路線バスの経路の引き方にはいろいろなパターンがあるが、今回話題にするのは「同じところを通らない路線」である。
ちょっと考えると「あぁ、循環系等のバスね」と気が付くが、山手線や大阪環状線のように内回りと外回りがあれば戻ることもできるし、2駅間をどちらの方向からでも行くことができる。だが、なかにはそれすらも不可能な路線も多々存在するのだ。そこで今回は往復で違う道を通るバス、そのワケをご紹介。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
バスならではの循環路線
バス路線は全国に無数にあるが、それらすべてを網羅することはほぼ不可能だ。今回は東京都内の路線で紹介するが、全国的にもおそらく似たような路線があるはずなので、探してみていただきたい。
バスにおける循環路線とは始発と終点が同じ路線と定義することができるだろうか。この場合、サークル(輪)になっている路線だとは限らない。同じ経路を往復するのだが、折り返し地点で終点とはならず継続して始発地に戻るのも循環路線のひとつと言える。
東京都内では都営バスの「池86」「早81」系統が代表例だろうか。どちらも渋谷に関係する路線だ。例えば池86系統の場合は池袋駅東口(あるいはその周辺)が始発地で、ほぼ明治通りだけを走り渋谷駅を目指す。山手線や副都心線とほぼ並行する。
しかし大ターミナルである渋谷駅前が終点かといえばそうではなく、池袋から走ってきて原宿を過ぎたあたりで山手線をくぐり、神南一丁目を経由してスクランブル交差点やセンター街の目の前にある渋谷駅西口に停車、渋谷駅を正面にして山手線ガードをもう一度くぐり、明治通りに出て渋谷駅東口に停車、そのまま池袋駅東口を目指して戻っていく経路だ。
池86系統はこのような循環路線なので、渋谷駅で全員がいったん下車する必要はなく、必要であればそのまま乗り続けても構わない。つまり乗降できる区間は始発の池袋駅東口から終点の池袋駅前東口の各停留所ということになる。運賃は乗り通しても均一なので210円だ。
循環かつ一方方向の路線
さて今回、主題になるのは始発と終点が同じ路線で、さらに路線が一方方向にしかない循環路線だ。経路の関係で一部が重複するルートやバス停がいくつかあるが、なかなか壮大で時間がかかるルートだ。
前述のとおり、同じ道路を通り、または交差することはあるものの、終点まで乗り通すと始発地に戻ってくる。乗り過ごしたと思って慌てて下車して反対方向のバスに乗ろうとしても、基本的にそんな路線はないということだ。つまり反対側にはバス停はないという意味である。(一部の路線重複区間は除く)
コミュニティバスに多い形態
このような路線形態はコミュニティバスに多い。逆方向の隣のバス停まで乗ることは相当な遠回りになるばかりか、終点で一度下車して始発のバスに乗り換えなければならない不便さがある。
しかしコミュニティバスはその不便さを甘受しつつも、単純な1本の路線のみしか設定しないことによる経費の節減、わかりやすい路線、反対方向に走るバスが不要なことによる車両や乗務員の効率運用等のメリットが大きいことから、この形態をとるケースが多い。
記者が乗車したことがあるコミュニティバスで壮大な超大回り経路だったのが、渋谷区のコミュニティバスである「ハチ公バス」の「恵比寿・代官山循環 夕やけこやけルート」だ。始発地は渋谷区役所だが終点の渋谷区役所までは1時間20分程度かかる。
渋谷駅から東急東横線で3分の次の駅である代官山駅までの行程が、このバスに乗ると90分以上かかる。逆に代官山駅から渋谷駅までは一方方向のため15分もかからない。
それでも乗車数の多い人気のバス
そんな不便なバスにだれが乗るのかと思いきや、意外にも乗車は多く便数も多い。確かに鉄道駅相互間を単純に移動するのであれば、電車に乗ったほうが便利だし早い。
しかし駅間の停留所にある施設や坂の多い渋谷区内を短距離移動するのであれば、コミュニティバスは力を発揮する。特に高齢者やベビーカー利用のママが乗車するケースが多いように感じる。
運賃が100円で使用車両が日野ポンチョなので、狭い道にもどんどん入ってく。まさに「痒い所に手が届く」バスなのだ。もっとも、地方の自治体が運営する鉄道もバスもない交通不便地域で運行するコミュニティバスとは根本的に目的が異なるのは仕方のないことだ。
始発から終点まで乗る人はあまりいないだろうが、目的地の至近にバス停があればこんなに便利な乗り物はないというのが多くの東京都特別区が運行するコミュニバスの存在意義なのかもしれない。
ものすごく狭い急坂をポンチョが駆け上っていくのは乗っていてゾクゾクするほど痛快だ。ポンチョの実力がいかんなく発揮されているので、試し乗りをしてみるのも楽しい。
投稿 なんで往復で違う道を!? そのワケ教えます! は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。