もっと詳しく
下りなのに登ってる!? 坂道は危険がいっぱい!! 意外と知らない坂道での走り方

 運転免許を取りたての頃は、坂道にさしかかるとハンドルを握る手に汗がジワ~ッとにじんでくるほど緊張したなんて思い出がある人も多いかもしれない。しかし、運転に慣れてくるにしたがい、そんな初々しい感覚も忘却の彼方に……。

 しかし、坂道の運転には平坦な道とは比較にならないほど多くの危険が潜んでいる。緊張感なしに運転していると大きな事故に遭遇する危険も……。

 そこで今回は、坂道に潜む危険を検証。ベテランドライバーも今一度、坂道での走り方を見直してみてほしい。

文/藤原鉄二、写真/写真AC

【画像ギャラリー】ベテランドライバーこそ要注意!! 坂道に潜む危険を再チェック(11枚)画像ギャラリー


下り坂なのに登り坂に見える!? 目の錯覚に要注意

下りなのに登ってる!? 坂道は危険がいっぱい!! 意外と知らない坂道での走り方
久米島の「おばけ坂」は縦断勾配錯視が発生することで有名な坂。この坂は見た目は登り坂だが実はサイドブレーキを引かないとクルマが動いてしまうほどの下り坂だ。こうした坂は全国に多々ある。視覚は時にあてにならないことがあるのだ

 登り坂なのに下り坂に見えたり、下り坂なのに登り坂に見えたり……そんな錯覚にとらわれたことはないだろうか? 全国にはこうした「幽霊(おばけ)坂」と呼ばれる坂がたくさんある。この錯覚は「縦断勾配錯視」と呼ばれている。

 下り坂に見えて登り坂の場合はスピードダウンして渋滞の原因になるが、車速は低いため事故が発生するリスクは低い。

 危険なのは下り坂なのに登り坂である場合や、見た目では緩やかな坂であるものの実際には急な下り坂であった場合だ。本来は減速すべき道であるにもかかわらずアクセルを踏み込んでしまったり、エンジンブレーキを適切にかけられずフェード現象が発生してしまったりするからだ。

 縦断勾配錯視が発生しやすいのは、ふたつ以上の傾斜が異なる坂が続いている道。具体的には、急な下り坂と緩い下り坂が続いているような道だ。特に、傾斜の切り替わりの部分がくぼんでいるとより錯覚は発生しやすいという。

 写真のおばけ坂は縦断勾配錯視により、実は下り坂なのに登り坂に見えるという有名な坂。ただし、こういった道は決して珍しくはなく、一般道でも縦断勾配錯視が発生しやすい道路は多いのだ。

 そのため、視覚は時にあてにならないことがあると肝に銘じ、坂道を走る時は登りも下りもスピードメーターを確認してスピードの急な上昇や急な低下が発生していないかをチェックすることが必要となる。

急な登り坂には危険がいっぱい

下りなのに登ってる!? 坂道は危険がいっぱい!! 意外と知らない坂道での走り方
坂道の頂上の手間付近では坂を越えた先の状況を知ることができない。スピードを落とさずに走り続け、対向車線を越えてクルマが走ってきたら正面衝突の危険が。また、渋滞が起きていたら追突事故を起こしてしまう危険もある

 坂の頂上付近には、より多くの危険が潜んでいる。頂上の手前では坂がブラインドとなって対向車がまったく見えないため、対向車が猛スピードで車線を飛び出してきたりしたら回避するのが難しくなる。また、坂を登り切った先に駐車車両があったり、歩行者や自転車がいた場合に気づくのが遅れて衝突する危険も高まる。

 そういったことから、道路交通法第44条第1項では危険回避のためや一時停止などの指定がある場合を除き「坂の頂上付近、勾配の急な坂」での駐停車が禁じられている。違反した場合は、3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金に科せられる。

 これは意外かもしれないが、登り坂のほうが速度超過に陥りやすい。下り坂は意識的にブレーキを踏んで減速するが、上り坂では速度が落ちるためアクセルを踏んで車速を維持して登ろうとしがちだからだ。ただでさえ前述のように視界が悪い状態でさらにスピードが出ていると対向車や脇道から出てくるクルマや、自転車や歩行者を見落としてしまうリスクが高まる。

 また、明治大学先端数理科学インスティテュートの研究によると、坂の頂上を越えたところが左カーブになっていたりクランク状になってすると、坂を上ってくる対向車が逆走してくるように見える錯視が発生しやすいことがわかっている。

 この時に対向車を避けるために反対車線へハンドルを切ったりすると、正面衝突事故を起こしてしまう恐れがある。

(参考文献 : 「道路の錯視とその軽減対策」JST, CREST「数学」領域 「計算錯覚学の構築」チーム 明治大学先端数理科学インスティテュート 錯覚と数理の融合研究プロジェクト)

