、イタリア語で「ミルク」の意味。コーヒーや料理にミルクを加えると豊かでコクのある味わいになるように、生活に潤いと豊かさを与えるクルマでありたいという思いを込めたという。

 2005年6月には、カジュアルなムーヴラテよりもワンランク上のエレガントさを求めるユーザーをターゲットにした派生の派生として「COOL」「COOL TURBO」が登場。アルミホイールやメッキパーツを採用し、きらめき感のあるスタイルに仕上げられていた。

最新技術を集結してレベルアップを図った4代目

 2006年10月に登場した4代目モデルは、プラットフォームからエンジンまで一新。「わたしのかろやかオールマイティ」をコンセプトにしたムーヴと、「上質・快適移動体(ムーヴィング・アメニティ)」をコンセプトとしたカスタムをラインアップする。

 初代で確立したバンパー上部からフロントピラーに繋がるキャラクターラインをより際立たせ、ムーヴのアイデンティティである大きなキャビンスペースとコンパクトノーズのコントラストを明快に表現。

 ムーヴは流れるような美しいシルエットに、ウェッジ基調のサイドウインドウグラフィック、リヤブリスターフェンダー、ヘッドランプ形状を組み合わせることで、軽快な動きを感じさせるエモーショナルスタイルとしていた。

 一方カスタムは、マッシブで力強く、上質感のあるデザインを追求。4灯タイプのプロジェクター式ヘッドランプや大型フロントグリルによってカスタムならではの精悍な表情を演出するとともに、専用のエアロパーツを装着してワイドで安定感あふれるスタイルとしていた。

 プラットフォームを一新したことで、2490mmの超ロングホイールベースとし、コンパクトなエンジンルームによって実現した超進化革新パッケージも相まって、2110mmという軽自動車最大級の室内長を実現。室内幅もこれまた軽自動車最大級の1350mmとなり、車内は快適な広々ラウンジ空間としていた。

 ロングホイールベース化と、基本設計を一新したサスペンションの効果も相まって優れた操縦安定性を実現。さらに、脇見や居眠り運転による衝突事故に効果的なプリクラッシュセーフティシステムや車線逸脱警報機能を軽自動車として初採用したのをはじめ、レーダークルーズコントロールも搭載するなど、先進的な軽自動車としても注目を集めた。

自分らしくいられる”居心地のよさ”をテーマにしたムーヴコンテは2008年にデビュー

 4代目をベースにした派生車といえば「ムーヴコンテ」である。「スクエア+(プラス)」をデザインコンセプトに、小刻みな造形や加飾を廃した大胆な面構成とすることで、クリーンでモダンなスクエアスタイルを特徴としていた。

 ムーヴで採用した最新のプラットフォーム&パワートレーンを継承していたことから、走り、安全性、環境性能は軽自動車クラストップレベルの実力を有しており、そのうえでスタイルに遊び心をプラスし、車内はさりげないおしゃれ感を演出することで、「ほかとは違う」物を求める人の琴線に触れるクルマに仕上げられていた。

 コンテには「ザ・カスタム」をデザインコンセプトに、都会的な艶やかさと押し出し感の強さを追求したカスタムが設定されていた。もはや、ダイハツの軽自動車は派生車といえども標準車とカスタムをセットにして売るというのがセオリーとして確立していたわけだ。

 コンテとは、「Continuity」の日本的略称で、台本、コンテの意味。自分らしい生活を描くクルマを表現。さらに「Comfortable Interior」の略でもあり、乗る人の心地よさを追求したクルマという意味もある。

■軽自動車のスタンダードとなりキャンバスが生まれた

ガソリン車トップレベルの燃費性能を達成した5代目

 2010年12月には、環境意識の高まりを受け、ガソリン車としての燃費性能を徹底的に追求した5代目が登場する。それまでのムーヴで好評を博してきた、広さや利便性・快適性、基本性能・安全性能などを見直し、これらの能力を高次元にバランスさせた「スペース系軽乗用車の次世代スタンダード」を目指した。

 5代目が登場した当時は、低燃費であることが至上とされていたこともあり、新開発「第2世代KFエンジン」の搭載に加え、アイドリングストップシステム「eco IDLE(エコアイドル)」を採用し、約35kgの軽量化を図るなど車体側の燃費対策も徹底。

 さらに運転状況を分析し、楽しく低燃費運転に導く「エコ運転支援機能」や、より少ない燃料で目的地に到着する道を案内する「省エネルート探索」を備えたメモリーナビゲーションシステムを採用したことで、27.0km/L(10・15モード燃費)という、ガソリン車としてはトップ(当時)となる低燃費を実現した。

