箱根駅伝の走者として注目を集め、入社した実業団の陸上部が翌年廃部になり、俳優になることを決意した和田正人さん。
「D-BOYS」のオーディションで特別賞を受賞し、2005年に『ミュージカル テニスの王子様』で俳優デビュー。
『不信のとき~ウーマン・ウォーズ~』(フジテレビ系)、『非公認戦隊アキバレンジャー』(BS朝日)、連続テレビ小説『ごちそうさん』(NHK)、映画『空母いぶき』(若松節朗監督)など、次々とドラマ、映画、舞台に出演することに。
◆30代後半まで怒鳴られまくる…でも覚悟を決めて頑張った
念願の俳優人生がスタートし、ドラマにも出演するようになった和田さんだが、最初はかなり苦労したという。
「チャンスはいっぱい与えていただいたけど、ことごとく空振っていったというか…。失敗したり、怒られてばかりでした。
初めて出た連続ドラマが、『不信のとき~ウーマン・ウォーズ~』という米倉涼子さん主演のドラマで、『大奥』なども撮られている林徹監督だったんですけど、本当にボロクソに怒られました。
サブから監督の怒鳴り声が聞こえてくるんですよ。『おーい! こら、何をやっているんだ?』って、ずっと怒られてばかりで。天井からガンガン聞こえてきて、『すみません』って…もうこんな状況ですよ。
でも、愛があったんですよ。昔ながらの監督でめちゃくちゃ怒るんだけど、『おい、メシ行くぞ』って連れて行ってくださったり…。本当によく怒られましたけどね。30後半くらいまでずっとそんな感じでした。さすがに最近は、そんなに怒られる年齢ではなくなりましたけどね(笑)」
―辞めたいと思ったことはありますか?-
「それはないです。死ぬまでやろうと覚悟を決めてこの世界に入ったので、辞めようと思ったことは一度もないです。
そうじゃないと、僕を後継者にと考えてくれていた恩師や父親に会わせる顔がないですから。僕が小さいときに両親が離婚して、父親だけなんですけど、再婚もせず、酒もタバコもやらない、仕事一筋の父親の唯一の楽しみが僕の陸上を応援することだったんですよ。
そんなオヤジ、お金もいっぱい出してくれたオヤジを裏切ってこの仕事をやっていますからね。陸上を辞めて俳優になったのに、辞めたらそれこそ人として終わっていますよね、僕は。だからそれくらいの覚悟で俳優になる。陸上を辞めて俳優として頑張るからって」
―お父さまはどのように?-
「最初はやっぱりちょっとだけ疎遠な時期はありました。学生時代に陸上をやっているとき、シューズを買いたいけどお金がないと言ったらすぐに買ってくれたりだとか。オヤジも別にお金があるわけじゃないけど、頑張って買ってくれたし、ご飯が食べられないって言うと1万円渡してくれたり…そういうことがいっぱいあったんです。
でも、俳優になると言って陸上を辞めたら、ちょっと甘えようとしても、全然みたいな感じはあったんですけど、そこから少し経ってテレビに出るようになったら、本当に手の平をコロッと返して、『次、何に出るんだ?』って(笑)。そのときはすごくうれしかったですね。
あともうひとりのオヤジって呼べるような高校時代の陸上部の監督も、朝ドラに出たときに、『こいつ、これでまずは一人前になれたな』と思ってくれたみたいで、そこからすごく認めてくれるようになりました」
◆連続テレビ小説に出演してようやく俳優と認知されるように
2007年、『死化粧師 エンバーマー 間宮心十郎』(テレビ東京系)に主演。遺体を処置して生前の姿に修復する特殊技術者、エンバーマーに。2012年には『非公認戦隊アキバレンジャー』(BS朝日)に主演。赤木信夫/アキバレッドを演じた。
―2007年にはドラマで主演もされていますね-
「デビューして2、3年でしたし、本当に事務所のおかげです。謙遜(けんそん)でもなんでもなくて、演技もそんなにうまくなかったし、売れているわけでもない。社長とかスタッフが一生懸命頑張ってくれたおかげだと思います。
多分僕はそんなに冒険できるタイプじゃないと思うので、大手に入りたかったんですよね。大きな母体の簡単には潰れないところ(笑)。会社で廃部を経験しているから、潰れないでマネジメントがしっかりしていて頼れるところに入りたいなと思っていたので、願い通りになって良かったです」
