インドのタタ・モーターズは2022年9月5日、トラックのラインナップの刷新を発表、小型トラックからフラッグシップ大型トラックの「プリマ」まで一挙にモデルチェンジを行なった。
同国は深刻な大気汚染などを背景に、排ガス規制を急速に強化しており、排ガス基準値でいえば既に先進国と同等の水準になっている。そのいっぽう、安全装備の導入などは遅れており、気温が50℃に達する気候ながら、トラックにエアコンは付かない、……とされてきた。
しかし、タタ・モーターズの新しいトラックラインナップからは、そうした状況に変化が起きていることも窺える。インドのトラック市場で50%近いシェアを占める最大手メーカーの「インド史上最大のローンチイベント」から、最新トラック事情を覗いてみよう。
文/トラックマガジン「フルロード」、写真/Tata Motors
商用車140モデルに及ぶ変更
インドのタタ・モーターズは乗用車も製造しているが、特にトラックでは同国内でシェア40~50%を占める最大手の商用車メーカーだ。
そのタタ・モーターズは2022年9月5日、小型トラックから大型トラックまで一挙にモデルチェンジを行なった。モデルチェンジの主眼はディーゼルエンジンの改良(排ガス規制への対応)だ。
いっぽうで、大型トラック用としてはインド初のCNG(圧縮天然ガス)エンジンの設定、先進安全装備の拡充なども行なわれた。小型~中間車系の単車・特装系トラックに対しても、急速な発展をしているロジスティクスやインフラセクター向けに、多様なニーズを満たすシリーズを発表した。
完成車のラインナップが多い(=モデル数が多い)ということもあるが、フラッグシップ・トラックの「プリマ」や大型トラックの「シグナ」から小型トラックまで、変更された車種は140モデルを超える。
最新の排ガス規制とトラック
インドはディーゼル車の排ガス規制としてバーラト・ステージ(BS)規制を導入している。これは欧州のユーロ規制をベースとするもので、2020年に導入された最新のBS6規制は、排ガス基準値でいえばユーロVIと同等となる。
ユーロVI規制は同じ基準値に対して、ステップごとに排ガス測定方法が厳しくなっている。BS規制も同様で、2023年からインサービス適合性試験(ISC試験。実車で走行中の排ガスを測定する)が追加される。
ところでこのBS規制だが、2015年に予定されていたBS4の導入が遅れたことや大気汚染問題などがあり、BS5をスキップして、2020年にBS4からBS6へと一足飛びに基準値が強化された。一挙モデルチェンジの背景にはこうした事情も関係しそうだ。
排ガス規制の強化に合わせて新型車を発売するのは自動車メーカーの常套手段だが、経済発展に伴い輸送ニーズが多様化するインドでは、新型トラックを通じて新しいパラダイムを作るという意味もあるそうだ。
タタ・モーターズのエグゼクティブ・ディレクターを務めるギリシュ・ワグ氏は次のように話している。
「私たちのトラックはインド全土を繋ぎ、我が国の経済のためのエンジンとなります。業界のリーダーとして私たちが作っているのは、新しいパラダイムなのです。
未来志向の商品とサービス・ソリューションを通じて、機能性、生産性、コネクティビティ、安全性、そしてパフォーマンスを継続的に提供して行きます」。
経済の発展とともに多様化する輸送ニーズ
インドでは、貨物輸送と建設系特装車などの輸送ニーズは、複数のセグメントや架装を横断する形で高まり続けている。こうした中で、新世代のトラックは総保有コスト(TCO)の低減を通じてフリートの生産性向上をめざした。
インドのトラック市場のセグメント(区分)はかなり複雑だが、タタ・モーターズでは車両総重量(GVW)7トンくらいまでを小型(SCV)、7~16トンくらいを中間型(I&LCV)、17トン以上を中・大型(M&HCV)と称しているようだ。
また、トラックは完成車でも入手可能で、たとえば平ボディ、ダンプ、タンクローリ、粉粒体運搬車、トラクタトレーラなどはメーカーが完成車でも提供している。
ガス価格が安かったため、小型トラックのCNGエンジン搭載モデルはインドでは普及している(ただ、昨今のエネルギー価格高騰で軽油・CNGの価格差は小さくなった)。この度のモデルチェンジで大型トラックまでCNGエンジンの設定が広がった。