 「ビッグキャビン&コンパクトノーズ」を強調した流麗で躍動感のあるモノフォルムシルエットを標準車に採用。これをベースに、大開口のエアロバンパーや厚みのあるフード、丸型4灯式ヘッドランプ、リヤスポイラーなどにより力強い存在感を表現したカスタムもラインアップする。

 ラテやコンテとのような派生車種は存在しないが、この5代目はスバルへOEM供給開始され、2代目ステラとして販売されていた。

登場から7年を経ても色褪せない6代目となる現行型ムーヴ

 現行型として現在も販売されている6代目は、「次世代ベストスモール」を目指して開発された。登場は2014年12月である。「新ボディ骨格構造」を採用したのが大きなトピックだが、市場ではN-BOXやタントといったスーパーハイトワゴンが台頭していたこともあり、軽自動車の本質的な価値である低燃費・低価格を真摯に追求し、基本的な能力の向上を図っていた。

 エンジンは直列3気筒DOHCエンジンと、直列3気筒DOHCターボの2種類を設定。NA車は31.0km/L、ターボエンジン車はクラストップの27.4km/Lを実現するなど、モーターなどの二次動力を使わずにハイブリッドカーに匹敵する能力を有している。

 標準車のムーヴでは、厚みのある造形を採用し、大型のヘッドランプ、グリル、平面ラウンドを強調したバンパー全体で質感の向上を図りながら、サイドはシャープで流れる造形とすることで上質感・安心感を表現。カスタムのほうはスクエアで伸びやかなシルエットや、ダイナミックなウインドウグラフィック、さらにフロント/サイド/リヤに”X”を用いた意匠をあしらうことで、迫力と存在感を主張している。

 さらに6代目のカスタムには、ダイハツ車で初めて「パイパー」グレードを設定している。ダークメッキのグリル&ブランドマークで上質感や高級感を演出するとともに、グリル下部とフォグランプまわりにLEDイルミネーションを施すことで存在感がより一層強調されている。

 2017年8月に実施したマイナーチェンジでは、ステレオカメラを用いて歩行者にも緊急ブレーキ対応する「スマートアシストIII」や、「パノラマモニター」を採用するなど安全な運転をサポートする機能が強化された。内外装も刷新され、持ち味である先進的で上質感が漂う雰囲気がさらに磨かれている。

ムーヴキャンバスはシリーズ初のスライドドア装着車として誕生

 ムーヴの名を冠した派生モデルとしては、3車種目となるのが2016年9月に登場したムーヴキャンバスだ。同シリーズとしてはじめてスライドドアを採用したことが大きなトピックで、おおらかでシンプルな丸みのあるシルエットと、こだわりを感じる内外装デザインは女性ユーザーを意識したことは明白。

 後席シート下や足もと空間を有効活用できる「置きラクボックス」をはじめ、狭い道でのすれ違い時や見通しの悪い交差点て運転をサポートする「パノラマモニター」など、装備や機能には近年の女性の行動特性に着目したものが多数採用されている。

 キャンバスというネーミングは、「CAN=なんでもできる」+「BUS=ミニバスのようなデザイン性」により、暮らしの可能性を広げられるという意味があるようだ。

 2022年7月には、ムーヴの派生車種としては初めてフルモデルチェンジを実施して2代目が登場。初代の特徴である愛らしいデザインはそのままに、すっきりと洗練させた「ストライプス」と、上質で落ち着いた世界観の「セオリー」の2タイプが設定された。

 置きラクボックスは使い勝手が向上し、両側パワースライドドアにはウェルカムオープン機能を搭載。シートバックユーティリティフックや、保温機能付きカップホルダーの「ホッとカップホルダー」、さらに運転席/助手席シートヒーターなども採用され、これまで以上に女性に寄り添ったクルマに仕上げられた。

 全高1700mm以下でスライドドアを備えた軽自動車を求めるニーズはかなり多かったと見られ、後にスズキからワゴンRスマイルというライバル車も登場する。ちなみに初代、2代目ともにプラットフォームとパワートレインはタントをベースにしている。ムーヴ直系ではないが、車名にムーヴを冠していることで販売台数の数字に大きく貢献していることは間違いない。

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 ワゴンRとともにハイルーフタイプの人気を二分してきたクルマだけあって、パフォーマンスは折り紙付き。登場から7年が経過した現行型が、現在も軽自動車クラスの第一線に君臨しているのは、基本性能の高さを有しているからであり、それがいくつもの派生車を生み出してきた理由のひとつに挙げられる。

 クルマにステータス性を求める人にとっては、軽自動車が愛車になる可能性は低いが、ムーヴに触れてみると「コレもあり」と思わせる魅力を秘めたクルマであることが実感できるはずだ。

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