2040年までにEVとFCVの販売比率を100%にすると宣言しているホンダ。2022年夏、ホンダのプレミアムブランドとなるアキュラのEVコンセプトカー発表や、EV用リチウムイオン電池を生産する合弁会社の設立発表など、EVに関する動きが活発化している。
ここでは、次々と公表されたホンダのEV戦略を見ていくとともに、ホンダ四輪事業の実状と国や地域での電動車に対する政策を読み解いていく。果たして2040年までにホンダは全車EV&FCVを実現できるのだろうか?
文/桃田健史、写真/HONDA
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活発化するホンダのEVに対する動き
2022年夏、ホンダのEV戦略が次々と公表された。
2022年8月19日、アメリカ西海岸で開催されたヒストリックカーやカーデザインに関する恒例イベント「モントレーカーウィーク」で、アキュラ「プレシジョンEVコンセプト」が世界初公開された。同車のイメージを継承した量産車アキュラ「ZDX」を2024年に北米で、ハイパフォーマンスなタイプSを含めて発売する。
次いで、同年8月29日、ホンダが韓国LGエナジーソリューションと、ホンダ及びアキュラ向けEV用リチウムイオン電池の生産する合弁会社を2022年中に設立すると発表。投資総額が44億ドル(1ドル140円換算で6160億円)で2025年に量産を開始する。生産能力は最大約40GWhという。
こうしたホンダのEVに対する動きは充分に予測できた。なぜならば、ホンダは2022年4月12日、「四輪電動ビジネスの取り組みについて」として具体的なEV事業戦略を示してるからだ。
2022年から2020年後半にかけて、北米では、GMが開発しているEVプラットフォーム「アルティウム」を使い、ホンダ「プロローグ」とアキュラ「ZDX」を2024年に投入する。電池については、「GMの他にも、生産を行う合弁会社の設立を検討中」としており、それが8月発表のLGエナジーソリューションとの連携にあたる。
次に中国では、2027年までに10モデルのEVを導入する予定だ。直近では2022年4月に東風ホンダ「e:NS1」を発売し、同年5月から広汽ホンダ「e:NP1」の予約販売を開始している。電池については、いまや世界最大のEV向け電池メーカーとなったCATLとの連携をさらに強化するとしている。
そして、日本ユーザーが最も気になる日本市場でのEV戦略については、2024年前半に、「商用の軽EVを100万円台で投入」し、その後にパーソナル向け軽EVやSUVタイプのEVを“適時投入予定”という表現に留めている。
このように、ホンダEV事業戦略において、北米と中国が先行し、日本でのEV戦略はコンサバという印象に映る。
優先順位あり? ホンダ四輪事業の実状と国や地域の政策を読み解く
ホンダがEV事業戦略で、北米と中国を重視するのは当然のことだといえるだろう。2021年度決算報告書をひも解くと、四輪事業での販売台数はグローバルで407万4000台。長引くコロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻、半導体不足、そして中国上海のロックダウンなど、多様な要因によって前期比で10.4%減となった。
地域別で販売台数を見ると、もっとも多いのがアジアで202万2000台。このうち152万5000台が中国だ。次いで北米が128万3000台で、日本は54万7000台となった。つまり、ホンダにとって日本市場は、中国の1/3、また北米の1/2程度なのだ。
さらに欧州は10万台しかなく、中国の1/15、北米の1/13、そして日本の1/5という、ホンダにとっては“小さな市場”にすぎないのが実状だ。こうした販売量から判断すれば、中国、アメリカ、次に日本という優先順位となるのは当然である。ここに重ねてくるのが、国や地域での電動車に対する政策だ。
こうした政策をグローバル与えるインパクトという観点で優先順位をつけると、最も重要なのが欧州だ。
欧州連合(EU)の執務機関である欧州委員会(EC)が掲げる、欧州グリーディール政策がある。2035年までにEU域内で発売する新車は事実上、「EVまたはFCVのみ」との方針だ。これを受けるかたちで、英国ジャガーは2025年までに、スウェーデンのボルボは2030年までに、またドイツのメルセデス・ベンツは「市場環境が整えば、2029年までに」、グローバルで販売する新車100%をEVという、大胆なEVシフトを打ち出している。
また、欧州グリーンディール政策が、自動車産業における株式市場や企業買収に対して、ESG投資(従来の財務情報だけではなく、環境・社会性・ガバナンスを重視した投資)に大きな影響を与えている状況だ。具体的には、テスラやリビアンなどEV専用メーカーの株価を大きく押し上げた。
ホンダとしては現状で、欧州市場で販売台数は少ないものの、ESG投資の観点からはホンダ全体の事業方針としてEV強化を打ち出す必要性が高まったといえるだろう。
次に、中国では2010年代中盤から、NEV(新エネルギー車)政策を打ち出し、自動車メーカー各社に総販売台数におけるEV販売台数を一定割合以上に規定している。こうした、世界最大の自動車製造・販売国であある中国の政策を見据えて、ホンダのEV事業が着々と進む。
そして、アメリカでは2021年8月、バイデン大統領が電動化に関する大統領令を発令し、2030年までに新車(乗用車とSUVなどのライトトラック)の50%以上をEV、プラグインンハイブリッド、またはFCVとする方針を打ち出した。
また、2022年8月にアメリカの下院で「インフレ削減抑制」法案が可決された。ここにはEVに対する税額控除が加味されているが、EVに含まれる部品や部材の国や地域が限定的のため、現状で発売されている多くのEVが税額控除の対象外となる。
この法案に対応するためにも、ホンダとしてLGエナジーソリューションとの合弁事業を急ぐ必要があったと見られる。
そして日本市場だが、政府のグリーン成長戦略では2050年にカーボンニュートラルを目指すとしているが、EV販売台数を規定した義務化といった厳しい内容ではなく、あくまでも達成目標にすぎない。さらに、ホンダを含む日本自動車工業会としては、「カーボンニュートラルを達成する道筋はさまざまある」との立場で、欧州が政治主導で進む急激なEVシフトをけん制しているところだ。
●ホンダの挑戦は始まったばかり!! 気持ちのEVシフトは進むのか?
ホンダは2021年4月、三部敏宏社長の社長就任会見の中で、EVおよびFCVの販売比率を2030年に先進国トータルで40%、2035年に80%、そして2040年にグローバルで100%を目指すと宣言した。
これと連動して、ホンダ社内体制としては、本社と技術研究所の関係性のさらなる見直しや、F1撤退でF1技術要員のEV部門等への転属など、ホンダEVシフトを加速されている。
ホンダ社員の間でも「ホンダがいま、大きく変わろうとしている」という意識が高まっていることは確かだ。
いっぽうで、長年にわたる、四輪・二輪・汎用機における世界最大級のエンジンサプライヤーという立場でのホンダが「これからどうやって変わっていくべきなのか」と自問自答する人も少なくないようにも感じる。
ホンダの本格的なEVシフトは、いま始まったばかりだ。
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