坂道での駐停車は超危険

下りなのに登ってる!? 坂道は危険がいっぱい!! 意外と知らない坂道での走り方
坂道での駐停車は緊急事態以外はしないことが鉄則。少しでもブレーキのかけ方が甘ければ自然発車が発生する危険がある

 急勾配の坂や坂の頂上付近での駐停車はサイドブレーキのかけ忘れや、かけ方が甘かったりすると動いてしまう危険がある。これは「自然発車」と呼ばれる。自然発車の9割超はサイドブレーキのかけ忘れ。

 自然発車事故の約83%が免許取得経過年数10年以上の運転者が起こしているという。つまり、ベテランドライバーになればなるほど気の緩みがあるせいか坂道での駐停車の操作ミスが発生しやすいということだ。

 というこで、教習所では必ず習っているものの、忘れがちな坂道での駐停車時の操作方法をおさらいしてほしい。

●AT車の場合
 シフトをシフトをN(ニュートラル)ではなくP(パーキング)に切り替えてパーキングブレーキ(サイドブレーキ)をかける。

●MT車の場合
 シフトをN(ニュートラル)に切り替え、パーキングブレーキ(サイドブレーキ)を確実にかける。

 交通事故総合分析センターの調査によると、自然発車における死亡事故の約60%が勾配3%以上の坂道で発生しているという。勾配3%とは、100mの距離を進んだ時に3m高くなる傾斜のことだ。この程度の傾斜をクルマで走行すると傾斜があることに気づかないことも……。そのため、平坦な道であると自己判断せずに駐停車時の操作はたとえ平坦と感じる道であっても基本を遵守するようにしたい。

 いったん自然発車が起きれば人力でクルマを止めることは困難となる。自然発車の死傷事故の多くは、止めようとしたドライバーがクルマの間に挟まれるなどして発生している。そのため、万一、クルマが動き出してもクルマの進路には絶対に入らないことも忘れずに!

坂道でのすれ違い方法も知っておこう

下りなのに登ってる!? 坂道は危険がいっぱい!! 意外と知らない坂道での走り方
狭い坂道では基本的には登りのクルマが優先だが、登りのクルマでも待避所が近くにある場合は待避所に入り、下りのクルマに道を譲ろう

 山道では、クルマがすれ違うに足る道幅が確保されていない狭い道が多々ある。そういった道でどちらが道を譲るかでイライラした経験がある人も多いだろう。しかし、こと坂道に関しては推奨されている優先順位がある。

 教習所でも、坂道ですれ違う時は登り坂での発進は難しいため、下りのクルマが登りのクルマに道を譲ると指導している。ただし、登りのクルマであっても近くに待避所がある場合には待避所に入って対向車に道を譲ることがマナーとされている。

 ただし、ガードレールがなく片側が転落の恐れがある崖になっている道路の場合、登り下りに関係なく崖側を通るクルマが安全な場所に停止して道を譲ることが推奨されている。

 危険な崖側を走るクルマを優先すべきでは? と思う人もいるだろう。これは崖側を通るクルマがギリギリのスペースで操作をするとちょっとしたミスで転落する危険が高まるため、すれ違いが完了して安全にクルマを操作できるスペースが確保できるまで操作をしないほうが安全度が高くなるという考え方に基づき推奨されているルールだ。

 いずれにせよ、坂道かつ狭い道でのすれ違いは平たんな道よりも危険が高まることを肝に銘じ、譲り合いの心を持って走ることが重要だ。

ブレーキのフェードに要注意!! 下り坂の走り方

下りなのに登ってる!? 坂道は危険がいっぱい!! 意外と知らない坂道での走り方
下り坂でブレーキの利きが悪くなったと感じ、待避所を発見した場合、躊躇することなく待避所へ避難し、ブレーキの熱がとれるのを待とう

 下り坂で大事故を起こすリスクがもっとも高いのがブレーキがきかなくなる「フェード現象」と「べーパーロック現象」だ。どちらもフットブレーキの使い過ぎが原因。

 フェード現象は、ブレーキパッドが過熱することで摩擦材が熱分解され、それにより発生したガスの膜がブレーキローターの間に入り込むことで摩擦力が低下してブレーキが利かなくなる現象だ。

 もういっぽうのベーパーロック現象は、フットブレーキにより発生した摩擦熱によりブレーキフルードが沸騰して気泡が発生することで油圧がブレーキフルードに伝わらなくなってブレーキが利かなくなる現象だ。

 これらの現象を防ぐには、フットブレーキに頼りすぎずにエンジンブレーキを併用することが必須となる。AT車の場合はローに入れる、MT車の場合は下り坂の勾配に合わせてギヤを下げて減速するという基本を守って走行しよう。

【画像ギャラリー】ベテランドライバーこそ要注意!! 坂道に潜む危険を再チェック(11枚)画像ギャラリー

投稿 下りなのに登ってる!? 坂道は危険がいっぱい!! 意外と知らない坂道での走り方自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。