2013年には連続テレビ小説『ごちそうさん』(NHK)に出演。主人公・め以子(杏)の小学校時代の同級生・泉源太(愛称:源ちゃん)役を演じた。
―『ごちそうさん』の源ちゃん、良いキャラでしたね-
「そうなんですよ。10年かかりましたけど、本当にあそこですね。『ごちそうさん』からやっと、ちゃんと俳優らしく生きられるようになったのは」
―取り巻く環境も明らかに変わったのでは?-
「はい。やっぱりちょっと認知されるようになりましたね。あの後、仕事もずっと途切れずにやらせてもらえるようになりました」
―デビューされてからわりとコンスタントにお仕事をされていますね-
「そうですね。坊主にしたときくらいですね、空いたのは。坊主頭にしたときは2カ月くらい仕事ができなくて…というのはありましたけど。そのときは、かつらくらい用意してくれよって事務所に思いましたけどね(笑)」
◆陸上選手として唯一心残りだったことをドラマで役を借り実現
2017年にはドラマ『陸王』(TBS系)に出演。和田さんは、陸上競技部員の平瀬孝夫役を演じた。
「あれも運命的だなあって思いました。僕は陸上で実業団まで行っているんですけど、実業団で唯一心残りだったのが、実業団駅伝の『ニューイヤー駅伝』を走れなかったことだったんです。
『ニューイヤー駅伝』は走りたいなと思って実業団に行ったのに、それを走れずに廃部になって辞めちゃっているので、陸上で唯一心残りだったのは、あれを走れてなかったことだったんですよ。それがまさか俳優になって、役を借りて『ニューイヤー駅伝』を走ることになるなんて思いませんでした。『何なんだ?この運命は』って不思議でしたし、すごく感慨深い出来事でした」
―唯一やり残したことがドラマで実現するなんてすごいですね。走る姿がやっぱり画になりますね-
「ありがとうございます。僕はそんなに自分のフォームとか好きじゃないんですけど、『やっぱり走っている姿は全然違うね』と言ってはいただけますね」
―『陸王』の設定はケガが長引いている選手という設定でした-
「そこも僕と一緒なんですよ。僕もずっとケガ、ケガ、ケガだったので。実業団に入って1年目は、8カ月ぐらいケガをしていましたからね。ずっとケガで、唯一走れたのが年明けにレース一個くらい。あとは全然走れなかったんですよね。
ケガをする選手は結構多いんですけど、そういう人たちからどんどんどんどん切られていくという感じで。『陸王』で僕がやった平瀬も、ケガが長引いて結局選手生活を終えることになるという設定でしたし、いろんなことを考えた作品でした」
和田さんは、『花戦さ』(篠原哲雄監督)、『関ケ原』(原田眞人監督)、『空母いぶき』(若松節朗監督)など大作映画にも出演することに。
―大作映画の現場はいかがでした?-
「映画って特殊というか、大作映画だとエンタメ要素が濃くなってくると思うんですけど、そうなってくると予算の規模も全然変わってくるので、まずキャストが日本を代表するようなスターと出会えるじゃないですか(笑)。
それこそ尊敬している佐藤浩市さんとかに出会えて親しくさせていただいてというような繋がりができてくると、昔の映画の現場のお話とか、いろんな話を聞かせてもらって勉強させていただきました。
そういうことがあるので、そこでしか出会えないような人たちと出会える場、そういう人たちの芝居を生で見られる場としてとても貴重ですよね。あとやっぱり規模がでかいとセットがすごかったりとか、いろんなスケールの違いを経験することができるので、そういった意味でのおもしろみがすごく多いかなという気がします」
和田さんは『天使のナイフ』(WOWOW)、『パレートの誤算~ケースワーカー殺人事件』など社会派の問題作にも出演することに。私生活では3歳の長女と2022年10月に誕生したばかりの長男のパパ。次回後編では、イクメン生活、12月2日(金)から公開される映画『海岸通りのネコミミ探偵』の撮影裏話も紹介。(津島令子)
ヘアメイク:五十嵐千聖
スタイリスト:奥村渉