「豊富な代替燃料パワートレーンを用意することは、環境性能に優れたモビリティを提供することです。これらのトラックは、業種によって大幅に異なる輸送サイクルと、特殊な用途にも対応するために強化されています。
私たちは、インド市場で比類なき商用車ポートフォリオをさらに拡充することができて嬉しく思っています。また、先進のコネクティビティ機能により、実運用においてもクラス最高の経済性と優れた快適性を約束します。
お客様に、トラックドライバーに、荷主企業と我が国に進歩をもたらすことで、私たちは輸送の再定義を行ないます。これによりインドのサプライチェーンはさらに効率化するでしょう」。
(同氏)
新型トラックの特徴は……
インドのトラックの特徴というと、車格(GVW)に対してエンジン排気量・出力が小さいことや、カウル(フロントパネルのみの裸シャシー)から独自のキャブを架装する文化など、独特のものがある。
その反面、車両価格が重視され、安全装備は未装着で、暑い国だがトラックにエアコンは付かないなど、仕様面では未熟とも言える状況があった。
最大手タタ・モーターズの刷新されたトラックラインナップから、インドのトラックの何が変わったのか(そして変わらなかったのか?)を見て見よう。
インド初のCNG中・大型トラック
小型トラックとバスにおけるCNG車の成功に続き、タタ・モーターズはインドで初めてGVW19トン/28トンクラスの中・大型車にCNGトラックを追加した。
大型車の「シグナ」シリーズはエクステリアは従来車を踏襲するが、CNGエンジンの設定など内容は大きく変わった。このクラスに搭載するのは排気量5.7LのSGI-CNGエンジンで、180hpと650Nmを発揮する。
インド初の国産ADAS搭載トラック
2010年にタタ・モーターズが導入した「プリマ」は韓国の子会社・タタ大宇が開発を行なっている。トラックラインナップの最上位に位置し、インド市場においてもプレミアムトラックとして展開する。
同車は快適性、スタイリング、安全性、エルゴノミクスと運転のしやすさなど、インド国産トラックのベンチマークともなっている。
新型プリマではインドの国産トラックとして初めてADAS(先進運転支援システム)を搭載した。なかでも衝突被害軽減システム(CMS)、車線逸脱警報(LDWS)などは、特にインドの道路・交通条件に合わせて広範な検証を行なったという。
そのほかの安全機能としては、ドライバーモニタリングシステム(DMS)、エレクトロニックスタビリティコントロール(ESC:急なハンドル操作や急ブレーキに対して車両の姿勢を電子制御してスピン・横滑りを防ぐ)、タイヤ空気圧モニタリングシステム(TPMS)などを搭載する。
新型プリマでは、キャビンを人間工学に基づき再設計した。これは車両の安全性に加えて、ドライバーにとっては運転時の快適性と利便性につながっている。
これらの改良は運送業の関係者と協力して行なったもので、とりわけ長距離輸送の生産性向上を目的に、運送事業者、ドライバー、荷主企業からの意見を集め、詳細な検討を行なったのち、国産トラックの新たなベンチマークとなるような新型車の設計を行なったという。
用途が広い小型~中間型トラック
タタ・モーターズがインド市場に合わせた中間型のトラックという構想を持ったのは1980年代後半だそうだ。実際にGVWでいうと6トンから17トンクラスの車両は、市場での存在感を拡大し続けており、経済をけん引してきた。
ラストマイル輸送から長距離輸送まで用途が広いため、堅牢制と効率性、そして架装における汎用性も求められる。それに応じて積載量、ドライブトレーン、キャブオプションなども広範となる。
この度ローンチされたのは、GVW6.2トンのダンプ完成車から同16トンのトラックまで7車種。このクラスにもCNGエンジンの設定があり、排気量3.8LのCNGエンジンは85hpと285Nmを発揮する。
また、K.14「ウルトラ」キャブのダンプ完成車では、キャブエアコンが標準化した。インドのトラックのエアコンなしという伝統(?)は、ついに破られたようた。
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