BMWのビッグクーペ、8シリーズがマイナーチェンジを実施した。リリースによると、主な変更点は内外装の見直しに留まるようだが、その圧倒的な存在感と余裕綽綽の走りはさらなる高みに達したかのよう。ボディタイプを問わず、このコスチュームを着こなす難易度はかなりのもの。乗り手のセンスが問われる。
【写真20枚】颯爽と乗りこなしたいバイエルンのトップ・オブ・クーペ、8シリーズの詳細を写真で見る
ボディは3タイプ選択肢は全18モデル!
アウディやメルセデスが時代によって車名のルールを何度か変更してきたことを思えば、BMWは比較的早い段階で「3」「5」「7」を固定、さらにSUVは「X」、4ドアクーペなどニッチなプロダクトは「2」「4」などの偶数を割り当て、増殖する商品群を車名で分かりやすく振り分けた。そんな中で、ラージサイズのクーペだけが「6」と「8」を何度も行ったり来たりして、BMW社内での迷いが露わになったように見えた。個人的には、「6」はおそらく「7」に近い「5」のクーペ、「8」は「7」のクーペ、みたいな位置付けなのではないかと思っている。
「8」を名乗るシリーズがマイナーチェンジを受けた。ハードウェアは基本的に変わらず、主にデザイン関係の変更にとどまっている。もっとも分かりやすいのはキドニーグリル内に照明が仕込まれて(M8を除く)、夜間には視覚的にグリルが浮かび上がるようになったこと。LEDの価格が以前よりもこなれてきて、各社ともLEDを使った装飾には余念がない。
あらためて日本仕様の8シリーズの価格表を眺めてみたら、18モデルもあって驚いた。内訳は、クーペ/カブリオレ/グランクーペにそれぞれ4種類の仕様、MはMパフォーマンスモデルのM850iがクーペ/カブリオレ/グランクーペの3種類、M8がクーペ/カブリオレ/グランクーペの3種類となる。駆動形式はFRや4WDが入り交じっていて、価格は840iグランクーペMスポーツの1198万円からM8コンペティション・カブリオレの2587万円まで。このあたりの価格帯に躊躇なく手を出せる人にとっては選択肢がたくさんあって、さぞや悩み甲斐があるに違いない。
今回の試乗車は全18モデルの中から840iグランクーペ・エクスクルーシブMスポーツ(1321万円)、M850i xDriveカブリオレ(1907万円)、そしてM8コンペティション・クーペ(2477万円)の3台で、ボディタイプとパワートレインがそれぞれ異なっている。つまり、4ドアクーペとカブリオレと2ドアクーペ、3L直列6気筒ターボ+FRと、4.4L V8ツインターボ(530ps)+4WDと、4.4L V8ツインターボ(625ps)+4WD/2WDである。ちなみに、8シリーズにはこの他に840dというディーゼルエンジンも用意されている。
これはあくまでも個人的見解なのだけれど、BMWの数あるモデルの中で、自分はi3を除けば8のグランクーペのスタイリングがもっとも好みである。無理や我慢のないラインと面の構成がエレガントなフォルムを見事に作り出している。ただボディサイズがちょっと大きいが難点だったので、4のグランクーペが出ると聞いたときには小躍りしたものの、実車には8のような伸びやかさが感じられず、8を無理矢理デフォルメしたように感じたと同時に、綺麗なデザインとはある程度のサイズ感も必要なのだと悟った。
3車3様の個性がパフォーマンスに現れる
3台の中ではもっとも非力な840iグランクーペ・エクスクルーシブMスポーツは、それでも340ps/500Nmを発生。さらに今回はこのクルマだけがFRだったので、前後重量配分は前軸重/後軸重とも980kgで、BMWの大好きな前後50:50を実現していた。後輪だけで受け止めるにはむしろこれくらいのパワーのほうが扱いやすく現実的で、前輪が駆動力を持たないがゆえのスッキリとしたステアリングの手応えと、ターインでのスムーズな所作はFRらしさを存分に満喫できる。
3025mmのホイールベースは2ドアのクーペやカブリオレに対して+200mm伸びており、そのぶんグランクーペの後席はレッグルームに余裕があって、大人ふたりがゆったり着座することができる。フツーのセダンに飽き足らない方がスタイリング優先でこのクルマを選んだとしても、パッケージという機能性もきちんと確立されているので不満を抱くことはないはずだ。
BMW M社が開発するモデルは現在、”Mパフォーマンスモデル”と”Mハイ・パフォーマンスモデル”と呼ぶふたつのカテゴリーに区分されている。簡単にいえば、後者がM3やM5などサーキット走行でも耐え得る性能と機能を備えたいわゆる”M”で、前者はそれよりもオンロード性能に寄せたセッティングとなる。
さり気なく華やかなイルミネーテッドグリル
M850i xDriveカブリオレはM8と同じ4.4LのV8ツインターボを搭載するものの、750Nmの最大トルクはM8と同じながら最高出力は530psで、M8よりも抑えられている。
xDriveは4WDといっても前後の駆動力配分を随時可変し、基本的には後輪寄りに配分されるので、FRの操縦性を維持したいという作り手側の思惑が透けて見える。そうはいっても750Nmという強力なトルクを備えているので、840iと比べれば前輪に駆動力がかかっていることは常に意識させられる。ハンドリングはリアに標準装備されるアクティブMディファレンシャルのセッティングが絶妙で、後輪左右の駆動力を状況に応じて随時最適化するため、とにかくきわめてスムーズによく曲がる。ハンドリングとパワートレインの観点だけで見れば、今回の3台の中ではもっともバランスがよかったと感じた。
目元にアクセントが加わり表情はさらに精悍に
そしてM8コンペティション・クーペである。正直なところ、自分ごときの運転スキルではそのポテンシャルを余すことなく引き出すことは不可能で持て余してしまう。さまざまな電子制御デバイスがつたない運転を積極的にサポートしてくれるので気持ちよく走れるけれど、運転しているのか運転してもらっているのかよく分からなくなってしまう場面もあるほどだ。M8には2WDモードもあるので、腕に覚えのあるドライバーがサーキットでこのクルマをFRで振り回したら、きっと楽しくてしかたないだろうなということは容易に想像が付く。M8は、そういう孤高の存在なのである。
投稿 【BMW8シリーズ比較試乗】ボディは3タイプで選択肢は全18モデル! 颯爽と乗りこなしたいバイエルンのトップ・オブ・クーペ は CARSMEET WEB に最初に表示されました。